水族館

「ねぇ、優真。水族館に深海ソフトとかあるんだって」


 水族館に向かう電車の中、ゴトゴト揺らされながら、優真に深海ソフトのページを見せる。深い海の色をしたソフトクリームでなんかキラキラした物がちょこんと乗っていて美味しそう。


「……あんた、そういうの好きね」


 げんなりした顔して私にそう言う優真からはさっき朝ご飯食べたでしょ、と顔に書いてある。


「まあまあ、そう言わずに、あ、もうすぐ水族館の最寄り駅に着くみたい〜」


 そう言って、駅に着くとルンルンで優真と手を繋いで駅に降りる。少し歩くと水族館までの道のりが書かれた看板を見つけ、スマホで記念にパシャリ。


「そこも撮るの?」

「撮るの〜。なんかこういうのも後々、見返すとここも撮ったな〜とか思うでしょ〜」

「ふーん」


 聞いた癖に全然興味無さそうな優真。それから、少し歩いた所に水族館があり、私は大はしゃぎで水族館の外観もスマホのカメラで撮る。


 チケットも買って発券して、入るとパンフを見つけて、優真に何処が一番見たいか聞いてみる。


「特にないから、紫亜が好きな所行っても良いわよ」

「え〜。まぁ、優真はそう言いそうだな〜って思ってたよ。とりあえず、順路見て回ろ」

「いいわよ」


 色んなエリアがあり、順路を見て回る。


「うわっ! サメおっき〜。あのお魚おいしそ〜」


 大きい水槽の前でのびのび泳いでる魚達を見る。夢中で色々な魚を目で追ってると、優真は何処か微笑ましそうに見つめている。


 なんだかんだ、久しぶりのデートが楽しいのかな?


「紫亜、はしゃぎすぎ」

「そりゃあ、はしゃぐよ〜。だって、目が追い付かないし〜」

「ま、紫亜が楽しそうなら良いわ。そこ見たら次の所に行きましょ」


 私が思う存分水槽を見て、満足した後に次の場所へ。次は小さい展示が多くて、その中にダイオウグソクムシが居た。


「うわぁ〜。動かないや」

「動かなくても生きてるらしいわよ」

「そう書いてるね〜。でもなんか可愛い〜」


 じっとしていて、たまに微かに動くくらい。何となく癒される。


「可愛い……??」


 私的にはこの動かなさが可愛いと思うだけれど、優真にはピンと来ないみたいで首を傾げていた。


「可愛いよ〜!!」


 それから、ペンギンのコーナーへ。


 立ってぼんやりしているペンギンのモノマネをしてみたり、ペンギンをじっと観察していたりすると、優真はおかしかったみたいで肩が震えてる。


「ちょっと〜!! なんで笑ってるの〜??」

「あんたが笑わせに来てるんでしょ。さっきのペンギンのモノマネ、顔までやんなくて良いのに」

「笑わせてないよ〜!!」

「いや、しかもちょっと似てた」


 そう言っていつの間にスマホで撮ったのか、私の写真を見せてくれる。


「むぅ……。ちょっと、口のとんがり足りてない」


 これではモノマネのクオリティが低い。真似をするのならば、もっとクオリティをあげなきゃ。


「……紫亜はどこを目指してんのよ」


 ひとしきり笑った後に、優真はまた肩を震わせて、笑いを抑えていた。


「お昼だ〜!!」


 お昼。水族館にあるカフェに行き、私はカレーとアイスを頼み、優真は私と同じカレーだけを頼んでいた。


「このペンギンがモチーフにされたアイスもおいしそ〜」


 カップにアイスやフルーツ、そしてペンギンの顔が書かれたクッキーが乗っかっていて可愛い。


「そうね。はい、チーズ」


 テキトーに相槌を打って私にスマホを向ける。私もついついアイスを先に食べながら、にっこりと笑ってそのまま撮られる。


「って、もう。優真ってばさっきから私ばっかり撮ってる〜」

「別にいいでしょ」

「優真も一緒に撮ろうよ〜」


 やっぱり、私だけよりも二人一緒に撮る方が良い。その方が記念になるし。


 私のスマホを取り出して、優真に引っ付いて、スマホのカメラを向けると優真は仕方なしと言いたげな顔で一緒に写ってくれた。


「ふっふっふ〜♪」

「なにニヤニヤしてんのよ」


 優真と撮った写真を眺めていると、優真は何処か不機嫌そう。


「えー。だって、優真ってあんまり一緒に写真撮ってくれないじゃん」


 エルちゃんは結構一緒に撮ってくれる、なんて優真に言ったらキレそうだから言わないけど。


 多分、優真はそんなに写真撮られるの好きじゃないんだろうな、って思ってる。


「面倒くさい」

「……むぅ。じゃあ、二人の時は少しでもいいから撮ってよ〜」

「少しならね」

「絶対だよ〜」


 一応、念を押して言ってみるが、一緒に撮ってくれるのは多分、優真の気が向いた時くらいだろう。


 それから、イルカのショーを見たり、カワウソにエサをあげたりして、色々楽しんだ。


 お土産コーナーでエルちゃんやれーなちゃんや家族にお土産を買う。


「あ、」

「なに、どうしたのよ」

「あそこに絶対ハズレの無いくじある!!」


 私が指を指した先には「外れなし、絶対に当たる」と書かれた海の生き物のぬいぐるみのくじ屋。優真は数秒考えたような感じで「引く」と言った。


「私も引こ〜」


 カワウソやペンギンやイルカのでっかいぬいぐるみが欲しくて私も引く。私の結果は普通に小さいぬいぐるみだった。なので小さいペンギンのぬいぐるみにした。


「むむ……。でっかいぬいぐるみ取れる予定だったのに……」


 そう思っていると、私の後から優真が引いている。


 カランカラン。


「あ、当たった」


 優真は見事一等を当てていた。


「え、嘘ぉ!!」


 驚いて優真の所に駆け寄ると優真は私の方をじーっと見つめた後にカワウソのでっかいぬいぐるみにしていた。


「ほら、カワウソよ」

「わーい! カワウソだぁ〜!! ありがと〜!!」


 優真があまりにも自然にでっかいカワウソのぬいぐるみを渡してくれるので、喜んで受け取った。


「って、くれるの!?」


「あげるわよ。そもそも、紫亜の為に引いたんだし、欲しかったんでしょ?」


 しれっとした顔であまりにも当然でしょ、と言った顔をされた。


「ふふっ。うれしっ! 本当にありがとう! 大切にします!!」


 私の為……。それはそもそも、水族館に一緒に来てくれたのもそうだった。


 優真って動物園とか水族館とか動物に嫌われているから、そんなに興味無いだろうし。


 カワウソのでっかいぬいぐるみをぎゅっと抱き締めて、いると、優真が私のお土産や小さいペンギンのぬいぐるみを持ってくれた。


「なんか色々ありがとうね」

「別に良いわよ。このくらい。紫亜が楽しいのなら、私も楽しいから」


 そういう事を当たり前に言ってくれる優真の言葉に頬が赤く染まっていく。いつもいつも、嬉しい言葉をくれる。本当にそういう所も好きだと再認識する。


 そう思っているとパシャっと音がした。


「ふふっ。可愛い」

「あ、撮ったな〜」

「撮ったわよ。好きなんだもの。これくらい許しなさい」


 スマホの画面を自分の方に向けて私に見えないようにしている。


「も〜っ。でも、このカワウソくれたから許してあげる!」


 にっこりと笑って優真にそう言うと優真はまたパシャっと撮った後に私に近付いてキスして来た。


「何、猫がびっくりしたみたいな顔してんのよ」

「……びっくりするに決まってるでしょ」


 私の顔みて思いっきり良い笑顔で笑う優真。そんな優真とは対照的に胸のドキドキが止まらなかった。


 あの後、水族館を出て、電車に乗る。ガタンゴトンと揺れる電車の中でカワウソのぬいぐるみを抱き締めながらウトウトしてしまう。


「寝てて良いわよ。着いたら、起こすから」


 頭を撫でられて、優真の心地よい、大好きな声でそう言われてお言葉に甘えて瞳を閉じた。


 夢を見た。でも、たまに見る昔の嫌な夢では無く、優真と一緒に住んでて一緒に楽しく暮らす夢。


 たまに喧嘩したり、笑いあったり、お互いを好きだと伝えあったりして幸せな夢だった。


 私はそんな夢を見て、この夢が正夢になれば良いなと願っていた。

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