宗教法人 光色教

第7話 胡散臭い教主


 二日酔いで頭がガンガンしながら、のろのろと出掛ける準備を進めた日没。勝手に上がり込んでたナギに今から仕事と言われた。


 前日に大仕事をして、酒をクソほど飲まさ、夜道で不気味な視線に晒されて、寝たら怪奇にうなされて、起きたら異次元の日本語を話す女に付き合わされる。俺って可哀想すぎない?


「君はまだマシな方だから安心して」


「犠牲者が多いのか」


「アキの方が可哀想だよ?」


サカキさん?おまえってやつは、、、」


「あー私よりもだよ。アタシはあんまり、、たぶん、、うん!」


サカキさんと仲良くなれそう。


「じゃあサカキじゃなくてアキって呼んであげな?あいつは家名嫌いだから」


「おっけ。ってかなんで俺の服着てんの?」


さか、、アキさんにもいろいろあるんだろう。それよりもこいつに遠慮は、ないよな。

俺のこと私物扱いだし。


「この服いいね〜私好み!」


ナギは青いジーンズ生地で出来た羽織りを纏ってクルクル回った。見た目だけはいいんだが。


「ありがとさん!」


柔和な笑みを浮かべた。


身心滅却。何も思うな。感じるな。


「ふふ、早く行くよー。」


 俺は赤いシャツにグレーのカーゴパンツを履いて、黒のフード付きのコートを羽織った。財布をと鍵だけ持って行こうとするとナギが静止した。


「今日は画材も持ってこい!人間にも見せるやつだからしっかりね」


「説明する習慣つけようと思わない?」


「どうせ妾にそちらが慣れるのが速いだろう?」


また新しい口調でた、、そんで傲慢極まりねぇ。


「あと面白いし」


脳内でナギの眉間に拳骨をグリグリした。


「ぎゃああああ!!!」


「ざまぁみろ」


「いいねいいね。感じたことのない痛みだ!」


こいつの存在は恐怖体験そのものだな。

これはしばらく辞めよう。

全然気が晴れない。


 キャンバスと絵の具とオイルに筆、思いつくものを持ってカバンに放り込んでいた。


「あとを多めにお願い」


「ハイハイ」


先のことに考えるのは諦めた。

どうせ説明されない。

準備を整えて家を出た。


「まずは喫茶店いくよ」


「直行じゃないのか」


「ちょっとね」


キビキビと歩くナギ。トロトロ歩く俺。


「おそい!」


「疲れてんだよ!!!」


 ゆっくりとナギが近づいて、目の前まで顔がきた。無表情で見つめてきたせいで、緊張が走った。気圧されていると、頭に痛みが走った。


デコピンされた。


「いっってぇな!くそ!しね!」


「もう大丈夫になったでしょ〜?」


気力が戻った。それに頭痛も治っていた。


「それ二日酔いからさ!」


「ぜってぇ感謝しない」


「そういうところ気に入ってるよ」


側から聞けば変人集団にしか見えないだろう。だいぶナギに毒された気がする。





 太陽が地平線に接したくらいに薄暗くなった頃、ポツンと光の灯る喫茶店に辿り着く。扉を開けるとアキさんと見知らぬ男が話していた。


「いやぁ〜この度はを伺える人物を紹介してくれるとは、やはり噂の榊家サカキですな」


「いえいえ!御声に従っただけにございます」


 高そうな真っ白な服を着た胡散臭い男が大声で話している。アキさんはあからさまな作り笑顔で対応している。なんか怒ってる?嫌そうな感じだ。


「ナギ、遅かったじゃないか。あとで覚えてな」


「だって千葉チバが、、」


「お前の行動なんか読めている」


「ごめん、、」


 アキさんが小声でナギを叱ってる。ナギの肩に置かれた手に血管が浮き出ているから相当やばいんだろう。俺も謝らなければ。


「アキさん。申し訳ありません。知ってれば早く動いたのに、、」


「ん?名前で呼んでくれるんだね。ありがとう」


 アキさんの態度が柔らかくなった。家のことが嫌いという話は相当に因縁深いのだろう。

ってことは、この胡散臭い男にそれを話されてたのが怒りの原因か。約束の時間とかたぶんあって遅れたのもありそう。


「君たちか!仕事をしてくれるのは!私は光色教コウジキキョウの教主をやっておる剛力ゴウリキという!今回は頼むよ!」


「酒と代金を前払いで」


胡散臭い剛力ゴウリキという男はナギをいやらしい目で見て、俺には一切の興味を抱かなかった。ナギは当然のように嫌悪感を全面に出していた。


「それはこちらに!話の通りタクシーを用意してあるから頼むよ!鍵はこれだ!」


「はいよ」


ナギはぶっきらぼうに鍵を受け取ってすぐに、喫茶店を出た。目の前はタクシーが待機している。そそくさと乗り込んで、いきなり大きなため息をついた。


「あれイヤや〜〜関わりたくない〜〜」


「らしくないな」


と言いつつ、溜まった鬱憤のせいか少し面白かった。まぁ、剛力ゴウリキという男に嫌気が刺していたのは俺もだが。


「やっぱわかるでしょ?あの男くさいの」


「臭いはよくわからんけど、俺も好きじゃない」


「それは私とたぶんかも」


「ん?」


「まぁ気にしないで、明日には楽しくなるから」


「俺さ、犯罪はしたくないんだけど」


「今日も絵を描くだけだから安心して」


「はぁ、、?」


「今回はなんだよね」


俺はナギについてわかったことがある。

嘘はつかない。

だから今夜、犯罪じゃない悪事に加担されるかもしれない。

横で笑うナギの笑顔がいつになく凶悪だから。

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