第3話 熱中するものが、変わった日。

唯一中学からのめり込んでいた趣味がある。

それがスケートボード。

これだけは何よりずっと頑張っていた。



名古屋の専門学校に入ってからは、

授業が終わればすぐにスポットへ向かい、仲間たちと滑る。

膝をすりむこうが、手を怪我しようが、トリックが決まるまで何度でも挑戦する日々。


その時までは、パチンコなんてまだ「たまに行く遊び」の一つにすぎなかった。


でもある日——


俺は 「なんか気になる」 というだけで、ふらっと一人でパチンコ屋に入った。


それが、全ての始まりだった。



「少しだけ」のはずだった


パチンコ屋の前を通るたびに、ずっと気になっていた。


煌々と光るネオン。

ガラス越しに見える、派手な演出と、大当たりを引いた客の笑顔。


「ここに入ったら、どうなるんだろう?」


そんな軽い好奇心だけだった。


俺は店の前を通ると、吸い込まれるように自動ドアをくぐった。


音が凄まじかった。

店内に入った瞬間、鼓膜が揺れるほどの爆音。

ジャラジャラと玉が流れる音、リールが回る音、液晶の派手な演出——


名古屋のパチンコ店は、

異世界に来たような感覚だった。


「……すげぇ」


店内をぐるりと見渡しながら、空いている台に適当に座る。


ポケットの中には、1万円。


「まぁ、ちょっと試してみるか」


その時は、「少し遊んでみるだけ」のつもりだった。



初めての一人打ち。


結果は……勝ちだった。


勝った金は、そのまま次の軍資金になった。


また次の日も、俺はパチンコ屋に行った。

その次の日も。


「今日は1時間だけ」

「ちょっとだけ打って帰る」


そう言い聞かせながら、気づけば3時間、4時間と時間が溶けていく。


スケボーの仲間から「最近滑ってる?」と聞かれても、「まぁ、ぼちぼち」と誤魔化すようになった。

本当はもう、スケボーなんてほとんどやっていなかった。


俺の中で、スケボーよりも「パチンコの方が楽しい」と思い始めていた。


でも、問題がひとつあった。


金が、足りない。




ある日、財布の中が完全に空になった。


仕送り日まで、まだ1週間ある。

バイト代も入ってこない。


でも、「パチンコを打ちたい」 という気持ちは、止まらなかった。


……どうする?


その時、俺の中で、ある考えがよぎった。


「親に、嘘をつけばいい」


スマホを取り出し、メールを開く。

親の名前をタップし、文章を打つ。


「学校の教材で必要なものがあって、1万円足りない。振り込んでもらえない?」


送信ボタンを押す指が、一瞬だけ震えた。


でも、すぐに 「送信しました」 の文字が表示された。


10分後、親から返信が来る。


「わかった。すぐ振り込むね」


──振込完了。


俺の口座には、1万円が追加された。


教材なんて買わない。


俺は、その1万円を持って、またパチンコ屋に向かった。



ギャンブル依存症=嘘つき


これが、俺が初めてギャンブルのために嘘をついた日 だった。


最初は「たった1回の嘘」のつもりだった。

でも、一度嘘をつくと、それが当たり前になっていく。


「もう少しだけ……」

「今回だけ……」


そう言いながら、俺は何度も何度も親に金をせがんだ。


それを使い果たしたら、また嘘をつく。


負けるたびに、新しい言い訳を考え、親を騙して金を引き出した。


気づいた時には——


俺はもう「ギャンブルをするために嘘をつくこと」に、何の抵抗もなくなっていた。



ギャンブル依存症=嘘つき。


この時から、俺は「嘘で金を作る人生」に足を踏み入れてしまったのかもしれない。


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