第56話 崩壊と再生
都の大通りから外れた裏路地も
震災の影響で建物は傾き
道の舗装が崩れ、ひどい有様だ。
私たちは辺りを警戒しながら
生き残ったティファン兵のもとへ向かった。
「……この者か」
奥まった路地のすみっこで
ティファン兵が倒れている。
起き上がれないのだろう。
ひどい傷だ。
まだあどけない少年のような兵士だった。
彼の周囲をぐるりと
剣を抜いたシュメシュの兵士が取り囲む。
「アディス様、
この男、血を流し過ぎています。
いつ事切れるか分かりません」
アディスは黙ってうなずき、
ティファン兵を冷たい視線で見下ろした。
若いティファン兵は、屈辱に満ちた目で
アディスをにらみ返す。
シュメシュ兵から怒号が飛ぶ。
「貴様!その態度はなんだ!慎め!」
「……うるせぇ……
シュメシュの王様がなんだってんだよ」
「死にぞこない。聞かれたことにだけ答えろ。
無駄口を叩けば、殺す」
少年兵は舌打ちした。
アディスは聞こえなかったかのように
続ける。
「ほとんどのティファン軍は、先の大地の揺れで
死亡したようだが、貴様らの国王はどこだ?」
「そんなこと、言わなくても分かるだろうが。
王は一番に逃げたさ。
あの揺れを神の怒りだと、恐れおののいたんだ。
王とともに、動ける兵士はみんな撤退したぜ。
……瓦礫に押しつぶされて動けず、
助けを求める仲間を見殺しにしてな!」
少年兵の言葉には
彼の王と同胞への怒りが込められている。
兵士にとって、仲間を捨てて逃げること。
兵士としての尊厳を疑われる行為だ。
シュメシュ兵も眉をひそめ、
嫌悪感を露にした。
「……俺らはメーレに着いたら、
まず民家を襲えと命令を受けていた。
ところが、街はもぬけの殻。
肩透かしさ」
彼は自虐的に笑う。
「…………ティファン兵の過半数が
ファトウマ様のために挙兵した。
だが、アルフォスの目的はレニ様だったろ?
これは、レニ様のための戦だよ。
俺たちは利用されただけだ」
「おい、レニの行方は?」
「……知るかよ。
……作戦では、アルフォスが死ねば
レニ様をティファンへ亡命させる手はずだったぜ」
「アディス様、
この戦ティファン国王がアルフォス様の思惑を利用し
シュメシュを手中に収めるための計画だったと、
考えるのが妥当でございます」
ハビエルの言葉にアディスは頷く。
「おい、王様
もういいか?俺、眠くて仕方ないんだわ。
……寝かせてくれ」
そう言うと、少年兵はゆっくりと目をつぶり
そして動かなくなった。
私はそっと彼の側に歩み寄り、
祈りをささげた。
私の様子をアディスらが黙って見つめているのを
感じる。
後方からためらいがちに声が上がる。
反乱軍として挙兵した者たちだ。
「この戦は、一体何のためだったんだ」
「俺たちのせいでシュメシュを
ティファンに売り渡してたかもしれない?」
「我々は騙されたんだよ」
「すべて、レニ様……レニのせいだったってことじゃないか!」
「そうだ!あのティファン女が全ての元凶だ!」
「皇后様がいらっしゃったときでも、あの女は
遠慮がなかった!」
これまで彼らが溜めていた
上皇とレニへの鬱憤が爆発している。
収拾がつかない。
「利用された俺たちがバカだったんだよ」
「アディス様への反乱を企てたなんて、
なんてことをしてしまったんだ……」
「やっぱり、死んで詫びるしかないぞ!」
反乱軍が武器を手に
アディスへ頭を垂れる。
彼らの瞳には涙があふれていた。
「我らの王、我々の行いは許されることではございません。
極刑に値する所業です。
命を以って、お詫びさせていただきます」
リーダー格の男の言葉に伴い、
反乱軍たちが自らの命を絶とうとする。
「な、、何言ってんの!?やめなさい!
本当にバカなんだから!!!」
私の大声に、全員の動きが止まる。
「このメーレの都を見なさい!
ひどく荒れてしまった、かつての面影は一切ないわ。
今この瞬間から私たちは、メーレを元の賑やかで
美しい都へと復興させなきゃいけないの。
ここに皆帰ってくるわ。
皆が安心した生活を取り戻すために
人手がいるのよ!?
勝手に死のうとしてんじゃないわよ!
反乱に加わった事を申し訳ないと本当に、
心からそう思うなら、
国王の為に、国の為に!
働いてつぐないなさい!!
死んで終わりなんて、そんな卑怯な真似
王妃である私が許しません!」
最後のほうは、言葉になっていなかった。
震えて涙が止まらない。
訴えかける私を、兵士たちが号泣しながら
見つめる。
アディスが私の肩を支えた。
「マリナに救われた命、決して無駄にするな!」
アディスの言葉に
その場にいた全員が心を動かされた。
「なんて、情けない。
自害しようとした自分たちは兵士の風上にも置けない。、
この先の人生、我々は己が持つ全てをかけて
アディス様とマリナ様をお守りいたします!」
兵士たちの瞳が輝き、心が一つになった
瞬間だった。
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