第24話 やらぬ後悔より、やる後悔
※朱音視点です※
とうとう言ってしまった。
彩音が好きだと。
1・2年生が授業をする中、3年生だけが数名ずつ校門を出ていく姿を屋上から眺めながら溜め息を吐いた。
「はぁ……やっぱキスなんてするやなかったな」
彩音を百合の世界に引きずり込もうとはしたが、どこかで嫌われたくない思いもあって、自分の気持ちは伝えずにいた。
後悔するなら、最初から何も行動しなければ良かった。
「あのー、俺は教室戻って良いかな? 俺、彩音ちゃんらと旅行の計画立てたいんじゃけど」
「藤井君は、相変わらず薄情な男やな。やから彩音にフラれるんやで。そこは、何かあったの? って心配するところやろ」
そう、実は今、藤井君と一緒。彩音と顔を合わすのが怖くて、4人で旅行の計画を立てるはずだったが逃げてきた。
ただ、何故か1人になるのは怖かった。だから、計画を立てる上であまり必要性のない藤井君を連れてきた。
「お前、また失礼なこと考えとるじゃろ」
最近、キレキレの藤井君。あたしの考えが読めるようだ。
「で、何かあったんか?」
「別に」
素っ気なく返せば、藤井君が俯いてプルプル震えている。
「藤井君、笑うなら声出して笑った方がええよ」
「笑っとんじゃないわ、ボケ! 怒っとんじゃ! お前が『何かあったの?』って心配しろ言うたけんじゃろ」
「せやったかな」
藤井君といると飽きない。案外、居心地も悪くない。
「あたしも藤井君みたいな男の子を好きになれれば良かったな」
「なッ、愛の告白か!?」
「せやな」
「え?」
「この際、藤井君と付き合って何も無かったことにするんも良いかもしらんな」
そうすれば、彩音は吉田君と晴れてラブラブなカップルに。それが人間のあるべき姿。
彩音が言うように、女の子同士が、双子の姉妹が恋愛関係になること自体が間違っているのだ。
「良く分からんけど……ごめんなさい。お断りします」
藤井君に頭を下げられた。軽くショックだ。なんなら怒りさえ覚えてしまう。
「藤井君に、一生彼女が出来ん呪いかけたるわ」
藤井君に両手を翳して、それっぽく念を込めた。
「なッ、それ、やめぇや。ほんまになりそうで怖いわ」
「あたしをフッた罰や。観念して男に抱かれとき」
「彼氏は出来るんかい! って、そっちの方が嫌じゃわ」
「藤井君は、次に会った男の人と恋に堕ちる。次に会った男の人と……」
ガチャッ。
屋上の扉が開いた。
「うわ、お前らまだ残っとったんか。はよ帰れ」
担任の男の先生が現れた。
タバコを吸いに来たよう。サッと持っていたタバコをポケットに閉まった。
「卒業前に愛の告白でもしよったんか?」
ズバッと聞いてくる先生。
そして、あたしのでたらめな呪いにかかった藤井君は、先生を見ながらソワソワしている。
フラれたお返しに、あたしは儚げに言った。
「実はあたし、藤井君に告白したんですけど……藤井君、男の人が好きみたいで」
「マジか」
「な、先生。違いますよ。お前、変なこと先生に言うなや」
焦っている藤井君。
気が紛れて良い。とにかく今は余計なことを考えたくない。出来ることなら、1ヶ月前に戻ってやり直したい。彩音に嫌われるくらいなら、このままいなくなりたい。
「先生は良いと思うぞ。別に」
「え?」
「男が男を好きになったって。それに、好きな気持ちを押さえて生きる方が辛い時もある」
「へー、先生が先生らしいこと言っとる」
藤井君は感心したように先生を見た。その横で、あたしの胸には今の言葉が強く響いた。
「相手に気持ち悪がられてもですか? 相手に気持ち悪がられても、ドン引きされても好きな気持ちは伝えるべきですか?」
「小鳥遊? どうかしたのか?」
あたしとしたことが。前のめりに聞きすぎてしまった。
「あ、いえ……藤井君が心配で」
「だから何で俺!?」
「まぁ、先生なら伝えるかな。“やらぬ後悔より、やる後悔”って言うだろ? 正にそれだ。何も伝えなかったら、それはそれで仲良しな友達のままかもしれねーけど、言ってたら何かが変わってたかも……とか、ずっと考えて生きるのしんどいし」
真面目に話していた先生が、藤井君に向かってニコッと笑った。
「それに、気持ち悪がられるのなんて怖がってたらゲイなんてやってねーって。な、藤井?」
「だから何で俺なんすか!?」
先生に勘違いされたまま収拾がつかないと思ったのか、藤井君はその場に項垂れた。そんな藤井君の肩に、先生がポンッと手を置いた。
「藤井。1ヶ月したら先生に会いに来い」
「は? 嫌ですよ。卒業してまで先生に会いたくないです。しかも、何で1ヶ月後なんすか」
「さすがに生徒には手を出せん」
「「……え?」」
それはまさか……。
「お互いゲイだと知ってから付き合う方が、さっきみたいな心配は無用だからな。気が楽だぞ」
「それはそうかもしれませんけど……」
先生を警戒する藤井君には悪いことをしたが、同種の先生の言葉が聞けたので、心の中で感謝した。
笑って何もなかったことにも今なら出来る。しかし、それで一生後悔するくらいなら、彩音に嫌われた方がマシだ。
(いや、やっぱ嫌われるのは嫌やな。ちょっと引かれるくらいにして欲しいわ)
自分に甘々だが、とにかく彩音の返事を逃げずに聞こう。そう思えた。
そして、あたしは笑いを堪えるのに必死だ。
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ご機嫌よう、七彩 陽です。
次回、最終話です。
最後まで楽しんで頂けると幸いです。
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