人知を超えた犯行を繰り返す者を、人知を尽くして捜査する刑事達の物語です。
鏡堂達哉と天宮於菟子の二人の刑事が奇怪な殺害方法の事件を捜査する〝鏡堂達哉怪異事件簿〟の第二章と位置づけられる本作。
今回は古代中国の伝説の怪異。饕餮と檮杌の二凶に端を発する事件です。
シリーズ全体と同じく本作には、頭脳明晰な探偵役も、全てを見通す異能の捜査官も登場しません。
刑事たちは事件関係者の関係を洗い出し、聞き取りを行い物証を集めます。
集まった情報の疑問点へ専門家の知見を求め、捜査会議で討議し連携する。
至って正当な捜査。地道な手段で、犯人へ迫ります。
そしてこの正当な捜査こそ本作の醍醐味であり最良の要素なのです。
社会を形成する動物である人間。
その最大の能力は〝連携すること〟
力を合わせることです。
人間を超越した能力を持つ犯人に対して、確固とした意志のもとに複数の捜査員が一つ一つ情報や知見を集め、討議し、真実に迫る。
集団の能力を統合して属人的な異能を捉える状況。
普通の人間達の積み重ねた作業が驚異の異能を凌ぐ瞬間。
これこそ本作の真骨頂だと私は考えます。
怪異を捜査する物語は幾つもあるでしょう。
その中にあって本作は怪異に対して常套的な手法を用いて事件を解決する。
そんな稀有な作品なのです。
皆さまへ、御一読をお勧めします。
本作は鏡堂&天宮バディの活躍を描くシリーズの一環です。
このシリーズは刑事バディ物語以外の何物でもありませんが、通常のそれの枠に収まりません。
連続する事件は人智を超える力によって引き起こされており、人間としての知恵と体力と社会的地位だけで敵に挑む刑事にとっては命をいつ落とすかも読めない事態に陥ります。その危機に対して怪異に片足を……いや、ここで止めましょう。
そのような背景を持つ本作は、刑事ミステリーであると同時にホラーファンタジーでもあります。一粒で二度美味しい小説です。
シリーズ開始時から読み続ける皆様にとっては、刑事ミステリーであると同時にホラーファンタジーでもある点について本作も期待を外しません。信頼在るブランドです。
でもマンネリではありませんよ。本作より新キャラが加わり、作中で描かれる人間性について幅が広がっています。この展開はなかった、そう思わせる描写が加わります。以前からのファンが読んでも新しいです。
想定読者について取りこぼしがない本作を広くお勧めいたします。