ギャンブル負け額1億円。俺はまだギャンブルをやめられない。

杉園浩然

第1話 どうしてこうなった。


財布の中を覗く。


──残り、1600円。


いつものことだ。

現在、ウーバー配達員をしつつ、親、ばあちゃんに何かと嘘をついてお金を貰いながら

生活をしている31歳。


「今回は慎重にやろう」と毎回思うのに、気づけば手元には何も残らない。


部屋の隅にあるテレビも、買ったばかりのイヤホンも、ゲーム機も……

売れるものは全部売った。


それでも、俺はまたギャンブルをする。


バカだと思うだろう?

俺だってわかってる。

ギャンブルなんて負けるようにできてる。

それでも──「もしかしたら」の一言が、脳内にこびりついて離れない。


「パチンコ屋、行くか?」


スマホを開く。

検索履歴は、いつも「設定状況 〇〇店」「◯◯の勝ち方」 「競馬予想」 「競艇」

そんな情報、今まで一度も役に立ったことはない。


けど、わかっていてもやめられない。


──ピリリリリッ。


電話が鳴る。


画面に映るのは母親の名前。


「……っ」


一瞬、躊躇う。


出るべきか、無視するべきか。


結局、俺は応答ボタンを押した。


「もしもし?」


「ケンジ、あんた仕事ちゃんとしてるの?どこにいるの?」


「あー、今? タバコ休憩中」


適当な嘘が口からこぼれる。


「またギャンブルしてないでしょうね?」


「……するわけないじゃん」


──嘘だ。


俺はいつもこうだ。

金がなくなるまでギャンブルをし、親にバレないように取り繕い、嘘を重ねて生きている。


300万返すと約束したのに、未だに嘘をついて金を借り続けている。

「もう借りない」「今度こそ返す」 そう言いながら、その場しのぎの嘘をつき続けた。


そのせいで、自分の支払いが何を払って何を払っていないのかすら、もう曖昧だ。

家賃? 滞納してるかもしれない。

スマホ代? ギリギリ払えてるかどうか。

借金の利息? もう考えたくもない。


「……ケンジ、もういい加減にしなさい」


「わかってるって」


「本当に?」


「……うん」


俺はスマホを切った。


──家族にはバレていない。


でも、バレていないだけで「信用されているわけじゃない」ことは、痛いほどわかっている。


ふぅ、と息を吐く。


「……それでも、金があればなんとかなる。」


いつもの思考回路。

けど、俺がここまで堕ちたのは、あの日からだった。


──俺が、初めてギャンブルをした日。

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