北野大舞踏会顛末の記 ⑵ 開戦

 最初に会敵したのは、愛馬松風に跨がった前田慶次郎利益と一向宗。


 南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……

 念仏を唱えつつ粗末な武装を手に進軍する300程の群れ。


「休みなく念仏を唱えられている仏の身にもなってみろ。疲れ果てて夜も眠れぬことであろう」


「主よ、あれは常世の者ではありませぬ。戦い敗れた後もその事に気付かず、現世を彷徨っている闇の物怪です」


 その言葉とともに出現したのは、利益の従者である捨丸。

 練達の忍びとしての経験と眼力により、一目で敵の正体を看破したのだ。


「なるほど。ならば光の輝きに照らされれば姿を失うだろう」


 利益が馬上から飛び降りた。花柄の辻ヶ花染めに金銀の刺繍を施した、派手な打掛をマントのように翻る。


「当世一代の傾奇者、穀蔵院飄戸斎こと前田慶次郎自ら披露しよう。今世流傾奇の源流となった、婆娑羅大名佐々木道誉伝来の穀蔵院一刀流婆娑羅バサラ・踊りダンシングを!

 松風、共に舞おうぞレッツ・ダンシン!」


 やはり派手な小袖打掛を纏った豪壮無比な巨馬とともに、利益と巨馬が踊り始める。


 ◇◇◇


 すっと音も無く神楽殿内に侵入した丿貫に信長が気付いたのは、新たに考案した舞踏をひととおり舞った後であった。


「どうじゃ、我が本能寺で死する前に会得した火炎の舞ファイアー・ダンスは」


 ファイアートーチを両手に持ち、トレードマークであった天鵞絨地牡丹びろーどじぼたん唐草文様からくさもんよう外套を纏った信長は、丿貫にそう問いかける。


「華麗にして苛烈な芸風で、確かに人目をひくでしょう。しかし残念な事ですが、侘び寂びの精神が足りませぬ。絢爛豪華で激しいだけなら、人はいずれ慣れて飽きまする」


「ならばうぬは、どのような舞を魅せてくれるというのだ」


「豪華絢爛と清貧の隙間、緩急と流転の際に生じる変転の舞を、ご覧に入れましょう」


 丿貫はそう告げたと同時に、 巨大な朱塗りの唐傘を広げた。

 信長から丿貫の姿が一瞬隠れる。

 3数える程度の後、上がった傘の下から現れたのは、白装束姿の美青年。


「艶姿日ノ本美男子七変化、舞わせていただきましょう」


 森蘭丸以上の色気に、信長の視線は一瞬にして奪われてしまった。


 ◇◇◇


 明智光秀と近衛前久が相見えたのは、北野天満宮南端の梅園だった。

 

「久しいな、咲庵よ」


 前久の言葉に、ゾンビー・ダンスで進んでいた集団が止まる。

 

「龍山殿ですか」


 隊列中断から出てきたのは、南蛮胴具足の上に水色桔梗紋をあしらった陣羽織姿の武者。

 

「ああ。これまでについてはお互いの意見もあるであろう。ここは一つ、私と舞踏勝負ダンシング・バトルで話をつけよう」


「他ならぬ龍山殿の言葉です。受けましょう」


 あくまで静かに、光秀は応じる。

 しかし静かなのは、そこまでだった。


 次の瞬間、前久も光秀も、重い上衣や鎧を一気に脱ぎ捨てる。

 

「九重ここのへに、咲けども花の八重桜、幾代の春を重かさぬらん……」


 前久は西行桜の桜の精。


「是は諸国一見の僧にて候。我此程は都に候ひて……」


 光秀は頼政の老翁。

 他2つの戦いと異なり、大和猿楽の正統派の演目による戦いが切って落とされた。

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