第17話 お月様と永遠


「まあまあ、先生。お待ちしてました」

「おあがりください、どうぞ、どうぞ」


 玄関で待ち構えていたのは老夫婦だった。小鳩の祖父と祖母だ。残路は、気後れして後ずさった。


「いや……しかし……」

「孫からお話しは常々聞いていましたよ、今夜来られると聞いていて良かった」


 残路が小鳩を振り返る。小鳩は、悪戯っぽそうに笑った。


「お前……話したのか!?いつのまに……」

「ラインで一発だよ、烏丸先生」


 ヘッヘッヘッと忍び笑いしながら、小鳩がスマートフォンを顔の前に掲げる。


「ごはん食べて、泊まっていったら?先生?」

「おお、それはいい!そうしてください!」

「いえ、そんな、おかまいなく……!」


 小鳩に背中を押され、残路は玄関から家の中に押されるように案内された。


「先生が来ると聞いて、ささやかですが、夕食の準備もいたしました」

「わあ、すげえや。今日はご馳走だ」


 小鳩が食卓を見てはしゃぐ。テーブルの上には、カリカリに揚げられたカラアゲや、スベスベで身の厚い刺身や、フワフワに炊かれた白米、パンパンに皿に盛られたサラダが並んでいた。


「さあさあ、お父さんが帰ってきますよ」

「みんな椅子に座って座って」


 玄関を開ける音がして、父親が帰って来る。小鳩が「お父さん!おかえり!」と玄関に走って行った。

 祖父と祖母は、残路を見てにこにこ笑っている。父親が顔を覗かせて、残路に会釈した。


「お客様?あっ小鳩の先生か!お世話になってます!」

「は、はあ……こちらこそ……」


 残路は、たじろきながら挨拶をした。なるほど、この父と祖父祖母がいるから、小鳩のような男の子が生まれたのか。


「いただきます!」


 堺家族は、食卓を囲んで食事をしはじめた。残路もおっかなびっくり箸をとる。

 食事が終わり、風呂をいただき、残路は小鳩の部屋に案内された。

 小鳩が、残路の布団を持って来て、部屋にそれを敷く。


 残路と小鳩は、二人でベッドの上に座り、寄り添いながら夜空を見上げていた。


「なあ残路、お月様ってさ。ずっとそこにあるのに、なんであんなに綺麗なんだろう?」


 小鳩は、窓から夜空を見上げながら言った。 残路は横目で彼を見て、静かに言った。


「それは、小鳩が見る度に違う形をしているからだろう」

「そっか……じゃあ、桜も、毎年咲いて散るから綺麗なんだな」


「それは、小鳩が見る度に違う形をしているからだろう」

「……桜も、毎年咲いて散るから綺麗なんだな」


小鳩は納得したように笑った。そして、寂しげな顔をして微笑んだ。

八尾比丘尼は、桜の下で、友之助をまだ待っているのだろうか。


(だとしたら、桜を永遠に咲かせるって、良いことなのかな)



 

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