第9話 決戦・廃工場三階
「咲良ちゃん、おばさん待っていたのよ」
転送機と思われる機器の前で、おばさんが咲良に笑いかけた。
機器は銀色の大きな長方形の箱のような形をしていて、真ん中から左右に開く扉が付いている。
「……あれだ。業務用冷蔵庫。結菜ちゃんちのお店で見た」
咲良はポンと手を叩いた。
その、業務用冷蔵庫風の転送機の前で、おばさんは武器も構えずに立っている。
咲良はおばさんに向けて、銃を構えた。
「あら、おばさんの銃を持ってきてくれたの? ありがとう。ひとつしか無いから困ってたのよ」
おばさんが咲良に手を差出した。
「やーだー」
咲良がぶんぶんと首を振る。
「まあ咲良ちゃん、人のものを返さないなんて。お母さんはどんな教育をされているんですか?」
おばさんは眉をひそめながら、ママに強く言った。
「子供のしたことだ」
咲良の指が、引き金にかかる。
「ねえ、咲良ちゃんが欲しいのは地球でしょう? おばさんたちと半分こしない? そしたらすぐに地球が手に入るわよ、ねえ、いいお話しでしょ?」
おばさんはにこにこ笑いながら、咲良に近づいた。
「こんな時、地球の小学生はどうするか知っているか?」
「どうするのかしら?」
おばさんは首を傾げる。
「あっかんべー」
咲良は思いっきり舌を出して見せた。
「わたしは貴様らが嫌いだ。我々が築き上げたものを横からさらおうとする、貴様らが大嫌いだ。貴様らにこの町も地球も絶対に渡さない。我らが母星がこの地球を侵略する日まで、天下無双の天野家が、地球を守る!」
咲良が言い放った言葉に、おばさんは大きく笑い声を上げた。
「つまらない子ね。咲良ちゃんがそんなつまらない子だと思わなかったわ。つまらない子は、銀河の果てに飛んで行けーっ!」
おばさんはが、冷蔵庫のドアを開く。
冷蔵庫の中から渦巻く光が咲良に向かって放たれる。
まずい!
その光が咲良を包む寸前、ママが飛び出し、冷蔵庫を両手で抱え込んだ。
「ママ!」
ママの身体から青い光が放たれて、冷蔵庫を包んで行く。
「こ、これは何?」
おばさんが狼狽の声を上げた。
「貴様らの転送機が冷蔵庫なら、こちらの転送機はママ本体だ。転送機対転送機。機能が劣る方が転送される」
咲良がママを見つめて言った。
「ママ、がんばれ!」
咲良が応援する。
「ママ、負けるな!」
「ママ、もう少しです!」
声に振り返ると、下から上がってきた、大雅とパパが応援に加わった。
「がんばれ!!」
三人の声が重なったとき、目もくらむような閃光がママと冷蔵庫から放たれた。
光は辺りを白く塗り替えて、何も見えなくなる。
光が収まったときに、その場に残っていたのは……
「ママ!」
床に倒れたママが居た。
咲良が駆け寄ろうとしたその首根っこを、おばさんが掴む。
こめかみに銃口が当てられた。
「動くんじゃ無い!」
おばさんに銃を向けた、パパと大雅が固まる。
「これは地球の拳銃だよ。もちろん弾は入っている。こいつの擬態は無くなって地球に居られなくなるよ!」
咲良のこめかみに、グリグリと銃口が当てられた。
「……ママの機能が失われた。キーワードを入れなければ、ママが自爆してしまう」
咲良がつぶやいた。
「はっ、何を言っている? まだ30分経って無い。大丈夫だよ咲良ちゃん。その前に、あんたの擬態は壊れるんだからね」
おばさんが言い返す。
「ママが自爆すれば、地球が消えてしまう」
「何をバカなことを」
「本当だ。ママは自爆することによって反物質となり、地球は消滅する」
おばさんがパパを見た。
「私の最高傑作ですからね。我が星の科学の粋を集めました」
パパが深くうなずく。
「キーワードを入れなければ」
咲良が言う。
「キーワードって、あの長い言葉か? 早く言え!」
「おばさんが言わないと駄目なんだ」
「はあ?」
「あの高架下でわたしがキーワードを言っただろう? あれでおばさんにキーワードを引き渡したことになったんだ」
「バ、バカなことを!」
「別に信じないならそれでいいさ。でも地球が消滅したら、おばさんも任務失敗になるんだろう? それは困るんじゃないか? 仲間も転送機も奪われて、挙げ句地球も無くした。わたしの部下だったら、間違いなく懲戒免職処分だ」
咲良が淡々と語る。
パパも大雅も、気の毒そうにおばさんを見た。
「キーワードをもう一度教えろ」
「それは構わないが、一度で覚えられるのか? その地球の拳銃に、録音機能は付いていないのか?」
おばさんが拳銃を確かめるために、咲良のこめかみから銃口が外れた。
瞬間、おばさんの姿が消える。
大雅が、構えた銃を下ろした。
「まさか二度も同じ手に引っかかるとは……よほどの間抜けだな」
服の襟を直しながら、咲良が言った。
「咲良、悪口はいけませんよ」
パパがたしなめる。
「えー」
大雅が横目でパパを見た。
「中尉、ママは?」
床に倒れて動かないママの状態を、パパが確認する。
「……大丈夫ですよ。家に帰って修理しましょう」
ゆっくりとママを抱き起こして、背負った。
「家に、帰れるんですね……」
大雅がホッとした顔をする。
咲良もそれにうなずいた。
「うん、帰ろう」
そして、右手でパパの手を取って、左手で大雅の手を取った。
「撤収!」
三人で手をつないで、廃工場を後にした。
続く
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