幼なじみと、あと幼なじみと、一緒にいるために選ぶこと

日諸 畔(ひもろ ほとり)

意外で幸せな真実

 二人の友達に片想いをしていると思っていたら、二人とも自分のことを好きでいてくれた。しかも、両方を取ることまで受け入れてくれた。

 なんていう、驚きの事実が発覚した翌日のことだ。

 さらにもうひとつ、大変なことがわかった。それを言い出したのは芳人よしとだった。


「実はさ、俺、亜紀あきも好きなんだけど、沙知さちも好きなんだ」

「えっ」

「えっ」


 校舎と校舎の間にある、いつものベンチ。いつものように右側に座る芳人は、バツが悪そうに笑った。


「いやぁ、亜紀が勇気を出してくれたのに、俺だけ隠してるのも卑怯かなって」


 正直で隠し事が少ない。芳人のいいところで、とても好きなところだ。

 それにしても、まさか芳人も友達二人ともを好きだったなんて、びっくりして言葉が出ない。悪い意味じゃなくて。


「ええと、どう、だろう?」


 芳人が少し前かがみになって、左側に座る沙知を見つめる。その二人の間に挟まれるのは、ちょっといたたまれない気分になってしまう。


「うーんと、それはね、なんというか、渡りに船というか、願ったり叶ったりというか」

「ん?」

「ん?」


 沙知は時々、ちょっと古い言い方をする。女の子らしい外見とのギャップが、とても可愛い。


「それは、つまり、あれか?」

「そう、私も芳人、好き」


 色白の頬が赤く染まり、ポニーテールが春風に揺れた。


 しばらくの沈黙。沙知も芳人も、たぶん同じことを考えている。そんな気がしていた。


「なんだ、それはー」


 そう言って抱き着いてきたのは、沙知だった。


「悩んでて損したよ、ほんと」


 我慢できなかったように、芳人が笑い声をあげる。


「それは私もだよ。まさか、三人とも、そうだったなんで思わないもの」

「つまり、天下無双の三人ってことだな」

「なにそれ、ゲームの影響?」

「まぁ、悪いかよ」

「ううん、そういうところも好き。ね? 亜紀」

「うん、いいと思う」

「照れるんだが」


 なんだかよくわからないけど、大きな悩みのひとつは、あっさりと解決してしまった。大好きな二人とくっつきながら笑うと、少しだけ涙が出てきた。もちろん、嬉しい方のやつ。


「それでさ、亜紀はどうするの?」


 笑いすぎたのか、肩で息をしながら沙知が問いかけてくる。そう、重要な問題はまだ残っているのだ。


「それがね、芳人と沙知、どっちに合わせようかなって悩んでたんだよ」


 今となってはもう隠す必要がない。それに、結局は選ばないといけないことだ。いくら両想いとはいっても、結ばれないことだってある。


「ああ、そういうことか。だからずっと悩んでたんだな。俺と沙知はもう決めてたから」

「うん、そうなんだ」


 右側の芳人が納得したように、腕を組んで首を縦に振る。左側の沙知は唇に指を当て、何かを考えているみたいだ。


「亜紀、あのね、私は亜紀が好きなんだよ。どっちを選ぼうが亜紀は亜紀」

「俺も、沙知に同意」

「ありがと芳人。だからね、亜紀は自分の気持ちだけで決めていいんだよ」

「あっ……」


 沙知の言葉で気付いてしまった。決断の理由を大好きな二人に委ねてしまっていたことに。

 それはとても恥ずかしいことで、とても自分勝手なことだ。でも、まだ間に合う。今からでも自分で決めなきゃ。


「そうだね、決めるよ、ちゃんと」

「うん、もちろん相談には乗るよ」

「この前は、押し付けるようなこと言ってごめんな。あれ、照れ隠しだったんだよ。ほんとごめん」

「私も、しつこかったたかも。ごめんね」

「ううん、気にしないで。ありがとう」


 午後の始業五分前のチャイムと同時に、ベンチから立ち上がった。


 

 そして、少し時間が流れて。

 最終期日は、五月五日。ただし祝日のため、実質は五月二日だ。

 申請用紙の入った封筒を、担任の先生に渡す。お父さんとお母さんのサインも、ちゃんと書いてもらった。

 どちらに決めたか、まだ二人には秘密だ。


 昼休み、いつものベンチへ向かう。足取りは軽い。まるでダンスでもしているような気分だった。


「提出してきたよ!」


 いつものベンチには、芳人と沙知が並んで座っていた。こちらに気付くと、真ん中にひとり分の隙間が作られる。二人が仲良くしているのは、なんかすごく嬉しい。


「どっちにしたの?」


 二人の視線が集まる。嬉しくて、照れくさい。


「女の子にしました」

「おおー」

「そうかー」


 両隣りから、手を叩く音がした。なんだか誇らしい。


「じゃあじゃあ、久しぶりにお泊まり会しようね。女の子同士、一緒のお布団で寝るの」

「え、俺は?」

「それは、ほら、せめて十八歳になってから」

「うわぁ、そうきたか」


十四歳の春、自分の性別を自分で選べる社会。選べてしまう社会。

 ジェンダー論と生物化学の行き着く先は、不思議な三角関係も作り出す。

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幼なじみと、あと幼なじみと、一緒にいるために選ぶこと 日諸 畔(ひもろ ほとり) @horihoho

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