テスト 4

 テスト当日は私は今まできょーかちゃんに教えて貰っていた事を思い出しながら、テストに挑む。


「終わった〜」

「ふふっ。終わったね。甘い物でもどうかい?」


 そう言って、エルちゃんが机に突っ伏す私にイチゴ味の飴をくれる。


「ありがとう〜」


 早速食べると疲れた脳に甘さが染みる。


「おいし〜」

「喜んで貰えたようで何よりだよ」


 そうしていると、スマホが震える。とりあえず確認すると、優真からだったのでメッセージを急いで確認する。「今日、泊まる」と書かれていて、口が緩む。


 やっと会えるんだ。優真に。それが何より嬉しい。


 放課後が待ち遠しくて、私はご機嫌に鼻歌を歌っていた。


 放課後になると、優真が迎えに来てくれて、そのまま部活に行くエルちゃんに手を振って、そのまま着いて行く。


「紫亜」

「なに〜」

「スーパー行くまで時間があるでしょ」

「うん。割引きシール貼ってくれるまで後、一時間ちょいくらいかな〜」

「そ。なら、いい所に行きましょ」

「? 良いところ〜??」


 頭にはてなマークを浮かべながら優真に着いて行く。すると着いたその場所は。


「猫カフェだ〜!!」


 色んな猫がマイペースに行動してたり、寝転んでたりしてて可愛い。


「ふっふっふっ。猫さん、いっぱい集まって来る〜」


 ドリンクと猫のおやつを頼んで、猫におやつをあげたり、撫でたりして癒される。


「かわい〜」


 私が猫を撫で回したり、頭に乗っかられたりして癒されていると、優真の周りには一切、猫が寄り付く事もなく、私を見ながらホットコーヒーを飲んでいる。


「相変わらずモテモテね」

「……優真は良かったの? 猫さんも苦手でしょ〜」

「別に。……私に懐いてくれる猫は居るもの」


 私を見てふっと微笑みながら、ホットコーヒーを飲む優真。


「も〜。私は猫じゃないよ〜」


 なんて言いながら、また他の猫が私の膝に乗っかってくる。


「ま、私は楽しそうな紫亜を見て癒されてるから、紫亜は猫に癒されなさいよ」

「うん。そ〜する〜」


 本心らしく、優真は何処か楽しそうにこちらを見ていた。


 猫カフェから出ると、猫に癒されて、テスト疲れから解放された気持ちになる。


「優真、ありがとう〜。癒された〜」

「別に良いわよ。スーパーに行くんでしょ?」

「行く〜!!」


 スーパーに着いて、惣菜を吟味してから買う。ついでにペットボトルとかトイレットペーパーも買うと優真は黙って持ってくれる。


 優真があまりにも軽々持つので、自分ではあんなに持てないなと思いつつ帰宅。


「優真、今日は本当にありがとね〜。猫カフェ、初めて行ったけど楽しかった〜」


 冷蔵庫に買ってきた物を入れる。


「ま、テスト期間中は全然遊べなかったから」

「あ、気にしてくれてたんだ。うれし〜」

「私だって、紫亜に会えないのはちょっと寂しかったし」

「え、」

「紫亜も寂しかったんでしょ。じゃないと玲奈に私の事、愚痴らないでしょうし」


 あ……。れーなちゃん、優真に言っちゃったんだ。まあ、本人にも薄情者だとよく言ってたから、別に構わないけれど。


「でも、仕方ないのよ。紫亜に会うとその……勉強そっちのけで抱きたくなるし」

「へ、そ、そそそうなんだ〜」


 そんな事を言われると動揺してしまう。まさかそんな理由だとは思わなかった。


「それはお互いに良くないでしょ」

「そ、そうだね」


 流石にノー勉強では赤点になってしまう。それはまずい。


「だから、紫亜の邪魔をしたくないって意味では会わない方がいいと思って」


 ああ、だかられーなちゃんが優真は会いたくないと思うって言ってたんだ。


「それは、その……ありがとう。私の事を考えてくれて」

「まぁ、……だって紫亜、昔からそういう所真面目だし、小学生の時も転校したての時に分からないから私に教えて欲しいって言ってたでしょ」


 ……あ。


「覚えてたんだ。あの頃の事」

「覚えてるわよ」


 ……正直、あの頃は何となく私は仲良しだと思ってても優真にとってはそうでも無いという事は実感していた。


 れーなちゃん程、親しくないし、幼馴染という程の絆もない。だから、ただの友達。それだけ。そう思っていた。


「そっか〜。まぁ、だからこの高校に入ったんだけどね」

「え、」

「優真を追い掛けて死ぬ物狂いで勉強した〜。じゃないとこんな学力高い学校に入らないよ」


 中学生になる頃には多分、優真への無自覚だった気持ちに名前を付けてしまった。出会って、仲良くしてくれた優真への気持ちに。


 友達という関係じゃ嫌だと思ってたあの頃に。だから頑張った。本当は家から近い高校にすれば余裕で入れたのに、それをしなかった。 


「何それ、初耳なんだけど」

「だって、……そうでもしないと優真はきっと私の事なんて忘れちゃうと思ったから」


 自分で言ってて胸が少し痛む。


 でも、それは本当だったと思う。優真を追い掛けなければ、恋人にもなれてなかったし、きっと優真はれーなちゃんと両想いになっていたかもしれない。


「……」

「もう、本当に正直だなぁ。優真は」 


 無言は肯定の証。忘れまではしないかもしれないけれど、久しぶりに会って、「ああ。居たな〜」くらいの程度だったと思う。


「……昔の私は変えようがないから、もう謝らない」

「うん。そうして。今の関係が大事なんだし」

「……だから、今の私はその分、紫亜を幸せにする」

「ふふっ。そう言う言葉をストレートに言ってくれる優真が好きだから、嬉しい」


 真剣な表情で私をぎゅっと抱き締める。いつもの優真の匂いがして落ち着く。私もぎゅっと抱き締め返す。


「ねぇ」

「なに〜」

「今日、抱いていい?」


 改めてそう聞かれるとドキッとする。……まぁ、優真が泊まりに来る時は毎回そうなんだけど。


 ちゅっとキスされて、私の答えを待つように熱い視線で見つめられる。


「いいよ」

「良かった。……あ、そうだ」

「? どうしたの」

「方野と勉強してたんだってね」

「あー。嫉妬ポイント?」

「ううん。元々、私が原因だからカウントしない。それにあいつ、紫亜の事を明確に好きじゃないし、その点、あいつよりは全然マシというか……」


 あいつとはエルちゃんの事だろうか。確かにきょーかちゃんからはおばあちゃんの家に居るクリスティーヌちゃんそっくりと言われた。


「なんか、おばあちゃんの家に居るアルビノの猫さんに似てる〜って言われちゃった」

「アルビノ……ああ。あんた、目が赤いもんね」

「そうなの〜。でも、私が猫だったら、こんな感じなんだろうな〜って少し思っちゃった」

「そう。紫亜が猫でも大事にするわよ」

「ちょっと優真の事、嫌っちゃうかもよ〜。シャーって」


 何故か動物に好かれてないし。動物に嫌われちゃってる理由って、多分、優真が天然に出してる威圧感な気がする。


 なんか威圧感があるんだよねぇ。優真って。


 小学生の頃、初めて会った時、私の態度が悪くてシカトしてたけど、なんか圧が強いなって思ってたし。


「ぷっ、ふふっ……あんた、本当にそうやると猫っぽい」

「もう〜。笑わないでよ〜」


 それから、お風呂入ったり、ご飯食べたりして、二人でベッドの中。


「……優真って今日、本当に容赦なかった。足つるかと思った」


 ぷいっと優真からそっぽを向いて、ぷんすかしていると優真は笑って謝る。


「ごめんごめん。久しぶりだったから、気持ちが抑えきれなくて。……でも、気持ち良かったでしょ」


 その自信本当に何処から、来てるんだ。気持ち良かったけど。


「優真に触られてるから、そりゃそうだよ。……その、触り方が優しいから好き」

「そう。それなら良かった」

「でも、無理って言っても大丈夫って言いながら、するのは良くないと思います〜」


 何回達しても、優真が「まだしたい」とか「紫亜なら大丈夫」とか優しく聞き心地良い声で囁きながらしてきたし。優真から囁かれたら嫌とは言えない。


「……ぐっ、本当にごめん。これは嫉妬ポイント溜まった時に頼む事にする」

「そうして。……でも、その時の為に少しは体力付けとくね」

「朝、一緒に走る?」

「……す、睡眠時間が欲しいので、休日に公園とかでお願いします」

「ふふっ。分かった」


 柔らかく優しい声、恋人の私にだけ話してくれる声。優真の事が本当に好きだと身に染みて、思う。

 それから、取り留めのない話をしながら、私はすんなりと眠りの世界に入り込んでしまった。







 今日はテスト結果が分かる日。


 私はきょーかちゃんのお陰で怪しかった教科の赤点は無事に回避していた。


「良かった〜。赤点なかった〜」

「ふふっ。それは良かったね。私は少し前よりは点数が落ちたかもしれないね」


 エルちゃんが少し考え込むような仕草。確かにエルちゃんは放課後になると慌てて帰っていたから、家の手伝いを頑張っていたのだろう。


 やっと最近になってエルちゃんのおじいちゃんの腰の調子が良くなったらしくエルちゃんは普段通りの生活に戻った。 


「それはしょうがないよ。エルちゃん忙しかったんだし」

「いや、それは言い訳にはならないな。……それに今回のテストは意地悪な問題が多くなっていたのもあるかな」


 エルちゃんは偉いなぁ。私なら家の手伝いを頑張ってたし仕方ないって思うけど。


「確かに多かったね〜。きょーかちゃんに教えて貰わなかったら、引っ掛かってたよ〜」

「ふふっ。そうか、紫亜は方野さんと一緒に勉強していたんだね」

「うん。きょーかちゃん、なんだかんだ優しく教えてくれたよ〜」

「それは良かった。紫亜が楽しそうで」 


 私の頭を撫でてくれる。エルちゃんの手ははなんか暖かくて好きだ。


 それから、テスト結果を見に行く。


「ふむ。七位か」

「え、凄い〜!! 私なんて貼り出されてる五十位以内に居ないよ。今度貰えるテスト結果の詳細で順位確認するしかないよ〜」


 順位が前よりは上がっている事を祈るしかない。前より下がってたら、少し落ち込むけど。


「それにしても、れーなちゃん凄いね〜」

「ああ。同率だが方野さんと一緒に一位だね」 


 そうれーなちゃんときょーかちゃんは同じ点数で同率一位だった。


 そして三位は十点差で優真だ。また三位をキープしているのは凄い。


「南 玲奈と同率一位……」


 驚いているのか眼鏡をクイクイしながら、見ているきょーかちゃん。傍から見ると面白い。


「そうですね。京花ちゃんと同じ点数ですね」


 にっこりと花が咲くように微笑むれーなちゃん。いつの間に来ていたんだ。


「……初めて並んだ」

「並びましたね」

「きょーかちゃん、れーなちゃんの事、ライバル視してたからねぇ」


 のんびりとそう答えるとれーなちゃんは「そうなんですか?」とやんわりと答える。 


「南 玲奈」

「はい」

「今度はあなたに勝つわ!! 二位の苦渋を味わいなさい!!」

「ふふっ。受けて立ちます」

「……言ったのは私だけれど、あなた、見た目に反して血の気が多いわね」


 きょーかちゃん。れーなちゃんは意外と戦闘狂だよ。私も最近知ったのだけれども。


「そうですかね〜?」

「そうよ!」

「まあまあ、きょーかちゃんが前にれーなちゃんと一緒に勉強したいって言ってたよ〜」

「ちょっ!! あなた!!」

 慌てふためくきょーかちゃん。なんか可愛い。

「ふふっ。良いですよ。いつやりますか? 私の家にします?」

「え、……いいの?」


 許可を貰えるとは思ってなかったみたいで、きょーかちゃんは驚いていた。


「ふふっ。良かったね。紫亜」


 今まで皆のやり取りを微笑ましく見守ってくれていたエルちゃんは私にこっそりと耳打ちをする。


「うん!」 


 なんだかんだ、れーなちゃんと一緒に勉強出来る事になったきょーかちゃんは嬉しそうに笑っていた。


 れーなちゃんと仲良くしたそうだったきょーかちゃんがそのままれーなちゃんと連絡先を交換していて、その姿を私は微笑ましく見ていた。

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