第九篇 あまりにも生温い風じゃなかったら

これは、涼しめのある夏のことである。


僕は機械の風が苦手だ。

だから思ったよりも、夏の爽やかに弾けきれない生温い風が好きだったりする。

心地よかったりする。


変だなぁ、でもそうなんだから仕方ないよ。


もしも、今日があまりにも生温い風じゃなかったら、やけになって別方向の電車に乗ってたかも。下手したらちょっとの怪我をしてみて、わざと行けない理由を作ったりしたかも?


布団から目覚めて二回も布団を投げた。地面に叩きつけた。そしてごめんねと呟いた。


階段を降りると怒鳴られるだろう、こんな奴だと卑下されるだろう、って分かってたから生きるのが嫌になった。


駅に着くと、早く急がなくちゃダメだよと、大声で僕に言った。恥ずかしかった。僕がそんなこともいちいち言われないと、何もできないダメ人間のようなものだと、周りに言いふらしたものだ。


僕より遥か年のいったじいさんに訝しがれ、僕と年齢の近そうな若者には、少しスルーされた。見られてる、これは僕の思い込みか、違うのか、それすら分からない。


いつも仮病したがる自分だが、ここ何日は、そして爆発した今日は、はっきり分かる。病んでいた。死にたくなる、病んでいた。


でも今日も電車に乗り、いつもの場所に行こうとする。逃げ出さなかった、逃げ出した過去があったから、同じ過ちをしないように、そんな気持ちもあったな。


でもおそらく理由としては、天が僕の好みを把握して、あまりにも生温い風をくれたから。好きなものひとつあるだけで、嫌なことが続いたときは生きれる気力になるものだ。


もし。あまりにも生温い風じゃなかったら、考えたくもない。

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