なぜか性悪美少女たちのヘイトが俺に向けられているようですが。
はるのはるか
1. 陰キャぼっちは華麗に。
俺の名前は
日常を平穏に、誰と絡むでもなく何事にも巻き込まれることなく一日を過ごすことが、陰キャぼっちのやるべきことだ。
ごく稀に陽キャに絡まれている不運な陰キャを目にするが、あれは陰キャ側にも非があると俺は思っている。
陽キャは肉食動物と同じ存在で、目をつけた獲物はしとめなければ気が済まない。
そんな凶悪な存在に顔を向けて、目を合わせてしまったが最後、陰キャ潰しをされて終わりというわけだ。
特に、苛立っている陽キャはまさに飢えた肉食動物の如く危険極まりない。
人間観察をしている陰キャは同じ陰キャから見てもアホだ。
顔を伏せ、獲物として目をつけられないよう教室の片隅にいればいいのだ。
それでも、世の中にはほんの一部だけの紛れもない善者が存在する。
残念ながら俺に本物の善者と偽善者を見分ける術はまだないが、外面を快く接してくれるだけでも陰キャ的には嬉しいのだ。
例えば授業課題でノートを代表者が回収するとき、たった一言「よろしく」と、そう言って渡しただけなのにあからさまな態度を取られた挙句、無視で終わった。
今の四文字のどこに不備があった?それとも俺の顔が悪かったのだろう。
それでも善を少しでも持っている人は、苦笑いの一つはしてくれる。
俺が他者から拒絶される人間だということには、割と早くに気がついた。
ズボラでだらしのない格好で学校に来ればそりゃそうだ。
でもその方がむしろ人間関係に気を遣わずに済むというメリットもあるため、直さずに毎日学校に来ている。
ただし一つ、いや二つ気をつけていることがある。
一つは、だらしなくとも不潔にはならないことだ。
これは陰キャぼっちで三年間過ごす人のための極意として掲げたい。
陰キャだから不潔でもいいとか、不潔だから陰キャというのは大いに間違っているし陰キャの定義に反している。
二つ目は、勉強はそこそこにできる必要があるということだ。
そう、例えばこの前あった英語のスピーチテストが当てはまる。
陰キャがたどたどしく最悪なスピーチをしている光景は、聴く側を不快な気持ちにさせる。
程よい英語力と程よいコミュニケーション能力、ただしアイコンタクトをしすぎると「何見てんだよ陰キャ」となってしまうから要注意だ。
陰に隠れながらひっそりと過ごすにはそれなりのスキルと知識が必要だということを知ってほしい。
そこのお前、面倒臭い生き方してんなぁ、とか思っているだろう。
俺だって人生始まったときからこんな面倒臭い人間でいるわけではない。
過去の経験と実績、そして少しのトラウマを経てここに至る。
別に過去を後悔していない。
教室で誰からも話しかけられないことは、それすなわち自分のスペースを確保できているからに他ならず、誰にも邪魔されることもない。
あぁ、そうでした。
平穏な日常を送ると豪語していたわけですが、先日ひとつ問題事に巻き込まれてしまったんですね。
平穏のために身を避難させると同時に、背後から迫り来る問題を避けていかなければならないのに、どうにも真正面から隙間なく来られてしまうと避けようがない。
これはある日の校内図書室で起こったこと。
俺はいつものように──教室が騒がしかったからであって読書には微塵も興味はないが──図書室の一席で本を読んでいた。
どうせなら英語の学習になるかなと洋書を手に取った。
知っている英単語があると妙にワクワクするのだが、その一文で使われている未知なる数多の単語と文法によって全てが台無しになる。
それでも洋書を読んでる俺カッケェ気分はなかなか悪くもないわけで、必死に読み進めていたのに、突然図書室に馴染みのない叫び声が飛んできた。
咄嗟に活字から目を逸らして声の聞こえた方角を向いた。
こちらから姿は見えないが、大きな本棚二つの間で男女が口論をしているようだった。
後腐りもなく読んでいたページを即座に閉じてこの場を後にしようと考えた。
最悪、本を元の場所に戻さずとも常駐している司書さんがいるのだ、この学校には。
そう思い、出口扉へ向かおうと思ったが足を止めた。
ここの図書室の構造上、彼らが口論している場所を通らないと出口へは辿り着けない。
はてどうしたものかと考えても、答えは出ない。
しばらくお互いの怒鳴り声が飛び交い続け、その間俺は洋書をまた広げていた。
先ほど読んでいたページとはかけ離れた367ページ。
もちろん目で字を見ているだけ読んではいない。
目に映る英字よりも耳で聞こえる彼らの口論だけが頭に入ってくる。
やれ、お前の尽くしすぎているところが重いだとか。
やれ、そういうところが好きって言ってくれたじゃないとか。
やれ、これ以上はお前とは付き合えない。
やれ、ねぇなんでそんな簡単に別れるとか言うの。
聞くに耐えない痴話喧嘩の内容が鮮明に流れ込んでくる。
そうして続いた口論は、突如として終わりを迎えるもの。
たぶん愛の重い彼女が食い下がろうとしたのだろう──話を聞く限りでは。
彼氏が彼女を突き飛ばしたのか、本棚の間から尻餅をついて姿を現した。
俺でも知っている校内で有名なバカップルの彼女だった。
彼氏の方はそのまま怒った様子でこの場を去ってしまった。
彼女の方は、床に尻餅をついたままその場でうずくまって泣き始めてしまった。
嗚咽は聞こえないが、何度も涙を拭う仕草をしている。
俺は本を片手に、ゆっくりと席を立って歩き出す。
元々俺が図書室にいたことは知るまい。ならば泣いているその横をスルーしてもいいだろう。
俺は「どしたん話聞こか」と言える人種ではない。
泣いている横を通り過ぎようとしたそのとき、にゅるっと伸びてきた腕が俺の足首を勢いよく掴みとらえた。
「ひぃぃッ!?」
思わず甲高い声をあげてしまった。
俺の足首を強力に掴んだまま、なおも顔はうずくまって見えない。
「あ、あの……」
「ちょっと待ってよ周防くん」
困り果てる俺に対してノールックで呼んできた。
誰からも認知していないと自負していた俺の苗字をなぜ言い当てたのか。
「女の子が泣いてるのに無視は酷すぎじゃないかな?」
「……俺にどうしろと」
「そこは慰めるとか、一緒になって寄り添ってあげるとかあるでしょ?」
顔はあげない、うずくまったまま説教を垂れているこの女は何様だろうか。
「そんなことしたら、きみの彼氏に怒られるよ」
「はァ?あんな男はもう彼氏じゃねーでしょ。ほらぁ!たった今さっきフリーになった女がここで泣いてるんだよ」
これを顔を膝に埋めた状態で言っていることに驚きを隠せない。
絶対関わりたくない、今すぐこの場を離れたい思いが上限突破した。
「あ、ちょっ……!」
足首から強引に彼女の手を振り払い、本棚の間を駆けた。
手にずっと持っていた本を扉手前のカウンターに置くと急いで図書室を後にした。
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