最終話 百合カプ誕生

※彩音視点に戻ります※


 一方その頃、教室に残った吉田君とわたしは——。


「吉田君、どうする? 帰る?」


 卒業旅行の予定を今日中に立ててしまおうと思ったのに、朱音と藤井君がどこかへ行ってしまったのだ。吉田君と途方に暮れている。


「でも、小鳥遊さんは朱音さんと帰るんじゃろ?」


「うん、まぁ……」


 一緒に帰って普通に話せる自信はないが、帰る場所は同じで、しかも同じ部屋。今逃げてもしょうがない。


「じゃあ、吉田君。わたしらだけで旅行のコース決めちゃお。来ないのが悪いんだから」


「そうじゃね」


 そう言って、吉田君は椅子を引いてわたしの隣に来た。そして、スマホを取り出した。


「じゃあ、まずは、ここなんてどう?」


「どれどれ?」


 吉田君のスマホの中を覗けば、コツンと頭と頭が当たった。


「あ、ごめんね」


「ううん、大丈夫」


 吉田君と目が合う。


「あれ?」


「小鳥遊? どうかした?」

 

「いや……」


 この間までは、吉田君と目が合っただけでドキドキしたり嬉しくなったりしたのに、今は何ともない。頭と頭が当たった日には、赤面ものだ。


「吉田君、手繋いで良い?」


「え!?」


 驚く吉田君の手を取った。吉田君は、ガンッとスマホを机に落とす。


「た、小鳥遊さん。何して……」


「やっぱ何ともないや。お姉ちゃんと手を繋ぐ時は、あんなにドキドキするのに」


(って、ヤバ! こんなこと言ったら、吉田君に変態やと思われる)


 バッと手を離して、笑って誤魔化す。


「はは……ごめんね。って、吉田君?」


 吉田君は眼鏡を外して、前髪をかき上げた。そして、わたしをじっと見据えた。


「小鳥遊さん」


「えっと……」


 吉田君の表情が怖い。正にオオカミだ。


 そして、今までの吉田君はどこへやら。藤井君に負けず劣らずなイケメンの姿がそこにある。


 ガタンッ。


 わたしは、思わず立ち上がった。すると、吉田君も立ち上がる。そして、一歩後退する毎に、吉田君も一歩近付いてくる。


「小鳥遊さん、誰に何したか分かってる?」


「ご、ごめんなさい」


 まさか、わたしと手を繋ぐことがそんなに嫌だったなんて思いもしなかった。


 半泣き状態で後ずさっていると、壁にぶち当たった。


「ひっ」


 吉田君に壁ドンされた。


「本当に、ごめんなさい」


「ほんまに、ごめんで済むと思っとん?」


 壁ドンされてない方の手で、顎をクイッと持ち上げられる。


「僕、小鳥遊さんのこと好きじゃって言っとるの分からんのん?」


「でも、吉田君……」


「僕は諦めようとしたのに、小鳥遊さんのせいじゃけんね」


 吉田君の唇が、わたしのそれに触れようとしたその時——。


 ビシャッ!


 教室の扉が勢いよく開いた。


「吉田! 俺の彼氏になってくれ!」


 藤井君だ。後から朱音も入ってきた。


「…………」


「…………」


 教室の中は、一瞬凍った。氷河の如く。


 そして、急いで藤井君が吉田君を引っ張って、わたしから引き剥がしてくれた。


「お前、彩音ちゃんに何しとるんじゃ!」


「何って、キスしてSEXしようかと」


「お、お前……」


 藤井君は顔が真っ赤になった。


 吉田君は、今度は藤井君の顎をクイッと持ち上げてニヤリと笑った。


「藤井君は、その初心すぎるのどうにかした方が良いよ」


「なッ。てか、お前……誰!?」


(藤井君の気持ち分かんで。わたしもこの人が誰か全然分からへん)


 うんうんと頷いていると、朱音がそばにやって来た。


「彩音、大丈夫?」


「う、うん」


「彩音はやっぱり、吉田君が好きなんやね」


 寂しそうな顔をする朱音に、わたしは即答した。


「ちゃうみたいやわ」


「は?」


「わたしが好きなのは……」


 朱音の手を握った。そして、ギュッと抱きしめた。


「やっぱりや」


 わたしの鼓動は、いつになく早くなった。


「彩音」


「お姉ちゃん、分かる?」


「うん、あたしと一緒や」


 そっと体を離し、見つめ合う。まだ、不安そうな朱音に、きちんと言葉で伝えた。


「わたしもお姉ちゃんのこと、好きみたいやわ。エッチなことしたいくらい」


 照れたように言えば、朱音は泣きながら笑った。


「彩音」


「お姉ちゃん」


 そのままキスしようとしたところで気が付いた。というより、見てみぬふりをしていた。


「お姉ちゃん、あれ何?」


「実はな、藤井君。先生の彼女に任命されてん」


「は?」


 藤井君は、吉田君に後ろからズボンを脱がされそうになっている。


「藤井君が彼氏になれって言ったんじゃろ」


「あれは、フリじゃけん! 本気でヤれなんて誰も言っとらんわ!」


「じゃあ、僕のコレは誰が処理するんよ」


「知らんわ! 自分で勝手にせぇや」


 良い雰囲気を台無しにされてしまったが、朱音とこうして百合カプになれたのは2人のおかげ。笑って見守ることにした。


「てか、わたし。吉田君と付き合わんで良かったわ」


「イケメンやったけどな……」


「卒業旅行どないする?」


「彩音と2人で行くのも悪ないよな」


 色々あった1ヶ月だったが、こうして双子姉妹の百合カプがここに誕生したのだった。


 

               おしまい。


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とある双子の百合カプ誕生までの1ヶ月 陽七 葵 @nanase_haru

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