第9話 友との帰還
最上階から階下へと向かう道の緑のローブを見に纏っていた『ゲベリオン教団』の人間は、ジェイドとリーナと一緒にやってきたという冒険者たちの手によって連行されていた。
壁にめり込ませた団員を取ることに苦労していた様子があったので、そこは手伝った。
ルーエンに施していた結界を触って周りで感電していた冒険者の人たちがいたのは少し申し訳なく思い、回復魔法で回復しておいた。
まぁ、緑色のローブの連中も周りでピクピクしていたからルーエンに手を出そうとしていたようだから、こちらは回復する必要はない。
ルーエンを守るための結界をジェイドとリーナが訝しげな様子で見ていたが、フィオラからの魔道具だと適当に誤魔化した。
ヒュリテの言っていた古代魔法と言うのが何かはわからないが、あまり目立つようなことはしたくない。古代魔法については、今度調べてみよう。
そのヒュリテを含む『ゲベリオン教団』の今後の処遇については、冒険者ギルドが預かることになった。
まぁ、以前からも暗躍していて今回も魔力を集めてゲベリオンを復活させることまでやってのけたのだ。相当重たい罰が降ることになるだろう。
とはいえ、ここからは大人の世界の話だ。俺はルーエンをおぶりながらアルハイルブルグに向かって歩いている。
「そっか、ウィルからのプレゼントだったから大事にしたかったんだけどなぁ」
歩いている途中で目を覚ましたルーエンに、内容は端折りながらことの顛末を伝えると、短剣のことは残念そうにしていた。
「悪い、どうにもならなかった」
俺としても、どうにかして短剣を取り返せないかと思ったが、ゲベリオンがその肉体として吸収してしまったようでどうにもならなかった。
ジェイドの手刀から目覚めたヒュリテにも確認したが、吸収されてしまったものはどうにもならないとのこと。
「短剣はまた作ってやるよ」
「本当か!?」
肩越しに振り返ると、ルーエンのキラキラとした顔が見える。今度はまたもっと魔力を込めた剣をプレゼントしよう。
ヒュリテからルーエンにはもちろん謝罪をさせた。ルーエンは大怪我を負わされたし、俺が渡した短剣を台無しにされたから憤慨していたが、ひとしきり怒ると後の処遇はギルドに任せると言っていた。
そんな、さっぱりとしたルーエンがいたからこそ、俺もこれ以上ヒュルテに言うことはなかった。ルーエンが許しているのだから、俺がこれ以上言う資格はない。
「それにしても、ジェイドとリーナが四年前に『ゲベリオン教団』を潰した冒険者だったとは知らなかったなぁ」
肩越しにルーエンが言ったため、頷いた。ジェイドとリーナを見たヒュルテの驚愕と怒りに満ちた表情は鮮明だ。今にも襲いかかりそうなヒュリテを意図も容易く、リーナは片手で制していた。
それにジェイドも、冒険者は引退していたと言っていたが、ヒュルテの魔道具による悪あがきを簡単にあしらっていた。
二人とも優れた冒険者だったのだろう。どうして二人が今は冒険者を辞めているのかはわからないが、二人を見習って俺も、もっと友達を傷つけないで済むように修行をしようと思う。
「……俺も、もっと強くなって、今回みたいなことは起こさないようにする」
友達を目の前で連れ去られたり、死ぬ危険のある怪我をされるのはもうごめんだ。拳を握って決意を固める俺に、ルーエンが背後から髪をわしゃわしゃしてきた。
「これ以上強くなってどうするんだよ!」
ルーエンから見た俺はそう見えるのかもしれない。だが、今回の件で俺は自身の不甲斐なさを身にしみて痛感した。
熱くなって、勝手に暴走して、人を危険に巻き込んだ。迷惑もかけた。人間は一人ではできないことがあることを痛感させられた。
まだまだ俺は人としては強くない。これからは、もっと人を頼って、人として強くなっていきたいと思う。
だが、それは俺にとっては非常に勇気がいることだ。世界を三つ救った上でようやくイルディに平穏な世界に行きたいと言うことができたのだから。
俺が黙り込んでいたからか、ルーエンが背後から「どうした?」と言ってきたから、首をふった。
「いや、なんでもない」
この話は終わりにしよう。ルーエンが依頼から戻ってきたらずっと聞きたいことがあった。
「ところで、依頼を受けに行く時に言っていた用事ってなんだったんだ? あまりにも帰りが遅くて心配していたんだぞ」
そのおかげでルーエンのピンチに遭遇できて、こうして再会できているのだから特段気にするようなことではないが、ずっとしこりとして俺に引っかかっていた。
「あぁ、それはな……」と言い、ため息をついた後でルーエンは再び口を開いた。「ばあちゃんから手紙が来たんだよ。久しぶりに顔を出さないか、ってな」
少しの沈黙の後にルーエンは語り出した。
「ハーフドルフの港から船で少し行ったところに俺の故郷があるんだ。ばあちゃんってば、俺が冒険者になることを反対してるんだよ。危険だからそんな仕事はするんじゃないってな。だから、一人前になって強くなった俺を見せたくて、Dランク試験を受けて、難しい依頼を受けることにしたんだ」
なるほど、そういう経緯があったのか。
ルーエンのおばあちゃんは冒険者は危険だからと、反対している。
「でも、両親はどうなんだ? 反対しているのか?」
俺の質問に対して、ルーエンは寂しそうに笑った。
「俺の父ちゃんと母ちゃん、もう死んでるんだ。だから、ばあちゃんに顔を見せてから墓参りしてたんだ。俺は一人でも、友達と一緒に困難も乗り越えてやっていけてるってな」
そうか、ルーエンも両親がすでにいないのか。俺も、もともといた世界で魔王軍に責められた時に殺されてしまった。俺を庇って。
その時のことを思い出すと、胸が張り裂けそうになる。
「……悪い、変なこと聞いた」
いや、とルーエンは言った後で笑って見せた。
「もう、吹っ切れてるから大丈夫だ! それに、俺にはばあちゃんだっている。それに、ウィルもいるしな!」
その笑顔には、嘘偽りはないように感じる。そんな表情をされてしまうと、身体が熱くなってきてしまう。
……ルーエンからも友達としての認識をされているのは、嬉しくないわけがない。
ルーエンも無事に戻ってきた。もともと予定していた様相ではないが、初めてのDランクの依頼達成のお祝いをしよう。
「街に帰ったら何か食べたいものはあるか? Dランクの依頼達成のお祝いだ、なんでも好きなもの奢ってやる」
「本当か!? そうだな——」
笑い合いながら俺たちは、アルハイルブルグへと戻った。
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