朝目覚めると横に裸の女が寝ていた話

よし ひろし

第1話

「う、ううぅぅ……」


 頭が痛い。

 脳内で象が並んでダンスを踊っているような感じだ。

 喉もやけに乾いている。

「ああ、くそ……」

 俺はベッドの上に半身を起こし、左手で額を押さえた。


(二日酔いだな……)


 最悪の目覚めだ。

 どこでそんなに飲んだかな?

 記憶がまるでない。


(とりあえず水を――)


 そう思ってベッドを降りようと布団を剥いだ。


「う、ううぅん……」


 そこで気づいた。横に誰か寝ていたことに。漏れ聞こえた声から女だと分かる。そして、彼女が裸だということも見てとれた。


「あ、あれ……、誰?」


 剥いだ布団から覗くのは裸の背中と金色の長い髪。


「金髪……。キャバクラかどこかで――いや、違う。なにか、大事なことが……」


 何か重大なことを忘れている。


 この女は誰だ?

 俺はなんで二日酔いに?

 いや、そもそも、ここはどこだ?


「俺の部屋じゃない……。どこかのホテルか?」


 室内を見回す。木造づくりの部屋。ラブホテルやビジネスホテルではない。まるでログハウスの一室のよう。


「旅行にでも来てたか……? いや、そんなはずは……。普通に仕事して、帰ってきた、はず……」


 頭の中で踊る象の向こうから、記憶が徐々に戻ってくる。

 そうだ、いつもどおり会社に行った。そしていつもと同じく仕事して、残業もせずさっさと帰ってきて――


「玄関の扉を開けたら――」


「ねぇ、ナイトぉ、おはよう…」


 声をかけられ、俺はハッとなりそちらを見た。

 裸の女が目覚めて、こちらを見ていた。

 金髪の美少女。碧の瞳。滑らかな白い肌。そして妙に長い耳……


「あ、耳が……、エ、ル、フ――?」


 そう日本では、いや自分のいた世界ではとんと見ない長耳。秋葉原か、夏冬のコミケ会場では見られそうだが、あれは作りものだ。だが、今目の前にいるのは本物。たぶん、きっと……

 思わず手を伸ばし、その特徴的な耳を触った。


「あん……」


 少女の口から魅惑的な喘ぎが漏れる。手の中でピクっと動く耳。体温も感じる。本物だ――


「だめ……、耳は弱いの、そう言ったじゃない、昨晩……」


 少女の瞳がその昨晩の何かを思い出したのか潤み、頬が微かに紅潮する。


「あ、いや、その…、ごめん……」


 俺は手を引っ込めるが、頭の中では昨晩何があったのか懸命に思い出そうとした。この美少女と、何が――


(ダメだ、思い出せない。この頭痛が――)


 頭を振り、踊る象たちを追い払う。

 何か、何かを思い出しそうなのだが……


「どうしたの、ナイト?」

「いや、その……。二日酔いみたいで…、その、キミ、誰だっけ?」


 ここは正直に訊くしかない。


「はぁ…、酷いわ、昨晩はあれだけ激しく愛し合ったのに……。全然覚えていないの?」


 美少女エルフが悲し気な目で俺を見つめる。


 愛し合った? 激しく?


 俺は思わず布団から覗く彼女の胸元に視線を落とした。

 確かな膨らみ。大きすぎず小さからず、丁度いい感じの二つの肉丘。その先端の突起は綺麗なピンク色で、俺の理想そのものといった裸身。


(あのおっぱいを――)


 思い出せ、俺! 何があった――、いや、何をした?


「しょうがないわね、ナイト、ぐてんぐてんに酔ってたから。――じゃあ、もう一回、今度は忘れられないぐらい、凄いのしましょう」


 言ってからエルフが俺に抱き着き、キスをしてきた。


「あ……」


 甘い吐息。フルーツの様なかぐわしさが口内から鼻孔へと抜けて――


(あ、そうだ、俺、異世界に――)


 思い出した。帰宅して、自宅のドアを開けたら――そこは見知らぬ世界だった。

 街の真ん中。中世ヨーロッパというより、西部劇か時代劇かといった木造づくりの建物が並ぶ街並み。その通りの真ん中に、俺は立っていた。すぐに振り向き、今通ったはずの我が家の玄関の扉を探したが――何もなかった。

 時間は日本と同じ夜。繁華街なのか、多くの人々が行きかい、建物には明かりが灯っていた。様々な料理の匂いが鼻をくすぐり、ざわめく声が耳に届く。

 声――聞いたことのない言語。でも何故かその意味は理解できた。人々の服装も明らかに現代日本の物ではない。戸惑う俺。そして――


(何だっけ? 何かあったはずなんだけど――)


「ううん、ナイト、ねえ、昨日みたく、激しくしてよぉ」


 耳元でエルフが囁く。


「え、ああ……」


 言われるまま、彼女をベッドへと押し倒した。そして、胸を荒々しく揉みしだく。


「あん……」

「……ねぇ、キミ、名前は?」

「もう、それも忘れたの? サリア。サリア・シュテュルム・コカリス」

「サリア……」

「本当に覚えていないのね。私はちゃんと覚えてるわよ。アマクダリ・ナイト。変わった響きの名前よね」

「あ、ああ…、俺、他にも何か言っいた?」

「えっと、日本から来た、知らないかって」

「日本――知ってるのか、えっと、サリア?」

「知らない……。ねえ、それよりも、ね、して」

「ああ……」


 もうやけくそだ。とりあえず今は、この美味しい機会を楽しむとしよう。

 俺は美少女エルフ―――サリアの可憐な唇を強く貪った。



 さて、俺ことアマクダリ・ナイト――漢字で書くと天下無双、二十六歳の冒険の始まりはこんな感じで始まった。ちなみに、名前の由来をちょっとだけ触れておくと、天下あまくだりの家に嫁に入った母が、自分の子には絶対に無双と名付けようと心に決めていた為このふざけた名前になった。愉快な母で、男でも女でもそうしようと決めていたらしい。で、男だったんだがそのまま『むそう』では可愛くないと言い出して、考えた挙句に出した読みが『ないと』だったらしい。本当にふざけた母親だ。


 この後、色々あったんだが、いや、正確にはこの前にも色々あったんだが、まあ、その辺りの話は、そのうちに。今日はここまで。じゃあ。



おわり?(続きは今のところ何も考えてない)



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