初仕事と待ち受ける苦悩

第3話 四畳半に住んでいる神さま


ナギに手を引かれて20分以上歩かされた。


 ナギは楽しそうに、鼻歌交じりにスキップしてハイキング気分。俺は後悔が席巻していた。側から見たら人身売買にでも見られるんじゃないだろうか?ってか売られたんだよ俺は。


「着いたよ!」


 連れてこられたのは何十年も前に建てられたようなボロ団地。人の住んでる気配はない。それでも国道が近いせいか車に走る音は絶え間ない。月明かりが照らすそこは、心霊スポットと言われても信じられる。ってかたぶんそう。


もう普通の家庭が夕食を囲んでる時間なのに俺は何をしてるんだろう。


「いい加減休ませてくんない?」


「待たせるわけにはいかないから。ほら動く!」


引きこもってたせいで体力はゴミカスなのに5階まで登らされた。エレベーターつけとけよ。


「シャキッとしろ!」


「急になんだよ!?」


「今から仕事」


 505号室と書かれたドアの前でナギは立ち止まった。流石に扱いが雑すぎない?

 さっきまでルンルンしてやがったくせに、到着するなり急に真剣な顔つきになって、厳しい。

俺もうわかんない。なにもわかんないよ。


「今から会う方には敬意をもって接しな」


ナギが意味不明なことを神妙な顔付きで言う。

さっきまでスキップしてたくせに。


ねぇ、これからなにすんの?


「いい?君がこれから相手するのはだから。あいつは優しいけど、私みたいにアホみたいな態度を真似したらダメだから。」


自覚あったのかよ。


「アタシはいいだもん」


もんってなに?急に態度変えないくれ。

こいつ怖い。


「えー可愛いでしょ?」


 ナギが中腰になって猫のようなポーズをとる。

そのあと馬鹿みたいに口を大きくして笑い出した。


「お前の態度のせいで混乱してんだけど。ってか神さまってなんだよ」


 俺は今なにかしらに取り憑かれているらしい。それに変な人や人もどきに会った。だからそういが存在がいることも予想できる。けれど場違い過ぎないか?


「今は言うこと聞いてね?君に嘘は言ってない」


「あー!もうわかったよ!そんでなにをすれば??」


「しょうがない奴だねぇ。まずは敬意を持って接しろ。これから君が対峙するのは信仰が薄れ、泣く泣く拠点を移した神だ。忘れされつつある彼に、欲しい」


「俺にどうしろと?それと俺の問題と何が関係あんの?」


「絵を描けばいい。


俺に拒否権はないのね。


「皆無だ」


「だから思考に返事すんな」


ナギが俺の方を見て、初めてまともに微笑んだ。


「君ならできるよ」


こんな風に誰かに信頼されるのは久しぶりだ。


「行くよ」





 ナギが祝詞のようなものを唱えて扉を開けた。

中は昔のアニメに出てくるような、四畳半の畳が広がる寂れた部屋だった。生活感はなく、廃屋とでも思ってしまう。思ったより普通な見た目。をのぞいて。


中央に祠がある。


 石造りの丁寧な衣装の見たこともない形の祠。

そこから異様な空気が溢れ出ている。冬のはずなのに、生暖かい。暖房が効いてる感じはない。っていうか音が消えた。道路も近くて、車が通る音が聞こえてたはずなのに、扉を閉めてから無音になった。


ナギの言葉が証明された。



駿河スルガの爺さん、邪魔するよ。」


「久しぶりだな、ソラナギ」


「今はナギって呼んでよね」


「そうだったな。未だにその姿には慣れんよ」


 一向に姿は見えないが、声だけは聞こえる。というかわかる。音は聞こえていない。認識だけできてる感じ。その存在に対してナギは親戚とでも話すように会話している。


「今日は助っ人もとい便利道具を連れてきたんだ」


ナギの頭にタライでも落ちればいいのに。


「いたっ」


急にナギが頭を抱えた。

喫茶店でのリアクションと明らかに違う。

なんだ?


「おまえのその態度も相変わらずだな。小僧、強めにやってやったぞ。これは儂が勝手にやったことだからはいらん」


なんか怖いこと言ってたけど、とりあえずナイス神さま!


「あんた、、、ふふ。いいねこういうのも」


ナギが頭を抱えて悶えつつ、暗い笑みを浮かべてた。こいつマジで怖い。ってかなにしたの?



この人も思考に返事するタイプか。下手なこと考えたらやばいな。


「だからちゃんと敬意を持ちなさい!」


ナギがジト目でこちらを睨む。タライは良かったのが尚更わからん。ってかムカつくなこいつ。

それでも癪だが、一理ある。対峙しているのは神さまだ。必要とされてここに来ている。


「あの、俺なにをすればいいんでしょうか?」


「とりあえず千葉チバは話聞いてて。わかるから」


「は?」


こいつと話すのもうやだ。


「ああ、そうか。この子が、、」


視線を感じる。でもこれは敵意じゃない。

どちらかというと、、、


「逸材なんだよ〜友達がくれたの!」


やっぱ売られたのか。ってか今更だけど、俺の所有権は俺にあるべきじゃないのか?


「小僧、苦労するだろうな。でも悪いことにはならないから安心しなさい。君のそれもナギに任せれば大丈夫だから」


「あー、はい。が、頑張ります」


緊張感はあるが。威圧的ではない。なんとなく信じられる気がする。

でも苦労するのは確定なのね、、、


「いい子だな」


「褒めていいよ?」


なぜかナギが自慢気だ。俺はナギの道具じゃないんだが。


「よし!ナギ、話を聞かせておくれ。そして小僧!期待しているぞ」


見えないけれど、たぶん笑っている気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る