めっちゃ優しい悪役令嬢お姉様

なんだか自分がボロい服を着ている。


そして、そばには綺麗な黄色の服を着た「お姉様」がいる。


ペットの白い鳥が、ピピピ、と言って近づいてきて自分の肩に留まった。


「あら、あなた。まぁたそんなボロい服を着て‥…まったく、お里が知れるわねぇ、本当にわたくしと血が繋がってるのかしら」


酷いことを言われているのだが、自分は鈍感主人公になったかのように「てへへ、お姉様ごめんなさい」と気楽でいる。


夢だからか、この後のことがわかるのだ。


「ふん! 見窄らしいあなたには、このボロい服がお似合いですわよ! 早く着なさい!」


貰ったのは、青色のロングセーターだった。


白と青の毛糸で編まれた、大きな矢印模様が特徴だ。


膝ぐらいまで長さがあるので、デブな私でも背中が出ないし、かなりゆったりしてるのでボタンもとまる。


「ありがとう、お姉ちゃん」


「ふん! あなたに姉と言われる筋合いは無くてよ!」

「さぁ、早くどこかに行ってしまいなさい! 顔も見たくないわ!」


そういえば、友達と約束があるのではないかと思って、急いで出かけることにした。


いつものワークマンのサンダルを引っ掛けると「待ちなさい!」と姉からモンベルの山登りシューズと取り替えられた。


「いいの?」


そう言おうと思ったのに、姉はパチンと指を鳴らすと蝙蝠になってバササといなくなってしまった。


あっ! そうか、悪役令嬢吸血鬼なんだ、姉は。


こんな天気のいい日に、悪いことしたなぁ。


そんなことより、早く友達と富士山に登らなきゃ。


運動は嫌いだからちょっと憂鬱だけど、山ガール? の友達と初の登山なのだから。


しかし、初登山で富士山ってなんだ?


そしてサンダルで行こうとしてた自分って相当バカだな。


肩には白い鳥がいる。


毛糸のセーターが気に入ったようで、ピーチク歌ってる。


さぁ! 行くぞ!


と思ったら、すぐに樹海みたいなとこに、たどり着いていた。


友達はまだ来ていないなぁ。


というか、こんな樹海の前で待ち合わせなどしないから、自分が場所を間違えたのだ。


本当にバカだなぁ。


更にバカなことに、もう先に行ってるか〜と思って、樹海の中に足を踏み入れた。


大馬鹿だ。


そう思っているのは、第三者目線で見てる私だけなので、自分はスタスタ歩く。


「この靴歩きやすーい」とか言ってる。


鳥は、いつのまにかいなくなってた。


しばらく歩いたのか、へとへとになってた。


地面に座り込もうとすると、苔かな? ぬちゃっとして尻が濡れそうだ。


お姉ちゃんから貰ったセーターを汚したくなくて、下のほうのボタンを外して尻をズボンのみにする。


これなら、大丈夫。


しかしまずい、迷子になったのかも。


なんかデジャビュを感じながら、ため息を吐くと、なんか視界のすみに白いテーブルクロスが見えた。


思わず右側を向いた、すると、そこには。


「お姉ちゃん、何やってるの?」


「アフタヌーンティーよ。あなたには関係ないでしょう?」


スコーンにクリームとジャムをべったりつけて、かぶりついて食べている。


そうだ、ネットでこの食べ方が一番美味しく食べれるよって書いてたし、本場イギリス人もこうやって食べてるらしいなぁ。


「何やってるの、惨めったらしく見て。あなたも座りなさい」


「いいの? ありがとう」


椅子は初めからちゃんと二脚あったし。アフタヌーンティー用の銀色の三段重ねもちゃんと自分の分もある。

「美味しそ! ありがとうね!」


「ふん! がっついたらお取りあげすることよ! 落ち着いて食べなさい」


縦ロールのくるくる髪が綺麗なお姉ちゃんは、おしゃれな藍色のティーカップにミルクピッチャーから牛乳を、赤と緑のティーコゼー(お茶を保温するやつ)を取り外した中にある大きいティーポットから紅茶? を淹れて、私に差し出した。


というか、中華テーブルみたいにくるりと回転させるとティーカップだけがこちらに回ってきた。


「あれ? これ、ほうじ茶ラテだ」


「ふふん、あなたにはほうじ茶でいいことよ。どんどん飲みなさい」


「濃いめに出てて美味しい。サンドイッチも……食べていい?」


ふん、と無視された。


でも、口元にハムサンドや卵サンドがふよふよ飛んでくる。


「お姉ちゃん、自分で食べれるよ」


「なによ、わたくしは知らないわ? 勝手になさいな」


宇宙船にいるみたいだな、と思いつつ、一応手で捕まえて掴んでパクっと食べる。


美味しいのか、味は感じずにいた。


そのうち樹海だと思ってた所がバラ園みたいなところになってるし。


「お姉ちゃん、吸血鬼なのに、明るいの平気?」


「あなたに心配される程やわではなくてよ。さっさと食べてわたくしの目の前から消え失せなさい?」


言いながらも、喉の渇いていた自分がお茶を飲み干すたびに甲斐甲斐しく淹れなおして回転テーブルで回してくれる。


優しいなぁもう。


目を覚ましたくない、と思ってたのに、すぅと目が覚めた。


時間は早いが、心地よい目覚めだ。


ほうじ茶ラテは美味い。



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