第2話

「つまり、僕は君の殺人事件を止めればいいってことね」


 幼馴染である探偵――松崎聡真まつざきそうまが偉そうにオフィスチェアへ座って、こちらを挑発的に見る。中性的な顔立ちをしている彼は、相変わらず美という表現が相応しい容姿をしていて、少し羨ましい。


 私は力強く頷いた。


「その通り! 私はまだ死ぬわけにいかないんだよ。それなのに、あの悪夢は私が死の運命から逃げられないと言いたげに何度もやってくるんだ……」


 大げさに嘆く私に、聡真はにこりと微笑む。


「大丈夫。人は皆死ぬから、死の運命から逃れられない人なんていないよ」


 私は思わず聡真を睨んだ。悔しいが彼は頭の回転が早く、昔から揚げ足取りが上手い。彼の言っていることは尤もなので、何も言い返せないのが余計に腹が立った。


「でも、私が死ぬのは今じゃない。猫を残して死ぬなんて論外だし、まだやりたりないことがたくさんある」


 不貞腐れる私に、聡真は「冗談だよ」と笑った。


「君には、僕の受けた依頼に協力してもらったことが何度もある。もちろん、君に協力するよ」


 そうウインクする聡真。性別問わず魅了する聡真の十八番であるが、長年の付き合いで見慣れている私にとっては、もうなんとも思わない仕草だった。


 私はフン、と顔を背けると、「ありがと」とお礼を言う。素直に顔を見て言わないのは、揶揄われたことへのちょっとした仕返しだ。


「揶揄われたからって、そんなに拗ねないで。さ、君が見た予知夢を教えてくれる?」


 聡真は私の仕返しをなんてことないように流す。少々腹が立ったが、私も大人なので、いつまでも意地を張っているわけにはいかない。私はため息を吐くと、聡真の方へ向き直った。


「それじゃあ、夢について話すね」


 私は記憶の糸を辿りながら、あの夢の話を始めた。

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