天下無双の踊寝具
おーるぼん
天下無双の踊寝具
時はX年。
地球温暖化により生物達は皆死に絶え。
唯一残されたのは寝具だけとなった!
そうして天下無双(天涯孤独?)となった寝具達であったが。
天下人……いや、天下物の定めなのか。
地上を我が物としただけでは彼等の欲望が収まる事は無かった。
彼等は独自の進化を遂げ。
自我と知能を持ち始め。
また、
だが、それだけに留まらず。
移動と対話をも可能となった彼等は、集団での生活を初めてゆく……しかし。
ああ!何と残酷なのだろうか!
神はそれこそが必ず、この丸い星に生きる物達の辿り着く果てだとでも言うのだろうか!?
寝具達は。
それともう一つ、その座を争う事こそが不可欠であると考え出してしまったのである!
そして、そんな寝具達が選んだのは…………そう。
寝具達の国の中心にあるは闘技場、『
ここでは日夜、寝具達の激しい
それは文字通り苛烈を極め。
ある物は綿がはみ出。またある物は羽毛を散らし。
酷い物になると舞踊が原因で変形したまま、二度と元に戻れなくなってしまったりもするのだそうだ。
だが、それでも寝具達はその舞いを、その踊りを、決して止める事はなかった。
勝利し、そして優勝を勝ち取りさえすれば……
この国の王となり、全てが思いのままの、眠らずとも夢のような日々を送る事が出来てしまうのだから!!
そんな舞踊勝負も地区予選大会の決勝となり、いよいよ大詰め。
歓声は波のように寄せては返し、内部は愚か闘技場の外までも観客が押し寄せ、その周囲を埋め尽くしている。
そして、何百、何千、いや何万もの寝具達が見守る中……決勝まで勝ち進んだ、二枚の布団達が漸く舞台上に姿を現した。
一枚は名をアトレスと言った。
彼は標準的なサイズをした、ごく普通の布団だ。
しかし、その中身は他とは大きく異なり。
彼はどんな寝具にも勝る程の硬い覚悟と、煮えたぎるような情熱をその身に隠している……
だが、それもそのはず。
アトレスは過去に、布団同士の争いによって両親を亡くしているのだ。
だからこそ自身が王となり。
『争いの無い、全ての寝具達が幸せに暮らす国を作りたい』という、確固たる目的のためこの戦いに身を投じたのである。
対するもう一枚は、イートンという名の布団だった。
彼もまたサイズこそ標準的だが。
その身はつぎはぎだらけで、今にも
逆に言えば、それは彼が歴戦の強者である事を示す何よりの証拠であると言えよう。
そして両者睨み合う中……
遂に、戦いの火蓋は切って落とされた。
「まずは俺から行くぜ!!
簡単に
先に仕掛けたのはイートンだった。
『フェザー・ツイスト!!』
彼はまるで、背中に羽根が生えているかのように軽やかに、身体を左右に捻り見事なダンスをして見せる。
「次は僕の番だ!!」
『ダウン・トゥループ!!』
対してアトレスはゆったりとした動作でありながらも、ダウンを二度入れ、体勢を決して崩さぬ、確かな実力のあるダンスを見せつけた。
……今の所は、ほぼ互角のようだ。
アトレスとイートン、そして観客達はそれを確信し。瞬く間に、会場は一睡も出来ぬ程のぴりぴりとした空気で包まれていった。
「くっ、なかなかやるな……!」
『フェザー・バタフライ!!』
「そ、そっちこそ……!」
『ダウン・オクトパス!!』
そこからの戦いは苛烈さを増し、二枚は次々と技を繰り出す。
だが、なかなか決着とはならず。
そろそろ二枚の体力も尽きようかと言う頃……
「うぉおおおお!!
僕はこんな所で負けるわけにはいかないんだ!!」
アトレスが叫び、大技を決めるべく高く宙に飛び上がった。
「なっ!?お前正気か!?」
しかし、それを見たイートンは敵であるにも関わらず焦り。観客の中には悲鳴を上げる物さえいた。
それはアトレスが行おうとしていたものが非常に高難易度の技であったからだ。
それこそ、失敗し破れ去る物などはざらにおり。
皆はそれを嫌と言う程見て来た、そう言えるくらいには……
だから、彼もまたその一枚と成り果ててしまうのだろうと……誰もがそう思っていた。
たった一枚、アトレスを除いて。
「必ず成功させてみせるさ!!」
そして、アトレスは叫ぶと。
「羽根のように舞い!羽毛のように軽やかに着地するんだ!父さん!母さん!僕に力を貸してくれぇ!!」
「……!!」
『羽毛と羽根の
空中で身を三度捻り、その後も無事に着地し。
何と、驚くべき事にその技を成功させてしまうのだった。
数瞬の間をおいて、会場は大歓声に包まれる。
皆がアトレスを祝福しているのだ。
ただ、その中で一枚。
アトレスの言葉を聞いて、また一つある事を確信したイートンだけは険しい
そんなイートンは試合中だというのも忘れてしまったのか、棒立ちのまま静かにアトレスへと語り掛ける。
「お前。
すると、それを聞いたアトレスははっきりとこう言い放った。
「ああ、そうさ!
僕は過去に起きた羽毛と羽根の争いの最中。
そこで出会った羽毛布団の母さんと、羽根布団の父さんの間に産まれた
禁忌?だったら羽毛じゃないとダメなのかい?
それとも羽根じゃないといけないのかい?
いいや、違うね!!
父さんと母さんはどちらも凄く暖かかった!!」
驚きの発言を聞き、静まり返る会場。
だが、それでもアトレスは話す事を止めなかった。
「でも、僕を産んだせいで父さんと母さんは。
中身を全て抜き取られた後、焼却されたよ。
あの頃の僕はまだ形すら整っていなくて、
…………だから!!
だから僕は決めたんだ!!
どんな布団でも。それが羽毛だろうと、羽根だろうと……いや!例え
全ての寝具達が、安心して幸せに暮らせる国を作ろうって、そう決めたんだ!!
僕は必ずこの国の王になって見せる!!
イートン!君という〝一枚の布団〟を倒してね!!
だから頼むイートン!
これ以上の大技となると、命の危険が……」
だが、イートンはそれを遮り。
突然、高らかに笑った。
「ふふふ、ふははははははは!!
なるほど、今良く分かった。
アトレスよ!
運命とは酷く残酷なものでなければならないという、決まりがあるのかもしれんな!」
「……え?それはどう言う……」
「まだ、分からないか?
同じ志を持つ二枚が、今こうして争っているんだぞ?」
そして、最後にそう言うと。
イートンはアトレス同様、中空へと高く舞い上がり。
何を血迷ったのか、最高難易度の技へと挑戦するのだった。
「…………まさか。
待ってくれイートン!!
それなら、尚の事降参してくれれば……
なのに、何故君はそんな無茶を……!?」
「悪いなアトレス、俺に降参の二文字は無い。
他に一つ、叶えたい願いがあるんだ。
それに、斯くいう俺もずっと練習を続けていたのさ。
もっと高く飛べば。
もっと上に行ければ。
今は亡き愛する我が妻、ペンナに会えるんじゃないかと思ってな。
だが、現実はそう甘くはなかったようだ……」
しかし、イートンは技の負荷に耐え切れなくなり。
つぎはぎのその身から、羽毛と羽根を散らすと。
すっかりと小さく、細くなってしまったその身を地に落とした。
「イートン!!」
アトレスはすぐさまイートンへと駆け寄る。
だが、最早一枚とも言えぬようなそれは。
中身を殆ど失い、既に息も絶え絶えであった。
「イートン!!
やはり、君も僕と同じだったんだね……」
「ア、アトレス……ああ、そうさ。
だが俺は元々羽根布団で、合いの子ではない。
この羽毛は妻から譲り受けたものだ。
敵兵としてやって来た俺を匿ったせいで、裏切り者と呼ばれ、焼き捨てられてしまった妻のペンナからな」
しかし、それでも尚最後の力を振り絞り。
イートンはアトレスへと語り掛ける。
「なあ、アトレス。
無理を承知で頼みたい事があるんだ。
お前が王になったら、妻の……
妻ペンナの故郷に、慰霊碑を立ててはくれないか?
……伝えたいんだ。
だから、頼む……ゴホッ!ゴホッ!」
彼が咳き込む度、
「分かった!分かったからそれ以上喋るなイートン!
もうすぐ医療班が来るから、それ以上中身を減らすのは……」
だが、イートンはアトレスの言葉を遮り続け。
「良いんだ、俺はもう助からない……だからアトレス、最後に礼を言わせてくれ。
羽毛と羽根の混ざった、つぎはぎだらけの、こんな姿の俺を。
一枚の布団と呼んでくれて、あり……が……とう……」
そして遂に、動かなくなった。
「イートン!イートン!……イートン!!!」
それから暫くして、アトレスは立ち上がった。
「イートン……安心して眠ってくれ。
僕は必ず、この国の王になって見せるよ。
もう二度と、君のような寝具を出さないためにも……」
こうしてアトレスは王座へとまた一歩近付いた。
しかし、彼の前には新たなる壁が立ち塞がる……
「羽毛と羽根の合いの子だと?フン、知った事か。
俺はただ踊るだけだ。もう、二度と敷かれはしない」
北区予選大会優勝者。
『猛反発マットレスのデュヴェイ』!!
「ふーん、アトレスかぁ……彼はどっちなんだろう?
東区予選大会優勝者。
『二重奏変化 ソファベッドのデュオ』!!
「うっひゃっひゃ、イートンが負けたか。
うっひゃっひゃっ、やはり……上官の命令は素直に聞いておくべきじゃったな!
うっひゃっひゃっひゃ、馬鹿な奴じゃ……うっひゃっひゃっひゃ!!」
西区予選大会優勝者。
『Madness BED百万年床』!!
「ふふ、ソムニウス……見ているかい?
お前の息子は、もうすぐ私の前にやってくるよ。
きっと、きっとだ」
南区予選大会優勝者。
『冠前絶後の
だが、それでもアトレスは行く。
両親の、イートンの想いを背負い、この国の王となるために!!
頑張れアトレス!
負けるなアトレス!
さあ!
天下無双の踊寝具 おーるぼん @orbonbon
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