北野大舞踏会顛末の記 ⑶ 決着
最初に決着がついたのは、北野天満宮北東側の松原。
前田慶次郎利益と松風が、死せる一向宗門徒と対峙した現場だった。
派手な衣装と戦場と置屋で鍛えた利益の身体、特に腰の動きは、女も男も魅了していく。
また巨馬松風の踊りは、物理的な意味でも一向宗を跳ね飛ばしていいいた。
結果
利益は最後に右手を大きく上に伸ばし、決めポーズ。
「ポウ!」
その声は、北野の地の隅々まで響き渡ったと、後世に伝えられている。
◇◇◇
ほぼ同じ頃、神楽殿での戦いも決着がついていた。
こちらは最初から丿貫が圧倒していたといっていい。
元々女性以上に男性、それも稚児や若衆を好んでいた信長である。
白装束、稚児姿、裸に甲冑、更には肌襦袢のみ……
傘を翻すたびに姿を変える丿貫に、もはや信長は目を離すことすら出来ない。
そして七回の変化を終えた後。
傘の影から出現した丿貫は、畳んだ傘を腰に差して一礼した。
「艶姿日ノ本美男子七変化、此れにて仕舞です」
「見事なり!」
信長は苛烈ではあるが率直な人物でもある。
故に自分の負けを素直に認め、消え失せたのだ。
◇◇◇
最後に決着がついたのは、梅園での戦いだった。
「完敗です」
あっさり負けを認めたのは、光秀だった。
前久はそれを意外に思う。
前久としては、舞そのものは良くて互角、おそらくは自分の方が負けていると感じていたのだ。
「いや待て、もう暫し、夜はまだ深いぞ」
前久は先程まで自分が舞っていた西行桜の台詞をそのまま使い、光秀の真意を確かめる。
「夜は覚めたのです。そして私も、埋もれ木の花が咲くことが無いように、名が広まることもなく、こうして消えていくのでしょう」
「頼政を選んだのは、咲庵殿が最初からそう思っていたからではないですか」
「こうして会うのも前世からの因縁なのでしょう。此処で龍山殿に会った事で、私は気付いたのです。ここでやろうとしていた事は、今なすべきでない事なのだろうと」
なるほど、前久は理解した。
「咲庵殿はまだ、なすべき事があるのですな」
「ええ。上様(信長)ではこれ以上の全国平定は難しいと考え幹を折った私です。ですが太閤殿も世を安定して治するには向いておりませぬ。故に此処で太閤殿を弑し奉るつもりでした」
前久は確信した。
此処にいる咲庵殿(光秀)は、死者ではなく生者であると。
その上未だ何らかの目的を持って、独自の行動を起こしているようだ。
かつて信長公を葬ったように。
光秀の言葉は、なおも続く。
「ここで私が事を起こさなくとも、太閤殿の世は長く続きますまい。戦の無い世とするには、太閤殿の後に出てくる者による事となるのでしょう。
私は名を変え姿を変え、その時代を近づけるよう動くつもりです。次に龍山殿に会う時には、おそらく天海と名乗っている事でしょう。
懐かしい時間を過ごせた事に感謝します。それでは」
ふっと光秀の姿が消えた。
ゾンビーダンスを踊っていた数十名の手勢も、同時に姿をくらましている。
「咲庵殿は、何処までを見ているのだろうか」
前久は空を見上げる。青い空は、何も語る事は無かった。
◇◇◇
他にも大小の事案はあった。
しかし前田玄以の的確な指示と、様々な舞士の活躍によって、北野大舞踏会と京都の治安は護られた。
しかしそれでも大舞踏会は、僅か1日で開催中止となってしまったのだ。
これだけの事案があっただけに、中止は当然と思われるかもしれない。
しかし真の理由は異なる。
実はこの大舞踏会の為に秀吉が自ら開発し舞ったモンキー・ダンスが、散々な評価だったことが原因だったのだ。
あまりの酷評に心が折れた秀吉は、途中から会場を引き払うこととし、玄以にこう命じた。
「このダンスイベントを、本日限りで終了させよ!」
なおその後、秀吉は大阪城へと逃げ帰り、悔しさのあまり布団を涙で濡らしつつ不貞寝したと伝えられている。
(了)
天正15年の大舞踏会 於田縫紀 @otanuki
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