特別講師をお呼びしました

心理学および認知科学に関するセミナー

「では、『天下無双』という言葉があります。この言葉を聞いて、みなさんは、どんな行動を思い浮かべますか？」

「はい！」

「では、そこの君」

「最期に『我が生涯に一片の悔いなし』と言います」

「素晴らしい。まったくその通りですね。では、他に何か思い浮かぶことはありますか？ 思うままに答えてください」

「天下一武道会に出場して優勝する」

「無敵の剣技を披露する」

「伝説になる」

「天下の大将軍になる」

「武神になる」

「戦わずして相手を震え上がらせる」

「武器を一振りで壊す」

「腕試しの旅に出る」

「国王に招かれる」

「激アツすぎる恋をする」

「悪党に狙われる」

「詩に詠まれる」

「強さに飽きて退屈する」

「皆さん、素晴らしいですね！ とても素晴らしい回答ばかりです。『天下無双』という言葉に対して、定番の行動から、予想外の行動まで多くの意見が出てきました。ちなみに、私は『激アツすぎる恋をする』に一票を入れたいです」

　……………

「はい、みなさん、静かにならないように。よく聞いてください。このように、言葉が持つ意味を理解していると、そこから連想して関連するイメージを思い浮かべることができます。では、次に進みましょう。みなさんの目の前に『布団』があるとします。この布団を見て、どんな行動を思い浮かべますか？」

「はい！」

「では、そこの君」

「布団を抱きしめます」

「素晴らしい。まったくその通りですね。では、他に何か思い浮かぶことはありますか？ 思うままに答えてください」

「寝る」

「足で蹴飛ばす」

「飛び込む」

「本を読む」

「恋人といちゃつく」

「泣く」

「ペットと一緒に寝る」

「熱が出たときにうなされる」

「布団に名前をつける」

「重ねてバウンドする」

「ダニ退治のスプレーを使う」

「布団で秘密基地を作る」

「布団を抱えて逃走する」

「皆さん、素晴らしいですね！ とても素晴らしい回答ばかりです。『布団』というモノに対して、定番の行動から、予想外の行動まで多くの意見が出てきました。ちなみに、私は『恋人といちゃつく』に一票を入れたいです」

　……………

「はい、みなさん、静かにならないように。よく聞いてください。『布団』というモノや環境に対して、さまざまな行動が思い浮かぶことをアフォーダンスと言います。つまり、目の前に『布団』があるときに、『寝る』『抱きしめる』『恋人といちゃつく』といった行動が自然に浮かぶ、それが『布団』が持っているアフォーダンスということです。アフォーダンスとは、物や環境が自然に引き起こす行動の可能性です。なので、『天下無双』という言葉については、純粋なアフォーダンスを持つとは言えないので、このあたり間違えないように。こら！　そこ！　アホなダンスとか言わない！」

　〈了〉