海には入れなかった

姉が料理を作っている。


何を作るのかは知らないが、IHのヒーターで、IHの熱が出る? 丸い部分に直接食材を置いて作るらしい。


自分は何故だかその作り方に無性に腹が立って、文句を言い続けた。


「衛生的じゃない」


「蓋はどうするんだ」


その他にもわーわー言い続けたと思うが、姉はうるさいなぁ、とか言うだけで作り続けてる。


更には「そんなならムカつくなら、見なきゃいいじゃん。あっち行っててよ」と言ってきた。


腹が立って仕方がない!!


鍋の蓋で蓋された食材たちを、実力行使で散らばらしてやろうと思ったら、猫がニャーんと机に乗った。


アメショのショーちゃんだ!?


いや、違った。


ピンクの模様で、真っ白い部分が多いお人形みたいに可愛い子猫だった。


「危ないよ! 肉球焼けちゃうよ!」


子猫は机からIHのヒーターに飛び乗ろうとしている!!


「うおー!!」


「あっ! なにすんの」


自分は子猫を必死になって、守ろうと、IHの食材を散らばらした。


熱い! 手を火傷した!


「ぎゃー。熱い! 熱い 助けて!」


「自業自得じゃんか」


姉は食材を拾ってまた作ろうとしてる。


汚いんだよ! 出来ても食べないからな!


そう言いたいが、まずは火傷を治すのが最優先だ。


そうだ、海に入らなければ。


慌てて、海を探す。


見つけたのは、3階の窓からだった。


もう全身まで痛くてたまらないので「うわー」と半ばヤケになりながら飛び降りた。


なんたる愚かさ。


かなり高い位置からのバンジージャンプのような、自分が落ちていくのがはっきり解る。


地面までの距離が、近づくにつれてゆっくりな速度になって降りていく。


下の砂浜には、姉や嫌いな親戚たちがいる。


受け止めてもらえなくていいから! と言いたくなったが、自分の自重で潰れるのは愉快かもしれない、とクズなことを考える。


が、そんな考えはお見通しだったようで、みんな避けて自分はぐしゃっと変なポーズで固まって落ちた。


白い砂浜には血が混じるが、広い所なのであまり意味がない。


そんな、そんなことより海に入りたい。


自分は何とかゆっくり身体を動かすが、見えるのは波だけで海まであと300メートル近くある。


砂浜の方が高くなってるから、ゴロンゴロンと回転して行けばいけるかと思ったが、身体が変なふうに固定されてて、動けない。


「なんか、みじめだね」


嫌いな親戚たちが言う。


姉が言ったわけではないだろう。


優しい姉だ、でも酷いことをしたし、怒ってるかもしれない。


そう思って上を向いて姉を見たが、太陽が燦々と照っていて、逆光で顔が解らない。


けど、海にはつれて行ってくれないだろう。


そう思って目を閉じた。


途端に目が覚めた。


起きてすぐ思ったことは、IHでは食材だけを置いても熱が入らないのでは? ということだった。


やっぱり、自分の言う通りに、鍋の本体を探してくればよかったんだ。


何故、鍋の蓋だけで調理を!?





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