大人になったうちの子は【KAC20255】
羽間慧
大人になったうちの子は
上の息子二人がやんちゃだった反動で、末っ子が女の子だったときの喜びは大きかった。
おままごとセット、ひな人形、可愛いお洋服。何でも買ってあげたいと思わされた。この子に注ぐ愛情は、旦那や両親、親戚にも負けたくない。闘志を燃やした私の目に、息子二人の寂しそうな様子は映らなかった。
年齢に合わない幼稚なおもちゃを買うくらいなら、娘に費やすお金として使いたい。ちゃんと我慢できるお兄ちゃんが二人もいれば、娘も見習ってくれるはず。そんな願いに反して、小学三年生に上がるころには自分の思い通りにならないことにかんしゃくを起こす娘に育ってしまった。
甘やかしすぎた娘に魔法をかけてくれたのは、中学三年生と小学六年生の息子達だった。
公立の高校入試でピリピリしている長男にとって、ひな人形を早く出してほしいとわめき散らす妹の声はストレスでしかなかったはずだ。自分の進路で手一杯のときに、妹の手を優しく取ってくれたことは誰にでもできることではない。横に並ぶ人がいないほど優れているふるまいは、まさに天下無双と言うべきだろう。
遊びたいざかりの次男も、長男に負けず気配り上手になった。私が買い物へ行っている間に雨が降っていた日は、干していた布団を取り込んでいた。帰って来て早々「布団がない! ない!」と騒ぐ私に言ったセリフは、今でも鮮明に覚えている。「だって、吹っ飛んだからね! ふとんだけに!」とご機嫌で返してくれたのだった。
三月にダンス教室の体験へ行った娘が「誰々ちゃんの服のセンスがない」「みんなが自分のことを褒めてくれない」と愚痴を言っても、息子達は飴と鞭のフォローを使いこなして機嫌を直した。長男が母親役、次男が父親役を担ってくれれば、私と旦那の休める時間が増える。休めた分だけ息子達のお願いを聞ける余裕が生まれる。いいこと尽くしで、悪いことが起きないか不安になるくらいだ。
首席入学・首席卒業で、高校も大学も代表挨拶を務めた長男。
春高バレー初出場の偉業を成し遂げたキャプテンとして、後輩達から胴上げされた次男。
そんな兄の結婚式の余興では、プロダンサーになった娘がスペシャルステージで会場中の拍手を一身に浴びた。
息子達が駄目な女製造機になることもなく、それぞれ幸せな家庭を築いているようだったのだが。
緊急の家族会議を開くため、家に五人が揃うことになった。肝心の議題はというと――
「『俳優と美女ダンサーカップル破局か』って、どういうことだ!」
「あなた、落ち着いて。週刊誌は悪くないわ」
旦那の肩をとんとんと叩く。娘を溺愛していただけにショックは大きいわよね。旦那の形相におびえる娘を息子達がなぐさめていた。
「顔に惹かれちゃったのかな? 昔から、こういう顔に弱いよね」
「確かに、好きそうな顔だな。中学とか高校は俺らの顔が利いていたから、変な虫がつかなくてすんだだけだなんだぞ。顔だけで気を許すなよ」
「うちの妹を手放すなんて見る目がないよ。早く未練を断っちゃおうね。きっぱりとは断てないかもしれないけど」
「俺らがついてるぞ」
兄に溺愛されて困ってます。そんな帯が似合うラブコメ作品を読んでいるようだ。
娘は袖で涙を拭う。
「ううっ。次から付き合う前に、にいに達に相談するからぁ」
「駄目だ! お父さんにも相談しなさい! お父さんにも!」
何だかんだ、うちの男性陣は娘に甘いわね。誕生日でもイベントでもないのにケーキをたくさん買ってきた私もね。
大人になったうちの子は【KAC20255】 羽間慧 @hazamakei
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