足が痛いシンデレラ
藤堂こゆ
足が痛いシンデレラ
昔、むかし。
あるところに、……ってめんどいから飛ばすわ。
みんな『シンデレラ』くらい知ってるよね? え?
知らなかったら幼児からやり直してきなさいね。
えーごほん。それで、ページをパラパラッと。
あーここだここ。
*
「私もお城の舞踏会に行きたいわ」
とシンデレラが言うと、どこからか不思議な声が聞こえてきます。
「そんなに行きたいなら、行かせてやろう」
「だれ?」
シンデレラが声のした方を見ますと、そこには紫色のローブを着た魔法使いのおばあさんがいました。
「あたしゃ魔法使いだよ。その昔は勇者パーティーの一員として天下無双だったのさ」
「魔法使いさん。でも私、舞踏会に着ていくドレスをもっていないわ」
シンデレラは悲しげな顔をしました。すると、魔法使いはにやりと笑います。
「そんなことは承知済みさ。だからあたしの魔法でなんとかしてやろう」
「ほんと? 嬉しい!」
おばあさんは高らかに魔法の呪文を唱えました。
するとあーら不思議。
シンデレラのみすぼらしい服がまたたく間にきらきらかがやくドレスに早変わり。灰だらけだった金の髪もきれいに結わえられて、宝石のついた髪飾りまでついています。
シンデレラはそれだけでアゲアゲです。
しかしすぐにしゅんとして言いました。
「でも、お城に行く馬車がないと」
「問題ない。それも魔法でちょちょいのちょいさ」
魔法使いのおばあさんが魔法の杖を一振りすれば、隣の畑の大きなかぼちゃがピカピカの馬車に早変わり。
「御者と馬も必要だね」
ともう一振り。そこらへんにいたねずみを二匹、きれいに飾った馬に変身させて、とびきり大きなねずみは立派な服を着た御者にしました。
「さあ乗っておいで」
「待って、くつがないわ。どうしましょう」
そう、シンデレラはもとからはだしだったのです。
「困ったねえ。あたしゃ、あるものを変身させることしかできないのだよ」
まゆをㇵの字にするおばあさんに、シンデレラはなんて無能なんだと思いましたが、もちろんそんなことを口に出すはずはありません。
「そうだ、これをやろう」
おばあさんはぽんと両手をたたいて、ふところからガラスのくつを取り出しました。
「どれ、はいてごらんなさい」
シンデレラが言われた通りにはくと、サイズはぴったり。
「これでいい。さあお行き。魔法は十二時になればとけてしまうから、それまでに帰ってくるんだよ」
おばあさんに言われて、シンデレラはうなずきました。
そして馬車に乗ろうと歩き出しましたが、なれないハイヒールに足首をくじきかけてしまいます。
「おっと大丈夫かい?」
「ええ大丈夫。魔法使いのおばあさん、ありがとう」
「ああ。楽しんでおいで」
馬車の窓から遠ざかるおばあさんを見つめながら、シンデレラはほんの少しだけ不安になるのでした。
*
さてお城についたシンデレラ……っとここも省略。
次は王子とダンスね。
*
「うるわしき姫よ。ぼくと踊ってください」
差し出された王子の手を見て、シンデレラは迷いました。
だってハイヒールで踊れる自信がありません。ここまで歩いてくるのだって大変だったのです。特に階段。何度あやうく足をくじかんとしたことでしょう。
「ごめんなさい。私、踊れませんわ」
シンデレラはついにそう言ってしまいました。
周りがざわめきます。
「どうしてだい?」
王子の顔もこわばっています。
実はこの王子、とてもナルシストでプライドが高いのです。ここでどこの馬の骨とも知らぬ娘に告った上にフラれたとなっては面目丸つぶれです。
「えーっと、えーっと」
シンデレラも困っています。実はまともな言い訳を考えついていなかったのです。
「私いま、とっても足が痛いのです」
うそではありません。
「そうか……それならしかたがない。ぼくもかわいい女の子に無理強いするほど乱暴じゃないさ」
このセリフに、三十人ほどのご令嬢方が失神されました。
「ええ。ではさようなら」
シンデレラはこれ幸いと逃げ出しました。まだ十二時には三十分はやいですが、これ以上ここにいてもいいことがあるとは思えません。
「待ってくれ!」
とつぜんのことに、王子はあわてて追いすがります。
「ダンスはしなくてもいいから……」
こそこそと、シンデレラの耳元でささやくと、シンデレラは顔を真っ赤にそめて王子をふりきりました。
「さようなら!」
じゃまなガラスのくつを両方ともぬぎ捨てて、一目散に走り去ってしまいました。
魔法の馬車でお屋敷に帰って、シンデレラはしくしく泣きました。
「『布団の上で話さないか?』って……。まさか王子さまがワンナイト目当てで夜な夜な舞踏会を開いていらっしゃったなんて……。幻滅しちゃったわ……」
泣いているうちに魔法はとけて、シンデレラはもとのみすぼらしいすがたに、馬車はかぼちゃに、馬と御者はねずみにもどりました。
シンデレラは痛む足を励まして台所に向かうと、ついさっきまで馬車だったかぼちゃを包丁で切ってスープに煮こみました。
かぼちゃ畑から勝手にかぼちゃをとったとわかったら怒られてしまうからです。証拠隠滅です。
「われながら天才だわ……」
でき上がったスープを味見して、シンデレラに笑顔がもどりました。
かたいかたいガラスのくつのことも、スケベな王子さまのことも、もうシンデレラの脳内からはきれいさっぱり消えていました。
一方王子さまは、シンデレラのナイスバディが忘れられず、国中の年頃の娘のもとに使いを送ってガラスのくつがぴったり合う人を探しました。
シンデレラの屋敷にも使いの人がやってきましたが、もちろんシンデレラが出ていくはずはありません。継母と義姉たちに釘をさされずとも、自ら進んでかくれてやりすごしました。
結局、シンデレラの足にしかフィットしないくつをはくことのできる娘は国中どこを探しても見つからず、あれは伝説の女神、トリの降臨だったのだということになり、ガラスのくつは神器としてあがめられることになりました。
シンデレラはといえば、継母たちの目をかいくぐって家出をし、ステキなダーリンをゲットして生涯ヒールなどはくことのない幸せな人生を送りましたとさ。
めでたしめでたし。
足が痛いシンデレラ 藤堂こゆ @Koyu_tomato
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