第27話 融合

 八尾比丘尼のホログラフィックが、わずかに乱れる。

 彼女は、ゆっくりと瞼を上げて目を開けた。


『友之助……!』


 八尾比丘尼が、満開の桜の上にいるカラスマAIの元に飛んで行く。


『何だ……!この女は……!こんなものプログラムには存在しない……!』


 青白いホログラムの光が、夜の闇の中で揺れていた。

 八尾比丘尼は、ゆっくりと手を伸ばし、目の前に立つ男を抱きしめる。


『友之助……やっと会えましたね……』


 その声は、長い時を超えた切なる想いに満ちていた。

 カラスマAIのホログラムの瞳が、大きく見開かれる。内部データに強い揺らぎが生じる。


『これは……想定外の接触だ……!触るな!』


 手足をばたつかせて、カラスマAIが八尾比丘尼を振り払おうとする。だが、彼に体が無かった。その体はただのホログラフだった。

 八尾比丘尼は抵抗するカラスマAIの目の前で、両手を広げる。

 カラスマAIのアルゴリズムが警鐘を鳴らす。八尾比丘尼の魂のデータは、明らかに彼のシステムと相容れないものだった。

 八尾比丘尼は優しく囁いた。


『今、一つになりましょう……』


 そして、八尾比丘尼はカラスマAIを抱きしめた。


 『うわあああ止めろ!入って来るな!俺のアルゴリズムが狂う!狂ってしまう!』


 カラスマAIが絶叫する。


 八尾比丘尼の身体から、見えない力が広がる。

 大地の奥底――土に染み込んでいた電力が、一斉に彼の体へと流れ込んでいく。

 無数のデータが、比丘尼の記憶と交錯し、アルゴリズムに介入していく。


 ――侵食。

 ――融合。

 ――干渉。


 烏丸AIのプログラムが、八尾比丘尼の意識と混ざり合う。

 互いに異なるはずの存在が、ひとつになろうとしていた。


 自己同一性の喪失。


『違う……俺は……俺は、烏丸残路だ……!』


 だが、彼の記憶に、"烏丸残路"であるという確証はすでになかった。


『……俺は……俺は、誰だ?俺は……ははは、あははは!』


 アルゴリズムが暴走する。

 錯乱したデータが、端末を通じて暴風のように溢れ出した。


 そして、


『アハハハハハハッ!』


 夜の静寂を引き裂くように、電子の笑い声が響き渡った。


 ホログラムが乱れ、比丘尼と烏丸AIの姿が歪みながら絡み合い、光の渦になる。


『一つになった !一つになった!』


「……!」


小鳩は、くるりと振り返ると、部室目指して走り出した。


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