ダンシングパーリナイ

音心みら👒

ダンシングパーリナイ

 なんでもかんでも、辛いことばっかりだ……。

 人生お先真っ暗。

 自分がどうしたらいいのか分からなくなっていた僕は、占い師の元へ来ていた。


「僕、人生何をしたらいいのか分かりません……」


 ブラック企業で法外賃金・勤務時間で働かされ、結婚どころか婚活、娯楽にさえ手が回らない。

 やっとの思いで取れた半年ぶりの休暇。

 僕は娯楽で時間を潰すことよりも、これからの人生について相談することを選んだ。


「わ、僕は結婚とかできるんでしょうか!? ずっとこのままつらい日々を歩んでいくんでしょうか!?」

「……まぁまぁ。そんなに慌てないでください」


 占い師は静かに言った。


「これからあなたに素晴らしい世界を見せてあげましょう。きっと、楽しかった頃を思い出すことができるでしょう」

「それってどういうこ――――」


 僕は途中まで言いかけたが、最後まで言い終わることなく言葉を失った。

 ……目の前がライブ会場に変わっていたのだ。


「な、何ココ……」

「レディースエ〜ンジェントルメェ〜ン!」


 な、なんだあのトリ……。

 トリの降臨によって、何かの大会らしきものが始まる。

 トリがブツブツ、いやピヨピヨ言ってるが、あいにく僕はトリ語がわからない。

「レディースエ〜ンジェントルメェ〜ン」だけは聞き取れた。

 ……ちょ待てよ。

 なんか僕、布団でぐるぐる巻きなんですけど!?

 一応立ててはいるが、手も足も拘束され、歩くことができない。


「それでは早速出演者に登場してもらいましょうッ!」


 今度は聞き取れた。

 けど!

 そんなことよりこの布団どうにかしt……。

 その瞬間、僕の足元の床が無くなる。


「はっ!? え!? 何ごと!?」


 真っ暗ななぞのばしょを転がって行く。

 布団でぐるぐる巻のせいで、物理的に手も足も出ない。

 十数秒ほど転がると、さっきまで見ていたステージの上にぽつんと立たされているではないか。

 何が起こったのか、全く理解ができない。

 この場所も、状況も。

 するとトリが僕の元へやってきて、マイクを向ける。

 ……マイク、どうやって持ってるんだ?


「最強の布団ダンサー氏! 今回はどんな無双劇を見せてくれるのですか!?」

「む、無双?」


 僕が何をしろというのか。

 本当に理解ができていない。


「今日の天下無双ダンサーさんは冗談が面白い!」


 ……安い洋画みたいなこと言うじゃん。


「それでは行きましょう! ミュージック……スタート!」


 掛け声とともに、音楽が始まる。

 昔、少しだけダンスを習っていた時期があった。

 あの頃の自分が一番輝いてたな……。

 もう一度、あの頃のようにキラキラしてみたい。

 僕は不意にそう思った。

 ……やるか。

 布団ぐるぐる巻きで大したことはできないけど、ここはいっちょピョンピョン跳ねてみるのも楽しいかもしれない。


「行くぜ〜ベイベ〜!」


 ――――――――


「ハッ!」


 見慣れた寝室……。


「夢か……」


 昨日までどこかの海上にほっぽりだされる夢を九回連続で見て、今日は謎のダンス会場か。

 夢って変だな。

 思い返してみれば、なんであの状況で踊りだすんだよ。

 夢の中の自分のことも、同時に変だな、と思う今日このごろだった。

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ダンシングパーリナイ 音心みら👒 @negokoromira

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