第2話 しつこい食いしん坊ガールとの昼食
昼休みはなかなか過酷だった。
「
「……」
ぐいぐい俺の制服の袖を引っ張り、廊下へと連れ出す
そのまま屋上まで一直線だった。
誰もいない屋上に2人きりの男女。
「ここまでしつこく絡んでくる必要はあるのか?」
ずっと疑問に思っていた。
俺と同じ【ウルフパック】に所属する冒険者なのであれば、もう少し上手い立ち回り方というものを知っているだろうに。
「決まってるじゃないですか。好きだからですよ、先輩のことが」
「は?」
「勘違いしないでくださいね。別に恋愛的な意味じゃありません」
そこは早々に訂正してくれなくてもいいんだが。
「わたしの目の前にいるのは、ずっと憧れていた組織の幹部、正体不明の冒険者ブラックの正体なんです。推しのアイドルのマネージャーになれるみたいな、そんな感覚なんです」
茶目っ気のある瞳をキラキラさせながら、白桃が詰め寄ってくる。
そしてそのまま弁当を出して食べ始めた。
能天気な奴だ。
そんな直属の部下の様子を見て、俺も考えてみる。
彼女の言う通り、確かに俺は今この東京を騒がせている謎の冒険者ブラックの正体だ。
冒険者には
SSランク冒険者はこの日本にたった1人。
Sランク冒険者は15人。
――そして、俺はAランク冒険者。
17歳でAランクという、日本最年少記録保持者でもある。
俺は高校生であることから、メディアには素顔を公開せずに活動を続けてきた。ブラックは冒険者としての活動名で、芸名みたいなものだ。
つまりすぐ隣で弁当を食べている小娘は、そんなブラックの部下として働けることに興奮している、ということか。
「白桃の言いたいことはなんとなくわかった。ただ……」
「ただ?」
「どうしてこの情報を俺が知らないんだ? 俺、一応幹部なんですが……」
言ってて悲しくなってくる。
最近は組織の幹部の集まりも少ない。
実は俺だけ仲間外れにされているっていうオチはないか。本気で心配した方がいいのかもしれないな。
「山口さんが、サプライズにするから秘密にしてる、って言ってましたよ」
「
山口剣騎は俺と同じ【ウルフパック】の幹部ポジションで、Sランクの実力者だ。
「山口さんのこと、名前で呼んでるんですね」
「幸い、仲は悪くない。幹部の中では1番いいだろうな」
「親しみやすい人ですけど、やっぱり強いっていうか、たまに雰囲気が尋常じゃない時ありますよね?」
「強者なら当然の雰囲気の
「じゃあやってみてくださいよ、才斗先輩」
もちゃもちゃ弁当を
ちらっと弁当を確認してみたが、俺の分だと思っていた2つ目の弁当もなんと白桃の分だった。食べ始めてそんなにたってないはずだが、どうやら食いしん坊らしい。
冒険者の中には代謝が高すぎてとんでもなく食べる奴がいると聞いたことがあったが……こいつがその部類か。
「お前の遊び道具にはならない」
「意外とケチですねぇ、先輩。でもそういうとこも好きです」
無駄に可愛い顔でそう言われると、照れてしまう。
不本意だが。
「え、照れてるんですか? 可愛いですね」
「確認しておこう。白桃は俺の直属の部下なんだよな?」
「はい! もちろんです! なんでも命令聞いちゃいますよ。才斗先輩が望むなら、エッチな命令も」
「よし、そしたらしばらく黙ってくれ」
「いえ、それはできません」
俺を誘惑しようと制服から覗く谷間を見せてきたので、黙らせようと思った。
なんでも聞くと言ったのに、この有様だ。
これだと信用は得られないぞ。
「わたしは才斗先輩とおしゃべりするために部下になったんですよ。黙れと言われても話し続けます」
「もしダンジョンの中で、一言も発せないような状況だったら?」
「それはもちろん黙ります。当たり前じゃないですか」
「だとしたら、今この状況も一言も発せない状況だ」
「そうは思いません」
幹部の地位にいる者として、直属の部下、というものに憧れなかったと言ったら嘘になる。
だが、部下を持つことがここまで鬱陶しいものだとは思わなかった。
「ところで才斗先輩、今日の放課後、デートに行きませんか?」
「嫌だ」
「即答は酷いです。こんなピチピチのJKとデートできるんですよ?
まったく面白くないジョークだ。
少なくとも、ピチピチのJKから出るようなギャグじゃない。
「一応俺だって可能性に満ち溢れた若い男子高校生だ。JKとデートする機会はいくらでもある」
「え、彼女いるんですか?」
殺気のこもった目で聞いてくる白桃。
その視線を向けるべきはモンスターであって、俺じゃない。
「俺は冒険者だ。彼女なんて作ってる暇はない」
「ですよね~。安心しました。才斗先輩に彼女なんていたら、殺していたところですよ~」
「それは俺の自由だろ」
「いやいや、言いましたよね? わたしは先輩のファンなんです。好きなアイドルの熱愛報道が出たら嫌な気分になるでしょ?」
俺はアイドルにハマったことがない。
だからその感情がわからない。
とはいえ、同じ冒険者としては恋人の有無に思うところがあるのかもしれないな。
「それで、放課後デートの件ですけど、わたしは別に最近できたスイーツの店に行こうとか言ってるわけじゃないんですよ」
「わかってる」
溜め息をつきながら、頷く。
「ダンジョンに行くんだろ? だったらデートじゃなくて仕事だ。勘違いするな」
――俺は今日もまた、ダンジョンに
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