1月7日 エピローグ


 登校日。通学路。

 辺りは誰もいない、もうすっかり遅い時間帯。確実な遅刻だった。

 俺はただひとり歩いていた。


「「あ」」


 すると十字路で、誰かと鉢合わせした。

 夢月だった。


「なんだよ、お前。こんな時間に、遅刻か?」

「そっちだって」

「お前、目が赤いぞ」

「和志こそ」


 俺たちはお互いに軽口をたたき合った。

 すると夢月が私服だという事に今更気づいた。


「お前、学校は?」

「用事があるからサボる」

「はぁ!?」


 意外と優等生な夢月が学校をサボるなんて珍しい。

 歩き去る夢月を見てから、俺も前へと歩き出した。



〇 〇 〇


 夢を見ていた。

 夢の私は神様に願った。彼に会いに行きたいと。彼に想いを伝えたいと。

 神様は、その身が朽ちる寸前に、私の願いを叶えてしまった。

 おかげで私は彼に会うことが出来た。彼に想いを伝えることが出来た。

 そして夢は終わってしまった。

 私は元の、ひ弱な動物に戻っていた。

 もうすっかり、何もかも元通りだった。

 元の独りぼっちへと戻った。

 あと残されたのは、独りでこの世を去るのみ。

 それは、もう間もなく、訪れようとしていた。

 訪れようとする死を、私はじっと待つのみだった。


 ふとこちらに近づく足音が聞こえてきた。

 向こうから誰かが近づいてくる。

 すっかり弱り果てた私は逃げることも出来ず、そんな力もなく、その場に蹲ることしかできなかった。

 影が私の前で止まった。

 顔を上げる。


 ――どうして……?


 夢月さんだった。彼女がそこにいたのだ。

 ――どうして彼女がここにいるのだろう?

 驚く私を見て、夢月さんは苦笑いを浮かべていた。


「そんな顔をしないでよ」


 ――なんで、どうしてここに?


「約束したでしょう? 独りぼっちにさせないって。最期は傍にいてあげるって」


 いつかした約束。彼女は本当にそれを果たしに来てくれたのだ。

 私の隣に、夢月さんが腰を掛ける。

 私の体を、優しく撫でる。

 温かいものを感じた。目が熱くなった。

 彼女が寄り添ってくれる。

 安心した。私は独りじゃないんだ。

 これで未練も無くなった。

 

 いつの間にか私は子守唄を口ずさんでいた。

 彼が私に歌ってくれた唄を。彼に歌ってあげた唄を。

 自分の最期の恐怖を和らげるために。自分が安らかに眠れるように。

 自分が終わるその瞬間まで、私は歌を歌っていた。

 ――そして私は、永遠の眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

狐の唄 長月将 @SHOW888

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ