天下無奴(KAC20255)

つとむュー

天下無双

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 ——サルが座布団の上でダンスを踊っている。

 ウキウキと、それはまあ楽しそうにウキウキと。

 そんな不思議な夢だ。


 夢の中で、俺はサルに問いかける。

「おまえはやっこか?」と。

 するとサルは答えるのだ。

ねこじゃないよ」と。


 そうか、ねこじゃないのか……。

 俺が納得したところで夢は覚めるのだ。



 えっ、なんで9回目だってわかるのかって?

 それはね、いつもはサルじゃないから。毎回ダンスする動物が異なっている。

 それを数えていたら9回目ってことになったんだ。



 8回目の夢はヒツジだった。

 座布団の上でチョコチョコと短い脚を交差させている。

 そんな可愛らしいヒツジに俺は問いかけた。

「キミはやっこ?」

 するとヒツジは答えたんだ。

やっこにあこがれてるけど、ねこじゃないよ」と。


 7回目の夢はウマだった。

 座布団でのウマのダンスには無理があるだろうと思ったが、意外とイケていた。

 俺はウマに問いかける。

「おぬしはやっこじゃろ?」

 するとウマは言った。

ねこじゃねえよ。サラブレッドなんだから完璧なアイドルだよ、見りゃわかんだろ?」



 こんな具合に、9匹の動物が夢に登場したんだ。

 それなら、10回目はもう分かっただろ?

 案の定、そいつは空からやってきた。

「トリの降臨!」

 見事に座布団の上に着地したトリは、華麗にダンスを舞い始める。ヒラリヒラリと広げた羽で空を切りながら。

 そうなると俺は聞かざるをえないのだ。

「おまえはやっこなのか?」と。

 トリは言った。

「ボクはねこじゃないよ、空を舞う妖精なんだから」と。


 11回目の夢はイヌだった。

 座布団の上でダンスするイヌは可愛いけど、訊いてみるとやっぱりねこじゃないと言う。

 12回目の夢はイノシシだった。

 イノシシのダンスはすごい直線的だったが、訊いてみるとこいつもねこじゃなかった。

 すると今まで登場した動物たちがぞろぞろと出て来たんだ。赤い雛段に登って整列し始める。まるでひなまつりだ。

 最後に最上段に座ったヘビが宣言を始めた。どうやらこいつが今年の代表らしい。


「我々は全員、ねこじゃない」


 12匹の動物たち。聞くところによると、それぞれが天下を司る神々なのだという。

 そして自分はねこじゃないと各々に訴える。

 天下無ねこだった。

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