第27話 学びの日々
私の呼び出しに
ハビエルはすぐに応じてくれた。
「いかがなされましたか。
マリナ様からお声がかかるのは珍しいですね」
「ファトウマ様のこと」
「ああ……なるほど」
と言ってうつむく。
相変わらず無表情だが、
ライリカたちが危惧しているように
彼も心配していたようだ。
「毎日私の部屋に遊びに来て、
お茶飲んでしゃべって
夕方ごろに自室へ戻っていくんだけど。
侍女たちが、
ファトウマ様はアディスの誘いを断って
私のところばかり来てるって
宮殿内の噂になってるのを心配してくれてるの」
「マリナ様のお耳にも届いてしまいましたか。
ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません。
わたくしがファトウマ様の御相手をして差し上げて欲しいと
お願いしてしまいましたから……」
「ううん、それはいいの。
ファトウマ様と話してるの私も楽しいし、
あの子とってもいい子だし。
ただ……」
「はい、外野ですね」
「そう。ある事ない事言われても困るじゃん。
アディスが私にヘラヘラして、
大事な貿易相手国のお姫様である許嫁を
邪険に扱ってるとか言う人はいるよ」
「……ヘラヘラ…確かにおっしゃる通りですね。
しかし、マリナ様の視野の広さにはいつも驚かされます」
「普通に考えたら分かる事じゃん。
それに、アディスのパパも気分悪いんじゃないかな?」
「……ええ。申し上げにくいのですが、
マリナ様のお考えは正しいかと……」
「だから、何か適当に理由つくって
ファトウマ様が私のとこに来ないようにしよう」
「勉学に励まれている、ということにしませんか?
マリナ様は異国から来られた方です。
レニ様も嫁がれた際には教師を付け
王族としての心得に始まり、
シュメシュの言語、歴史、文化など幅広く学ばれました」
「うん。なんでもいいよ」
「では、教師を手配します」
「え!?まじで勉強しなきゃダメ!?
単に理由づけじゃないの!?」
ハビエルは私をゴミでも見るような目で見てから、
大げさにため息をついた。
「……マリナ様。
あなたという方は本当に奔放というか、
純粋すぎるというか……
遠くない日に、アディス様と一緒になられるんですよ。
いつまでも、異国からのお客様のようでは困ります。
ちょうどいい機会です。早速、教師をつけましょう」
私に拒否権はないようだ。
決定してしまった。
「しばし、アディス様も
こちらへのご訪問はお控えいただきますが
何卒ご理解ください。
何かありましたら、ナダに伝えますので」
「うん。分かった。
アディスには、その間ファトウマ様をしっかりと
おもてなしするようにお願いしてね」
「…承知いたしました。アディス様もおあずけですね」
しっかりお勉強されますよう」
ファトウマ様がいい理由になったと言わんばかりに、
意気揚々とハビエルは去っていった。
めずらしく冗談を飛ばしていったな。
――
翌朝私は久しぶりに早起きをして、
身支度を整え先生を迎え入れた。
シュメシュ王室お抱えの先生は、
聡明な美しい女性だった。
時に優しく、時に厳しい
メリハリのある指導がウリみたい。
まずは王族のマナーを学ぶ事から始まったのだが、
私が知らない事ばかりで最初から苦労した。
(王族やるのも大変だ)
毎日朝から八時間を週に六日、
私はみっちり先生とマンツーマンで勉強した。
週一回だけの休みは、
鬼の様に出された宿題をひたすらこなしていると日が暮れた。
ファトウマ様は最初こそ、
私としばらく会えない事をさびしく思ったようだが
異国の姫が家庭教師をつけていると聞くと
あっさり納得したようだ。
家庭教師とのスパルタ勉強は、
この世界では常識なのかもしれない。
毎日午後になると先生はお茶を淹れる様に侍女へ指示した。
軽食とお茶はいいリフレッシュになる。
天気がいい日は中庭で、
雨が降る日は客間で、
この時間は先生と生徒というより
友達みたいに雑談した。
先生の家族は代々、シュメシュ王室に仕える学者一家で
先生も女性ながらにして
子どもの頃から教師になるための英才教育をうけたらしい。
十五歳になると、見聞を広めるためにお父様と外国へ旅をした。
シュメシュは女性を守る、囲うような価値観があると
思っていたが違った。
女性も知識を付け、学ぶ事は推奨されているとのことだ。
先生は各国の言語を学ぶ事が特に好きで、
色々な言葉を研究している。
こんなすごい人に、師事できるなんて
私は超ラッキーだと思う。
ファトウマ様と出会ってから、
シュメシュの周辺国にも興味がわいてきた私にとって
先生が語る諸外国の話はとても楽しかった。
その日も私は、用意された菓子をかじりながら
先生に外国の話をしてくれとお願いした。
先生は快諾して話し始めた。
先生の言葉が遠くに感じる。
……なにかおかしい。
やけに頭がふわふわする。
熱い。
まっすぐ座っていられない。
先生が私の異変に気付き、ライリカを呼んだ。
ライリカとナダがこちらに走ってくるのが見えたと思ったら
目の前が真っ暗になった。
遠くの方から叫びのような声が聞こえる。
「すごい熱!」
「みんな!!早くマリナ様を寝室に!」
「ナダ!お医者様を呼んで!」
ナダは返事もせず、走り出た。
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