第11代帝王 ホノリウス2世

人名 = ホノリウス2世

異名 = 節制者

各国語表記 = Honorius II

代数 = 第11代

在位 = 3319年11月13日 - 3340年9月7日

出生名 = ジョナス・D・フルカウル

出生日 = 3262年5月11日

生地 = テナシア

死亡日 = 3340年9月7日(78歳没)

没地 = トラデシオン

継承者 = シトリウス6世

前職 = 動物行動学者・行動学者


ホノリウス2世(ノ:Honorius Ⅱ, 3262年5月11日 - 3340年9月7日)は、世界秩序ノヴァの11代ノヴァ帝王(在位:3319年11月13日 - 3340年9月7日)。出生名はジョナス・D・フルカウル。


== 生涯 ==


=== 生い立ち ===


=== にゅるバース実験 ===

大学卒業論文の「にゅるにゅるの社会形成」が学会で広く認められ、3287年に25歳の若さでノヴァの世界精神衛生研究所(WIMH)所長に抜擢され、にゅるにゅるの行動や社会形成を主として研究を行った。


所長に就任すると東中海に浮かぶ島を取得した。この島に建てられた施設ではフルカウルが率いたプロジェクトをはじめ、さまざまな研究プロジェクトが行われていた。3290年7月、4組のにゅるにゅるがこの実験施設へと移入された。生息地は2.7キロメートル四方のコンクリート製の壁の内部で、高さは14メートルの側面がついている。各面には各面が4つの垂直なグループの「回廊」とよばれる通路があり、「通路」から居住区、給餌器、給水器にアクセスできるようにされていた。餌や水、巣の材料に不足はなく、外敵もいない。唯一の困難は空間が制限されていることのみである。


当初は550日ごとに個体数が2倍に急速に増えていった。3150日目には620匹に達し、その後は成長率が著しく鈍化し、1450日ごとにしか倍増しなくなった。最後の死産ではない出産は6000日目であり、この実験の設定では3,840匹のにゅるにゅるを収容可能としたものの、総個体数は2,200匹に留まった。この3150日目から6000日目の間には社会構造と正常な社会行動が崩壊していることが判明した。行動上の異常としては、子離れの前に子を追い出したり、子の負傷の増加、同性愛行動の増加、支配的な雄が縄張りと雌の防衛を維持できなくなる、雌の攻撃的な行動、防衛されることのない個体間攻撃の増加と非支配的な雄の無抵抗化、などがある。


6000日以降でも、社会崩壊は継続し、個体数は絶滅に向けて減少していった。この時期には雌は繁殖をやめていた。同時期の雄は完全に引きこもり、求愛動作、戦闘を行うことはなく、健康のために必要なタスクだけに従事した。食べる、飲む、寝る、にゅづくろいをするなど - すべて孤独な作業として、である。このような雄はにゅるにゅるとした傷のない健康的な体が特徴的で、「究極のにゅるにゅる」と呼ばれた。繁殖行動は再開されることはなく、行動パターンは永久に変わってしまった。


フルカウルは3307年にこの通称「にゅるバース実験」の詳細な報告書を学会に提出した。この実験の結論は、利用可能な空間がすべて取られ、社会的役割が埋まると、各個体に経験される競争とストレスが複雑な社会行動を完全に崩壊させ、最終的に個体数が終焉を迎えるということだったのである。フルカウルはにゅるにゅるの個体数の運命を人間の潜在的な運命へのメタファーと捉え、際限ない技術の上昇による平穏な時代の持続は、人類種の発展にとって、むしろマイナスになり得ると指摘した(なお、4組のにゅるにゅるを繁殖させているだけなので、近交弱勢による絶滅が発生しうる。)。ちょうどこの時期、世界秩序ノヴァの人口増加率が成立以来初めて鈍化に転じつつあったため、この報告はノヴァの上層部に大きな衝撃を持って受け入れられた。3308年にはシトリウス5世によって帝宮に招かれ、自身の研究結果を直接報告している。


=== 科学文明の黄金時代の研究 ===

にゅるバース実験に触発され、フルカウルは科学文明の黄金時代の人々の精神状態の研究にも力を入れていた。当時、科学文明の黄金時代は人類史における黄金時代の一つに数えられ、人々は便利な技術に囲まれた楽園のような生活を送ったとされていた。しかしフルカウルは世界各地に離散した『スウェッター総記録』を収集し、便利な生活を享受しているにも関わらず、自殺願望や悲観主義的な思想を持つ人々がかなりの数存在していたことを明らかにした。フルカウルは、こうした現象の背景に認知による疾患の具象化があったと考え、文明の水準の上昇は必ずしも人々の精神衛生状態の向上につながらないとの見解を示し、それは現在にも当てはまるものだと主張した。

「未開人は不幸であるという主張は偏見に満ちていると言わざるを得ない。技術力に依存する人間は労働の喜びを知らず、外部知識に依存する人間(科学文明の黄金時代に、インターネット検索による情報の入手に依存するあまり、知識を脳内に蓄積することを放棄した人々を指しているとみられる)は学ぶことの喜びを知らない。未開人には未開人の幸せがあり、文明人には文明人の不幸があるのだ。」

ーホノリウス2世

また、フルカウルは怒量保存の法則の熱心な信奉者であり、人口の減少が世界の安定化に通じると考えていた。ほかにも文明知能相関を根拠に、文明水準の意図的な低下は、人類の認識能力の向上につながるとも述べている。


=== 帝王即位以降 ===

3319年にシトリウス5世の崩御に伴って行われた帝王科挙にて、第11代帝王に即位した。即位後は世界統治が可能な必要最低限のレベルまで意図的に技術力を低下させる持続可能統治政策を施行し、徐々に市民がアクセス可能なテクノロジーを減少させた。これによってホノリウス1世以降、産業革命初期のレベルに保たれていた世界市民の生活水準は大幅に低下した。この政策は、黄金技術の統合によって科学文明を再興するというノヴァ大帝の建国思想に反したものであり、こうしたホノリウス2世の思想は脱ポムソン主義と呼称されている。なお、ノヴァ貴族や行政府の上層部がアクセス可能な技術レベルの低下率は市民のそれと比べて低度ではあったものの、減少はしていた(これはノヴァの上層部に、高度な技術レベルを捨て去ることへの反発が広く存在し、そうした層の支持を取り付けるために配慮を行わねばならないという事情が存在した。しかし、ホノリウス2世の目標はノヴァの上層部を含む世界全体での技術力の低下であり、目立たたないように配慮しつつも徐々に技術を低減させていった。)。


「優れた技術に囲まれた楽園のような世界に生まれた人間は、その楽園が失われるかもしれないという恐怖におびえて生涯を過ごすこととなる。この恐怖は、楽園が無ければ存在し得ない。技術水準の意図的な低下は、世界市民を恐怖から解放することとなるだろう。」

ーホノリウス2世


3340年にシトリウス2世が崩御した時点で、世界全体の技術レベルはルネサンス前期のレベルにまで低下していたが、人口増加率は再び上昇に転じ、世界各地で報告されていた退廃的活動も減少傾向にあった。これらの成果から、持続可能統治政策は後代の帝王にも継承され、以降のノヴァ統治の基盤となり、3600年代にアグリカ1世によって道徳政策が行われるまで約300年にわたって継続した。


== 人物 ==

帝王即位後は帝宮でにゅるにという名前のにゅるにゅるを飼育していた。ほかにも帝宮でペットを飼育した帝王は複数人存在したが、にゅるにゅるを飼っていたのはホノリウス2世のみである(そもそもにゅるにゅるを飼育すること自体が非常にまれであった。)。ホノリウス2世はにゅるにを非常にかわいがり、自身の食事と同じ高級食材を与えたほか、3330年にはノヴァ貴族の最高位である帝公爵に叙している(これは自身の実験によって多数のにゅるにゅるをひどい目に合わせたことに対する贖罪意識によるものと考えられている。)。にゅるにはにゅるにゅるの中では非常に長生きし、ホノリウス2世の崩御後も数十年にわたってトラデシオンで飼育された。なお、帝王によって与えられた帝公爵位は帝王崩御後、30人委員会の圧力によってはく奪されるのが常であったが、にゅるには死亡時まで帝公爵位を保持し続けており、稀有な例である(これは人間とことなりにゅるにゅるが帝公爵位を保持し続けることに対して30人委員会が危機感を持たなかったためである。)。なお、にゅるにの血筋は現在も持続しており、非公式ながらにゅるに帝公を名乗っている。


== 評価 ==


=== ホノリウス12世の評価 ===

ノヴァ帝王の研究者であり、自身も68代帝王であったホノリウス12世は、著書『帝王列伝』で、ホノリウス2世を最も評価が難しい帝王の一人としている。技術力の観点から見れば、ホノリウス2世は世界レベルでの技術の低下を促進し、黄金技術の統合による科学文明の復興というノヴァ大帝の理想を捨て去った背信者ととらえることができる。ここから、高度な技術力に裏付けられたノヴァの黄金時代(パクス・ノヴァーナ)は、ホノリウス2世の政策によって終焉を迎えたととらえることも可能である。一方で、この政策によって人口増加率が上昇に転じたのも事実であり、以降900年という長期にわたってノヴァによる統治が持続したのは、この政策によるものである可能性が高い。つまり、ホノリウス2世の政策は「太く短い世界統治体制」から「細く長い世界統治体制」への移行であり、どちらがより優れた統治体制であるかは歴史学よりも哲学の領域に属するため、直接的な評価を下すのは難しいと結論付けている。


一方で、ホノリウス12世は、ホノリウス2世の脱ポムソン主義がノヴァ貴族と世界帝王とのつながりを断ち切る結果を生んだと批判している。そもそもノヴァ貴族はいわゆるポムソン・スクールに参加した世界各地の有力者の子息を祖としており、ノヴァ貴族が忠誠を誓う対象は世界帝王というよりもポムソンとポムソンの思想であった。ノヴァ大帝の後を継いだシトリウス2世からシトリウス5世に至る9名の帝王は、ノヴァ大帝の思想的継承者であることを明言し、これによってノヴァ貴族の支持を取り付けていたのである。ところがホノリウス2世が脱ポムソン主義によってポムソンの思想からの脱却を計ると、ノヴァ貴族が世界帝王を支持する理由は消滅した。ノヴァ成立より130年にわたって世界帝王の忠実なしもべであったノヴァ貴族が、権力拡大を求めて動き始めた時期はホノリウス2世の治世と重なっており、これ以降に起こったノヴァ貴族と世界帝王との権力闘争は、ノヴァの統治を大きく混乱させる結果を生むこととなる。ホノリウス12世は歴史のIFを語るのはタブーであるとしつつも、ホノリウス2世が脱ポムソン主義を掲げていなければ、35世紀~36世紀の混乱は避けられただろうと予想している。


=== その他 ===


・ホノリウス2世が世界精神衛生研究所ににゅるにゅるを活用して行った「にゅるバース実験」をはじめとする諸実験はにゅるにゅるの権利であるにゅる権を著しく侵害するものであるとして、にゅるにゅる島政府の公式ブラックリストに加えられている(他にもヌルヌルなどがこのブラックリストに加えられている。)。


== 脚注 ==


=== 注釈 ===


==関連項目==


シトリウス5世 ← 3319 - 3340 → シトリウス6世

代数 人名         即位年 退位年 在位年間

1  ノヴァ大帝      3203  3225  22

2  シトリウス1世     3225  3239  14

3  メルクリウス1世    3239  3243  4

4  シトリウス2世     3243  3256  13

5  シトリウス3世     3256  3270  14

6  ホノリウス1世     3270  3281  11

7  レガリス1世      3281  3283  2

8  シトリウス4世     3283  3298  15

9  メルクリウス2世    3298  3300  2

10  シトリウス5世     3300  3319  19

11  ホノリウス2世     3319  3340  21

12  シトリウス6世     3340  3363  23

13  ホノリウス3世     3363  3382  19

14  メルクリウス3世    3382  3395  13

15  レガリス2世      3395  3413  18

16  シトリウス7世     3413  3419  6

17  シトリウス8世     3419  3424  5

18  シトリウス9世     3424  3437  13

19  シトリウス10世    3437  3440  3

20  マルス1世       3440  3446  6

21  ホノリウス4世     3446  3453  7

22  シトリウス11世    3453  3462  9

23  メルクリウス4世    3462  3470  8

24  メロス         3470  3477  7

25  アポロ1世       3477  3478  1

26  メディクス      3478  3484  6

27  シトリウス12世    3484  3484  0

28  ホノリウス5世     3484  3486  2

29  シトリウス13世    3486  3507  21

30  メルクリウス5世    3507  3508  1

31  シリウス       3508  3513  5

32  エデュカトル     3513  3514  1

33  バルカン1世      3514  3539  25

34  シトリウス14世    3539  3542  3

35  ホノリウス6世     3542  3563  21

36  シトリウス15世    3563  3565  2

37  バッカス       3565  3565  0

38  オリンピア      3565  3577  12

39  バルカン2世      3577  3580  3

40  シトリウス16世    3580  3585  5

41  マルス2世       3585  3594  9

42  ホノリウス7世     3594  3627  33

43  アグリカ1世      3627  3657  30

44  アグリカ2世      3657  3669  12

45  シトリウス17世    3669  3674  5

46  ホノリウス8世     3674  3688  14

47  ハルバ1世       3688  3700  12

48  レガリス3世      3700  3720  20

49  メルクリウス6世    3720  3731  11

50  メルクリウス7世    3731  3736  5

51  レガリス4世      3736  3750  14

52  マルクス       3750  3763  13

53  マルス3世       3763  3781  18

54  ホノリウス9世     3781  3784  3

55  ペルセウス      3784  3804  20

56  バルカン3世      3804  3812  8

57  ヘラクレス      3812  3843  31

58  オリハルコン     3843  3870  27

59  シトリウス18世    3870  3887  17

60  ホノリウス10世    3887  3919  32

61  ハルバ2世       3919  3926  7

62  クロノス       3926  3947  21

63  シトリウス19世    3947  3977  30

64  ヘルメス       3977  4004  27

65  ホノリウス11世    4004  4015  11

66  アポロ2世       4015  4046  31

67  シトリウス20世    4046  4069  23

68  ホノリウス12世    4069  4105  36

69  メルクリウス8世    4105  4113  8

70  ハルバ3世       4113  4134  21

71  ハルバ4世       4134  4170  36

72  ホノリウス13世    4170  4202  32

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る