トカのお遊び
第13話 悪辣な地獄体験
「遅かったわねぇ、、待ちくたびれたわぁ」
声として聞こえた。
少し高い、綺麗な、でもこびりつくような粘度のある声が威圧感と共に駆け巡る。
今回はなにもしてない。
さっきまでは、前と同様に言葉が認識できる程度だった。それがこの部屋の扉が開かれて邂逅した時、一段上の存在感を放っている。
もし今、眼鏡を外したら、、
「
「お、おう」
ナギが叱られなければ眼鏡を外していた。
というかこれのおかげで力を抑えてくれている状態なんだよな。それでこれか。
あんまり意味ない? そうじゃないな。
たぶん、、、
「あらぁ〜先に私のことを描いてくれてもよかったのに?ねぇ〜?」
「こんな悪趣味なことしといて?」
ナギが怒鳴り声をあげた。
先に中へ入っていたナギは、声がする前から険しい顔で俺には見えない部屋の奥をずっと睨んでいた。
めちゃくちゃ怒ってる、、、
ってかいつの間にか鼻に詰め込んでたティッシュが消えてる。あれは嘘だったんだな。たぶん初めてナギに嘘をつかれた気がする。
「暇だったから、ねぇ? せっかくだからこの部屋を地獄に近づけてみたの! ほぉら貴方も早くこっちへおいでなさぁい」
ドロドロに甘い声で、脳に直接囁かれた。
開かれた扉の奥。
まるで認識がバグったように中が見えない。
どうなっているんだ、、
好奇心が込み上げてくる。
俺は、迷うことなく入ってしまった。
自然に。無意識に。手を引かれたみたいに。
「うぐっっ!!!」
一歩、中に足を踏み入れた瞬間、俺は膝から崩れ落ちた。
熱い。空気があまりにも熱い。重い。部屋全体に嫌な感じが充満している。どんどん呼吸が苦しくなる。今すぐ命を断ちたい。でも無理な気がする。どうせまた蘇る。ここはそんな場所だ。
充分すぎるほど警戒していたはずなのに、好奇心に突き動かされた。
俺はうずくまって、全身を震わせていた。
するとナギが指を鳴らす。
一気に空気が軽くなった。
未だに嫌な感じは充満している。空気も少し暑くて重い。それでもだいぶマシになった。
「トカ!アンタやりすぎ!!!」
ナギの語気はさっきよりも強い。
聖堂での時は、まだ加減してたんだな。
本気でキレてる。
「まずは、体験してみた方がいいでしょう?」
「アンタのそうっいうところ!大っっ嫌い! !それにお前、、」
見えなくてもわかる。あの神さまが悪辣さに満ちたいやらしい笑みを浮かべてるはずだ。
たぶんこれが本性か、、
ナギから過去を聞いて認識を改めていた。
でも予想以上に恐ろしい危ない存在だった。
「
ナギがこちらに向き直って、肩に手を置いた。
呼吸が落ち着いてきた。
「助かった」
ナギは振り返り、また部屋の奥を睨み直す。
俺は部屋の全体像を確認した。
今度は見える。
余裕ができたおかげだ。
冷静に周囲を観察する。
でもすぐに目を逸らしたくなった。
真っ赤。
学校の教室くらいの広さだが、置かれてあるものはまるっきり違う。あまり見たくない。
拷問器具を連想されるそれらは、今までことのない形状の刃物や鉄塊だった。使い方を想像するのも嫌だ。
そして中央、聖堂で見えた岩の背面。
表の印象とは正反対だ。
神聖さは感じる。でもこれは異質。
岩の表面は、鉱石のようなものが露出していた。それは不気味な紫の輝きを放ち、気味の悪い凹凸がところどころにある。
触るまでもなく堅いとわかるそれが、自然についたとは思えない凹み方をしていた。
これは明らかに良くないものだ。
そして、部屋全体が暗い。
しっかり見えてはいる。でも暗く感じる。
絶対ダメなやつだ、、、
「この子、よく見てるわねぇ。期待できるわぁ」
美味しそう。
そう思わせる視線が刺さる。
わかった。
この眼鏡が不良品じゃない。これで抑えられないほどに力が強いんだ、、、
「この部屋のおかげよぉ。」
どういうことだ?
「ここに座を下ろして、百年は経ったかしら?
いい感じに染みてきたのよねぇ。この部屋には、特別な子たちのためにたっぷり注いであげたから、、ふふ。」
「トカお前、、、」
「
悪気のなさそうに無邪気な口調で、邪気に溢れた声が響き渡る。
脳が警報を鳴らす。でもこの声に何故か惹かれる自分がいる。ナギだって救われてる子もいるって言ってたし、俺に取り憑いてるヤツも祓ってくれるって話だし、、
ガンッッッ!
何かが砕かれる音が響いた。
ナギが、本尊のすぐ横の壁に蹴りをいれていた。コンクリートでできていたであろう壁は砕けて鉄筋が見えている。
「いい加減にしろ!!」
「らしくないわねぇソラナギ」
明らかにナギを怒らせて楽しんでいる。
俺を使って。
ナギも散々人を振り回している。主に俺。
だけどアイツは限度を見据えて、それか別の狙いがあって、人を揶揄っている。あとは天然。
タチが悪いのは確かだが、人道的ではある。
この神さまは、度を超えてる。というか人間の尺度を弁える気がない。イカれてる。
「失礼ねぇ、、」
「あっぐ!!がぁあ!!!」
また空気が熱くなった。重くなった。
全身が溶岩で焼き潰されてるみたいだ。
本格的に死ぬ。今度こそやばい。
「トカ!これ以上、
収まった。
生きてる。
呼吸ができる。空気も変じゃない。
部屋も赤くも暗くもなくなった。
ちゃんと生きてる。
現実に起こったことだが、現実に戻ったって実感がある。
助かった。
って、ん?
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