思い出は売り払おう
いとうみこと
思いも断捨離しないとね
「ここは不毛の地だ。ここにいたら俺はダメになる」
って言って半月前に突然出てった慎吾。あたしとの生活はそんなに不毛だったの? あたしたちうまくいってると思ってたのに何がいけなかったの? ずっとフリーターだった慎吾と違ってあたしが正社員だったから? 収入も倍以上あったから? あたしの両親がそんな慎吾でも優しく接したから? だからって、二人で貯めてた通帳を持って行くのはルール違反だと思うよ。
可愛さ余って憎さ百倍! あいつが置いていった物は全部換金してやることにした。目標は三十万円。ハワイにでも行ってぱあっと使っちゃうんだ。
まずは衣類からね。古着が好きで着る物には気を遣ってたから意外といけるかも。メリカリで同じブランド物があれば⋯⋯お、これなんか一万円超えてるし。ラッキー! ビンテージのジーンズとか残ってればいいのに、さすがにないわね。そういえば、あたしが洗濯しちゃった時に大喧嘩になったっけ。あの時は確か半月くらい口をきいてもらえなかったなあ⋯⋯
いやいや、そういうジコチューな男なのよ、慎吾は。
あら、
ああ、ダメダメ、あんな裏切り者! ひとつ残らず売っぱらってやる!
あーっ、トレーディングカードあるじゃない。絶対あいつ忘れてったよ。バカだねえ。確か、価値のあるヤツはケースに入れて保管してたはず。これはオークション決定だね。いいデッキを作るためだからってかなりつぎ込んでたよねえ。レアなカードが出ると子どもみたいにはしゃいじゃって。もうあの笑顔は見られないのか⋯⋯
じゃなくて! 次よ、次!
布団、布団かあ。新品じゃなきゃさすがに売れないよね。処分するのに確かお金がかかるはずだし、一応取っておくかなあ。もし、慎吾が帰ってきたら困るし⋯⋯ちょっと待って、何これ、枕カバーに何か書いてある。
天下無双?
え、全然気づかなかった。いつ書いたんだろ。天下無双って並ぶところ敵無し的な? 学ランとかに書くヤツ? 慎吾、お前はガキか。何とか王に俺はなるみたいな話かよ。
慎吾ってば、ほんとバカ。こんなバカとよく五年も暮らしたよ。偉いぞ、あたし。偉かったぞ、あたし。
やだ、なんで涙が出るの。あたしの方がバカみたいだ。もうこの部屋にある物みんな売っちゃいたい。部屋ごとみんな、思い出もみんな⋯⋯
一ヶ月後、思い出の品を売ったお金であたしは引っ越しをした。新しい部屋で新しい思い出を作るために。
思い出は売り払おう いとうみこと @Ito-Mikoto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます