雨女と傘

チキンナゲット65p

雨を呼ぶ女の子

私は雨女だ。

私の雨の予感は当たる。

運動会、卒業式、入学式、修学旅行。

もちろん、私のクラスに雨男か

雨女がいたかもしれない。

しかし、家族旅行、友達との旅行、デート、

最近なら、推しのライブの日も雨。

ここまで来ると私が雨女である。

かなり強めの雨女だ。

写真を見返すと大抵、雨だ。

私の顔はいつも悲しそうな顔をしている。

友達に天気予報代わりにされることも

しばしばある。

「雨子ー、天気占ってよ」

雨子は私のあだ名である。

「この日、私彼とデートいくんだけど、

晴れるかな?どう思う?」

「だから、わかんないってば」

「雨子は遊ぶ予定あるの?」

「その日はなにもないけど…」

「外に出かけたりしないよね?」

「分かんないけど、出かけないと思うよ」

「じゃ、大丈夫だ!ありがとー!!」

「今日だって別に晴れてるじゃん!」

「今日はいいのー!この日さえ晴れならー」

「なら、雨降らせてやる!」

「ちょ、ちょっとマジでやめてね!」

そう言いながらケラケラ逃げていった。

「はぁ…」

流石に凹む。今回ばかりは

雨降ればいいのにって思う。


ちなみに、その日は晴れていた。

晴天とはまさにこのこと。

青々とした空が一面に広がっている。

私は明るい空に目を細め、

恨めしくも外を見る。

ほら、私が願っても雨は降らないんだって。


私は部屋でゴロゴロしていたが、

雲一つない晴れ具合に腹が立ち、

雨が降るか試してみようと思った。

玄関で傘を掴み、ドアを開けようとしたが

さすがに思いとどまる。

持っていく?こんな晴れてるのに?

私雨女だしさ。念の為さ。

流石に降りそうもなくない?

周りから変なやつだと思われるよね。

でも、晴れに負けたくないって思うし…

玄関でうだうだ悩んでいると

「恵、そこでずっと何してるの?」

はっとして振り返る。

ママが洗濯物を持ってこっちを見ている。

「いや、その、コンビニ行こうかなって」

「傘なんか持って?」

「えっと、雨降るかなーって」

「こんなに晴れてるのに?」

きょとんとした顔で聞いてくる。

「そのー、念の為?」

降水確率0%よーと笑いながら

ママは二階に上がっていった。

私は恥ずかしいやら、馬鹿らしい気持ちで

傘を戻した。

「いってきます」

消え入りそうな声で家を出た。

すると空はいくつか曇が浮かんでいた。

あんなに晴れてたのに。

私が外を出たから?

え、そんなことある??

空に面食らっていると、

「ほら、いい天気じゃなーい?

洗濯日和だわー」

ママがベランダから声をかけてきた。

「わ、わかってるよ」

「気をつけてねー」

ママは鼻歌交じりだ。

確かに雨は降らなさそうだ。



近くのコンビニまで行ってみたが、

ずっと晴れだった。

なんなら雲も消えていた。

イートインスペースでジュースを飲みながら

外の景色を眺める。

心が晴れるくらいの天気なのに

私の気持ちは晴れないのはなぜかしら。

家出るときは雲が出てたくせに。

私が遊びに行く日、

たまに不安になると雨になるのに…

不安になるのが悪いのかな。

雨が降るなんて思うから?

雨降ればいいなんて今も願ってるのに

降らないのはなんでなのよ。


そんな青い空を見ながら

夏もそろそろだなって感じる。

夏になると雨女は弱くなる。

もちろん、私調べだけどね。

日傘をさすほど強い日差しや暑さは

本当に大嫌いだが、晴れることが多い。

とは言え、暑い日に出歩きたくないので

やっぱり引きこもることが多い。


ポケットに入れたスマホが震える。

ライブの通知だった。

推しのライブが近々あるそうだ。

急いで内容を確認しに行くと

野外ステージライブが決定した。

私は条件反射でチケットを購入。

それだけで、私は嫌な気持ちを全て忘れ

SNSを活用して、行動予定や

買い物リストを作成し、推し活に没頭した。

SNSではみんな楽しそうにイベントの事や

自分のお気持ち発表をしている。

私も様子を見ながら楽しんでいたが、

「雨降らないよね?」という投稿を見て

手が止まった。


雨、振らないといいな。

私は天気予報のサイトに飛んだ。

天気予報は残酷だった。

降水確率90%の文字が。

急いで他のウェザーニュースや

予報アプリなど見に行った。

曇り後、雨。

降水確率は90〜100%。

推しのライブは午後からだ。

SNSでもと各々ツイートしている。

曇り後晴れだから、ライブ後に雨だ!

天気よ、耐えてくれー!

てるてる坊主だ、神頼みだ!

濡れてでも行く!など

各々の決意表明や悲痛な投稿をしている。

私がライブへ行くせいなのか。

私はSNSをみるのをやめた。

みんなの希望を奪うような、

みんなから非難されてるような、

私はひどく憂鬱な気持ちになった。

スマホを投げ出して、ジュースを飲む。

じゅぅぅっと空気が入る音がする。

もう空っぽか。

飲み終えたジュースを片手に、

ゴミ箱へ向かったとき

ビニール傘が目に入った。

その時、私はあの光景を思い出す。

家を出たら、雲が出てきてたことだ。

傘を持って玄関で悩んでいて

家を出る少し前は、確かに快晴だった。

私は、恐る恐るビニール傘を手に取った。 

そして、じっと外を見た。

信じられないことに、

ゆっくりと雲が出始めた。

私は驚いて傘から手を離した。

傘が床に落ちてカタカターンッと

軽快な音が響く。

店員さんが驚いて出てくる。

大丈夫ですか?と。

私はすいませんと小声で返事をしながら、

スマホを取りに戻る。

私はドキドキしながらも空を見る。

するとまた目を疑う光景がひろがった。

雲がゆっくり消えていくのだ。

5分もしないうちに、また快晴に戻った。

後ろからスタッフの声が聞こえる。

今日の天気はコロコロ変わるなー、と。


ライブ当日。

私は降水確率90%に立ち向かう。

今はまだ曇りだ。

私は傘を持たずにライブ会場へ向かう。

イベントに参加する際、

傘を持たなかったことはなかった。

いつも畳み傘を持ち歩いているからだ。

もかしたら、私が傘を持つから

雨が降るのかもしれない。

傘が雨を呼んでいるとしたら?

イベントとは違う興奮と不安が入り交じる。

私がこのライブを成功させるんだと

推しとファン一同の想いを背負っていると。

多分そんなことないのに。


ライブ会場に着いても雨は降っていない。

私の胸の高鳴りは激しかった。

ライブ会場はファンの待機列が見える。

物販の販売も始まっている。

雨さえ降らなければライブは始められる。

なぜだか私は勝利を確信し、

推し活の興奮を取り戻していた。

すぐに物販を覗いた。

推しのアクリルスタンド、キーホルダー、

うちわ、タオル、バスタオル、日傘、

Tシャツ、タンバリン、チェキに扇子…etc

最近は何でもあるなって思う。

タンバリンって何に使うのかな。

私は推し活買い物リストを見る。

定番のステッカーやキーホルダー、

野外フェス限定グッズを探していたら、

周りからえぇーという声が聞こえた。

夢中になっていたので気づかなかったが

小雨が降り始め、場外アナウンスで

ライブの見送りが検討されている様だ。

私は膝から崩れ落ちた。

やっぱり私は雨女だ。

もともと降水確率は90%。

私がライブのチケットを買ったときから

今日は雨だと決まっていたのだ。

近くにいたファンから声をかけられた。

大丈夫ですか?と。

私は半泣きになりながら謝る。

「私のせいなんです」

ファンの女性は驚きながらも

優しく話しかけてきた。

「そんなことないですよ。

あなたのせいじゃないですよー。

予報でも雨だって言ってましたし」

この人は私のせいでライブが

中止になったのに責めないなんて。

私はますます悲しくなった。

涙ぐみながらも

「私が傘を持たなくて…でも雨で…」

だめだ。ろれつが回らない。

この人に伝えたところで

意味がわかるわけないのに。

「あ、傘がないのかな?大丈夫ですよ、

タオルと傘は売ってましたよ!」

物販のスタッフさんも駆け寄ってきた。

「日傘とタオル、バスタオルもありますよ」

笑顔で励まそうとしてくれた。

「推しはどなたですか?用意しますよ!」

会場にいる人はみんな優しい。

そう思ったとき私はあることに気がついた。

「日傘…?日傘をください!!」

「はい!ありがとうございます!

日傘はロゴ入りになりますよー」

私は急いで財布からお金を渡し、

日傘を受け取り外へ出る。

確かに雨がポツポツ降っていた。

私は日傘をさして天に掲げた。


奇跡は起きた。

ゆっくりと雨が止み、

雲の間に晴れ間がさした。

一筋の光が地上を照らし

私はその光を一身に浴びる。

お釣り忘れてますよーと追いかけてきた

スタッフは唖然としていた。

周りのファンは晴れてきたことに

歓喜の声があがった。

さっき声をかけてくれた人が駆け寄って

抱きしめてくれた。

「あなたは最高の晴れ女じゃない!」

私が傘を持つから雨が降っていたんだ。






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