〈カタリ〉

汐海有真(白木犀)

優しい幽霊の話(上)

「――優しい幽霊の話を聞きたくはない?」


 つんつんとした真っ黒のショートカットヘアと、空に浮かぶ満月みたいな黄金色の瞳。


「優しい、幽霊の話……?」


 いつの間にか隣に立っていた背の高い青年の言葉を、わたしはただ繰り返した。


「そう、優しい幽霊の話。優しい幽霊の話を集めるのが、最近の僕の日課なんだ」


 青年はそう言って、にっと微笑む。


「日課、って……あなたはどうして、そんなことをしているの?」


 わたしの問いに、青年は少しだけ首を傾げてみせた。


「切っ掛けは、君だよ」


 そう告げられて、わたしはただ眉を顰めた。


「わたしが切っ掛け……? だって、わたしとあなたは、今ここで初めて会って……」


 青年は少しばかり寂しそうに、目を細めてみせる。


「……まあ、聞いてみたらどうかな? そうすれば、意味がわかるかもしれないし」


 言葉の真意はわからないまま、わたしは彼を無下にすることもできず、頷きを返した――

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