第3話

「最悪だ」

目を覚ますと、そこにはもう1つの見たことのある部屋だった。

「そうしたの?」

「ああ、昔の君か」

「じゃあ、これは夢じゃなかった。じゃあそうやってここにきてる?」

「おーい、声に出てるぞ」

「ああ、ごめん。今日は?」

「今日は11

「そうか、やっぱり一日経ってるのか」

「どういうこと?」

「いや、こっちの話」

「そう。考えるのは勝手だけど、私は何もわからないよ」

(そういえば清水って俺がこっちに来た時にあんまり何も焦ってなかったよな。そういう性格なのか?まあ、今考えても何も始まらないからまあいいか)

 「いやあ、まさか昨日この時代の海君が返ってくるとは思ってなかったから黒木和牛を使ったけどめちゃくちゃ怒られたよ」

 「そうなんだ。所で一昨日君は俺がこの先壊れかけるって言ってたけど、その理由かどうしてそうなるかを聞いていい?」

(特にこの答えで詳細が来るとは思ってない。それを逆手にとって何か情報を受け取る算段だ)

「いや、無理だね。詳細を言うと海君はそれを防ごうとするよ。そうすると、この私と海君が結婚したことは多分いや十中八九。だから言えないかな」

 海星が絶句していることを自覚するのに数十秒かかった。

「でも、一つアドバイスをするなら9年前なら、私のお母さんがその一年前に税理士の事務所はたたんではいるけどまだ資格を持っていたはずだよ。そして、その時のお父さんは現役の弁護士だったはずだよ」

 この時、海星はこのアドバイスを使うことで人生が救われるとは思ってもいなかった。

はいはい、それじゃあ着替えて。出社するよ」

「へ?」

「何よそんな芋虫みたいな顔して」

「い、芋虫?!」

(そこまで言わなくていいだろ)

「でも、俺仕事は何もできないぞ」

「そこは会社に連絡するから、大丈夫だよ」

(なんでこいつが、自慢げなんだ?)

 そうして、せかされながらもスーツに着替え電車に乗りこんだ。

 「まさか、改札が顔パスとはね」

「へへ、すごいでしょ」

「なんで、お前がそんなに自慢げなんだ?」

「だって、これは、私が作ったものなんだよ」

 「へえ、まさか君にそんな才能があるとは」

 「失礼だね、私もエリートなんだよ」

 「はいはい、そうですか」

 「ひどーい。まあ、着いたよ」

 「すごい。渋谷の中心でこれだけの設備がそろっているとは」

国内最大手のhoohleのオフィスだった。

「ふふん」

(だから、なんでお前はこんなに自慢げなんだ?)

「それじゃあ、入るよ」

「うん」

 そうして、彩華は何事もなくゲートを通った。

(あれ?そういえば全員いや俺以外が全員同じスーツに身を包んでいた)

そして海星がゲートを通ろうとすると『ブー』と機械的な音がエントランスに鳴り響いた。

「アハハハ」と手をたたいている彩華睨みつけながら。

「これはどういうことかな、彩華君?」

「おい、だろ」

「ああ、田中さん、言ってなかったけ?今この人記憶喪失だから」

「それ、本当なんですか?僕はちょっと怪しいと思うんですけど」

「本当だよ。めちゃくちゃ頭が悪くなってるよ」

 (え?こいつ、部長なの?最悪だ)

「すみません、清水部長。ゲートの通り方を教えて貰ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、そうだった」

 (こいつ、本当に忘れてるみたいだったぞ)

「本当は会社が特注で作ってる専用のスーツが社員証の代わりになるんだけど、それが無いなら少し時間がかかるけど虹彩認証で通ることが出来るよ」

虹彩とは黒目の周りの色のついた部分で人によって色や模様が違うものである。

『社員証が確認できませんでした』

「虹彩認証に変更」

『虹彩認証に変更。社員名を述べよ』

 (めっちゃ偉そうだな)

「中瀬海星」

『社員名簿に名前が存在することを確認できました。虹彩の読み取りを開始。動かないでください』

 そうして、読み取りを開始すること数十秒後……

『虹彩の読み取りに成功。ゲートを開放します』

「やっと開いた」

「お疲れ様」

「本当に長かった」

「それじゃあ行くよ。本当に始業に遅れちゃう」

「すみません清水部長。私はあなたが部長であると聞かされていませんですが、本日の晩ごはんは抜きということでよろしいでしょうか?」

「すみません、謝ります。あなたに回す仕事は会議の文字起こしです」

 涙目になりながら、仕事内容を説明している彩華を観ていると笑えてくる。

「わかりました。誠心誠意取り組ませていただきます」

「うむ、よろしい」

そうして、自分の席に着いた。

(あれ?なんで、机に何もないんだ?)

「すみません清水部長、パソコンはどこですか?」

「そんなの、机の中に入ってるVRゴーグルで……じゃなかったね。机の中にVRゴーグルが入ってるからそれを被ったら全部解決するよ」

「分かりました、ありがとうございます」

 そうして、机を開けるとそこには、ぽつんと一つだけVRゴーグルがおかれていた。

そうして、VRゴーグルかぶるとそこで画面が開いた。

『hoohleゴーグルを起動します。パスワード開錠方法を選択してください。①音声認証②虹彩認証』

「②の虹彩認証」

『開錠方法の選択を確認。虹彩認証を開始。認証が完了、前回開いていたデータを開きます』

(おお、これはすごい)

『新規メールが1件。件名:本日の仕事について 内容:会議の文字起こしをお願いします』

(確かにこれなら、高校生でもできる仕事だ)

『そして、この事業は……』

(どうしよう……眠すぎる。でもあらかた終わったから彩華にメールをしないと)

『件名:仕事終了のお知らせ 内容:先ほど送られてきた文字起こしが終わりましたので、データを転送させていただきます』

『件名:了解 内容:了解いたしました。それでは、追加の仕事を転送いたしますので、少々お待ちください。あと、10分後に私のデスクに来たください』

(しかし、便利だな。俺の時代だったらA〇pleが作ってたかな?しかしなんで、10分後にあいつのデスクに行かないといけないんだ?)

そうして10分後

「来たね、それじゃあ今から私と昼ごはんに行こう」

「ちょっと待ってください。どうして部長と昼ご飯を食べないといけないんですか?」

「私たちが夫婦だからじゃダメか?」

「ダメですよ第一俺は高校生ですよ?」

「高校生ってどういうこと?」

(やば?!言っちゃいけなかったか)

「それじゃあおとなしく私と昼ごはんに行こうか」

彩華の顔のしわがだんだんと濃くなってきいているのに気が付いた。

(やばい、怒らせた)

 「わ、分かりました。それじゃあ行きましょう」

 そうして、気まずい空気が漂ったオフィスを後にした。

「いやあ、危なかったね」

「なんで外食なんだ?」

「いやあ、こっちだと物価が高くなっててあんまり外食をするべきじゃないんだけどね」

「そう……なんだ」

「なんでそんなに海君が悲しそうな顔をするの?別に海君が気にすることは別にないよ」

「気を取り直して、それじゃあ頼もうよ」

「うん」

彩華は顔がうつむいていた。

そうして難なく昼飯を終えて会社に戻ると休憩時間終了まじかだった。

「はい、それじゃあ休憩は終わり!これから会議を始めるので会議室に集まってください」

(へ……?会議なんて聞いてないぞまさか……)

 彩華はこちらを向き「やっちゃった」といった。

(終わったら覚えとけ)

 そうして、会議室に入り席に着いた.

「それでは来月の合同プレゼンの作品を決めていきたいと思います。この会議に集積する人全員に先週通達したと思いますがこの会議で商品を一人一つ紹介してもらいます」

「それでは、私から発表します……。そうなるわけです」

 (どうしよう、眠い。昔から授業が嫌いだったのは退屈だったから眠かった。だがいつも日常にある商品を作るためにここまで地味な作業が入るとは思っていなかった)

「それでは、次田中さん」

「はい。私が提案するのは、『VR生活』です。これは、何かというと我が社で発売しているVRゴーグルのオプションの1種です」

「具体的にはどんなことが出来ますか?」

「VR内で好きな空間を作ることが出来ます。そして『かつ丼が欲しい』と思うと、本人がかつ丼を作ります」

「どういうこと?まさか、VRと現実世界の情報を同時に目に取り込んでいると言うこと?」

「その通りです。VRの中にいる本人はただロボットが作っていると思っているが本当は自分が無意識のうちに作っているということです」

「私は賛成です」

 会議室にいた1人が声を上げる。

「正気か?俺は反対だ。無意識のうちに料理させるなんて危険すぎる」

 そう言うと会議室の視線が一気に海星に向く。

「まあ言い方はともかく、その意見は私も正しいと思う。無意識下で火を使うというのはいくらなんでも危険すぎる」

「どうしてですか問題ないでしょ」

「じゃあ、田中が実験すればいいだろ。それで何もなかった問題ないとして証明すればいい」

そうして会社用のキッチンに向かった。

 (まさか、会社にキッチンがあるなんて)

「それでは実験を始めていきます」

『VRゴーグル起動。オプション自室起動』

「それでは行きますよ。カップラーメンが欲しい」

 そう言うと本当に体が動き出しカップラーメンを作り始めた。

 そうして3分待つと……

「ほら、できましたよ。カップラーメンできました」

「「おおー」」

「それじゃあいただきます。うん、普通に美味しい!」

「それじゃあ『カレー』作ってくれる?」

「それは、無理です。まだα版なのにそこまで難しい料理は危険です」

「なぜですか?私は通達でまで作るようにとお伝えしたはずです。なのにまだα版なんですね。あなたにはがっかりです」

 「待ってください。まだ私にもチャンスをください。1週間あればこれをβ版の完成版まで持っていけますそこまで時間をもらえれば……」

「無理です。合同会議は明後日です。あなたの提示する期間では間に合いません。今回は、運がなかったということで」

(すごい、それが仕事の清水。まるで氷のような性格をしてる)

「それでは、会議室に戻って会議を再開します」

 「「はい」」

そうして、結局満場一致で彩華の意見が採用された。

「それでは、会議を終了します。自分のデスクに戻ってください」

そうして、数時間後

「それでは、終業とします。残業をする場合はちゃんとタイムカードを押してください。それでは」

「「ありがとうございました!」」

 そうして帰る準備を終えた海星は会社の入り口で彩華を待っていた。

「お待たせ、中瀬君」

「いえ、まだ約束の1分前ですので大丈夫です清水部長」

「アハハハハ。もう敬語じゃなくていいのに。それじゃあ帰ろうか」

そうして2人で歩いてい自宅に帰った。

「なあ、俺朝からちょっと頭がいたいんだけど」

「え?!なんでそれを朝に言わないの、すぐに病院に行くよ!」

「なんで?別に明日でもいいよ。そこまで痛くないし」

「いや、だって君は血液g……そうかまだ知らないのか。まあとりあえず行くよ」

 そうして、急かされすぐに病院に行った。

「大丈夫だと思います。ただの貧血ですね」

「そうですか」

「まあ、そうやって焦るのもわからなくはないですから。お大事になさってください」

「先生、ありがとうございました」

そして、帰宅……

「今日は疲れた。もう寝る」

 そう言い残してベットに入って寝てしまう。

 隣にいた彩華の言葉を無視して。

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