TDF(天下無双でダンスをする布団)。
新佐名ハローズ
骨董品と本の店・喫茶 天下無双。
骨董品と本の店・喫茶 天下無双。我が街エメナレイの中心地、中央交差点から走って5分で辿り着く路地へ入ってゆったり数えながら歩いて3分半の所にある。名前が紛らわしい上にそもそもコンセプトが意味不明だし、ついでに繁華街から若干遠い。
知る人ぞ知ると言えば聞こえは良いが、実際は近場の常連と元探索者である
そこにそれなりな頻度で通う自分も大概変わり者ではあるんだろうが……こちらにもそれなりの来なくてはならない理由がある。というか向こうに来させられているんだが。
「……で、何やねんこれ。無駄にえげつないなぁ相変わらず」
「うふふ~。そうっしょセンパイ。今度は間違いなくバカ売れ間違いナシっすよ!」
店の奥まった部分にあるテーブル席で、脇によけられた本来の主役であるカフェオレや軽食を差し置いて机上でブレイクダンスを決めまくる、手乗りサイズの手足がついた布団達。
そしてテーブルの向かいから自信満々の腕組みポーズでオレを見てくる、狸耳と尻尾のついた狸獣人なオレの自称後輩、タセナ・リンコース。わざとかは知らないが、相変わらず根拠のない自信と脅威の胸囲だよ、お前さんは……。
オレと彼女はこの国でも有数の学術研究都市であるグルコマンナの国立総合大学錬金魔法学科の出身だ。この店があるエメナレイからは東に150km、オレの故郷である商業都市サイカンはここから西へ300km程の場所にある。
在学中からその鬼才っぷりは相当だったが、今目の前で動きまくっている謎の自立式布団型ソフトゴーレム『フットンダー(仮)』のように、タセナのセンスは明後日の方向に振り切れている。やっていることは従来の常識を覆す革新技術の塊なんだが。
本来ゴーレムといえば四角い岩石のような身体を思い浮かべるように、硬質な素材で作るのが当たり前だった。そもそもが古代遺跡の守護者から来ているので、兵器としての耐久性や作動回路の伝達効率を考えれば自ずと素材は特定のものにしか目が向けられなかった。
それをこいつときたら、『歌って踊るぬいぐるみが夢の中に出てきたから』という理由だけでそれを実現するべく、軟質素材を用いて柔軟性を持たせたソフトゴーレムという異色の存在を自力で開発してしまったのだ。
基本的に野良の錬金術師というのは存在しない。力の使いようによっては国に災いを齎しかねないという過去の教訓に則って、この国では国家資格を有しない錬金術師は罰せられる。他にも貴族が技術の秘匿や独占をして不要な力をつけられても困るという、監視の意味合いもあるようだが。
とにかくこのまま無資格でいれば国家的にも本人の身の安全的にもよろしくないという判断で、彼女は特待生として異例の入学を果たしている。
その監督を担当した教官がオレと同じだったというのがタセナと出会ったきっかけだが……これは仕組まれたものだった。
オレの実家は商業都市サイカンにある中堅商会を頂点とする傍系の血筋なのだ。今までにない特異なゴーレムを開発した彼女に商機を見出した商会長が、傘下と言えるオレの家に口を出して三男坊であるオレを潜り込ませた。まあ色々あってこっちも錬金術の道を狙っていたというのも影響したんだが。
ならなぜセンパイ呼びなのかって? オレが正規の入学時期で彼女がそれよりも遅れて入ってきたというのはあるが、編入直前に学内で偶然出くわした時に向こうがオレをひと目見て『なんかセンパイっぽいな~』と思ったからだそうだ。
それ以来何度言っても直りゃしない。結局オレのあだ名みたいに定着してセンパイ呼びにもいい加減慣れたが――
「……センパイ、センパイってば。ちゃんと話聞いてます?」
こっちの気も知らずに
正直オレがどこかの差し金なのは、こいつの親父でもある店のオーナーにはバレてるんだろう。それでも何も言わずにいるのは信頼されているのか、やれるもんならやってみろという事なのか。
あの親にしてこの娘あり。どちらも一筋縄ではいかないヤバさがプンプンしている。こんな店が続いている辺り、何かオレの知らない面がありそうなんだよな……。
TDF(天下無双でダンスをする布団)。 新佐名ハローズ @Niisana_Hellos
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