最終章
ファンクラブ
「北見さん。……まさか本人にバレてしまうとは」
どうしてこうなったのだろう。
私はただ、休み時間に物を落とした同級生に物を拾ってあげただけなのに。
私は今、空き教室の一室に居る。ここが私のファンクラブらしい。
ちなみに会員は百人以上居るらしく、嘘だぁ、と言われた今でも思ってる。
何処で作ったんだという私のアクリルスタンドとかうちわとか、隠し撮りみたいに写真とか色々教室に飾ってある。
嫌でもこれが現実なんだと実感させられてるなぁ。
「私のファンクラブってあったんだぁ……」
そう。同級生が落とした物は会員証。しかも、私のファンクラブの。
「有りますよ!? あの美貌の化身、エル様と並んでも遜色ない美人なんて数える程しか居ないのですから!」
めちゃくちゃ力説されてしまった。
美貌の化身……確かにエルちゃんはあの美貌にハーフに高身長ってのもあってとっても目立つ。生きてるだけで人間国宝ってクラスメイトが言っていたのを思い出す。
「確かにエルちゃんと並んでて問題ない人ってそんなに居ないかも〜」
「そうでしょうそうでしょう」
でも、少し引っかかる事がある。それは……。
「あれ? じゃあ、私にもあるなら優真やれーなちゃんのももしかして、ある??」
私にもあるのなら、有りそう。特にれーなちゃん。天使様とか純白のお姫様だ〜とか熱弁してる男子よく見るし。
「ああ。南さんや西園さんは男子多めのファンクラブですね。特に南さんは男子に人気ですし」
「へ〜。やっぱり〜。れーなちゃん流石〜。じゃあ、優真も男の子に人気なんだ?」
恋人のそういう人気を聞くのは嫉妬しないかと言われれば、少し複雑なのだけれど、聞いてみたい気もする。
「西園さんのはもはやファンクラブというよりも、打倒西園さんに燃える男子が多い気もしますね。ほぼ西園さんの研究会みたいな」
「それ、もうファンクラブじゃなくない!?」
「でも、純粋に西園さんを好きな人も居るらしいんですよ〜」
「あ、一応居るんだ……」
絶対それ、付き合いたければ戦って勝ちなさいなんて言った優真のせいじゃん。
「ところでファンクラブって本人にバレるのはダメなの? エルちゃんにはバレてるじゃん」
「エル様は良いのですよ。……むしろ隠せなかったというか」
そう言って、同級生……
「両方入ってるんだね〜」
「いけませんでしたか!?」
「いやいや、芸能人のファンクラブとかでもいっぱい掛け持ちしてる人とか居るから、いいと思うけど。好きな人を応援出来る人は凄いと思うよ」
だいたい私は一般人。そんな私に好きだと言ってくれるだけでも有り難いと思う。
それに応援してる人というのは本当に凄いし。愛や情熱がないとそんな事、出来ないと思う。
「あ、そうだ!」
「な、なんですか?」
「そんなに驚かなくても……。まぁ、いいや。私もファンクラブの見学していい?」
「えっ!?」
「あれ……だめ?」
どんな活動してるのか興味あったから、参加してみたかったんだけれども。
「い、いえいえいえ! むしろ良いんですか??」
全力で首をブンブンしながら、再度私の様子を伺う薄井さん。
「いいよ〜。どんな感じか見てみたいし〜」
本当にどんな感じなのかは気になる。私、好きな芸能人とか居なくて、そういう推し活動みたいな事をした事無かったし。
強いて言えば、好きなマスコットのキャラクターのグッズ買ったりするくらい。
ゲーセンとかでぬいぐるみを見つけたら、取ろうかな〜くらいなレベル。
だから、本当に興味本位だ。
「じゃあ、放課後ね〜」
「はい。放課後、よろしくお願いします」
薄井さんと別れ、私は教室へ。休み時間ももうそろそろ終わるので、次の授業の準備をする。
「ふっふっふーん♪」
「おや、紫亜。ご機嫌だね」
「そう見える〜?」
「そう見えるよ。何かあったのかい?」
うーん。まぁ、エルちゃんになら言ってもいいか〜。
「なんかね〜。放課後、私のファンクラブの様子を見学するんだ〜。推し活とかした事無かったからどんな感じなのか楽しみ〜」
そうご機嫌に言うとエルちゃんは少し考える仕草をする。
「ふむ。放課後、紫亜と喫茶店にでも行こうと思っていたのだが、なるほど。紫亜のファンクラブか……」
エルちゃんが何を考えているのか分からずにはてなマークが浮かぶ。
「……それ、私も参加していいかい?」
「え、私は良いけど、ファンクラブの人達は分かんないから、放課後に聞いてみるね」
「ああ。頼むよ」
煌びやかなオーラを出しながら、笑顔でそう答えるエルちゃんに周りのクラスメイト達は目を焼かれるのだった。
「なななな、なんで!?!? エル様も……こちらは北見さんだけでも緊張してるのに!?!?!?」
ファンクラブの人達は突然現れたエルちゃんに気絶してたり、泡吹いてたりしている。なんか気軽に見学したいと言って申し訳ない。特に良いよと快諾してくれた薄井さん。泡吹いて倒れてる。
「あ、ああっ……あのっ……お茶とお菓子です」
「ありがとう〜」
「ありがとう」
そう言って今にも倒れそうなくらい動揺しているファンクラブ会員の人は紙コップにいれてくれたお茶と色々なお菓子を出してくれた。
「わーい。お菓子〜」
チョコのお菓子、美味しいんだよねぇ〜。
もぐもぐとしていると、会員の人達は心なしかほっこりとしている顔をしている。
「ふふっ、紫亜、これも食べるかい?」
エルちゃんは他のチョコのお菓子を開けて、私の口の前に差し出す。そのまま、口の中に入れてくれて食べる。
……ふむ。これ、ビターなチョコだけどそれでも美味しい。甘いのが苦手な人でも大丈夫かも。
優真、食にこだわりはないけど、コーヒーとかが好きみたいだし、このチョコ、好きそうかも。甘党じゃなさそうだし。
「「きゃ〜!!!」」
「ふふふっ……尊い……」
「ありがとう……ありがとう……」
「今日はもうこれで倒れてもいい……」
何故かファンクラブ会員の人達は私達のやり取りを見て、拝み倒している。
後、最後の人は倒れないで……心配になるから。
「ところでファンクラブの活動って何するの?」
純粋な疑問。何やるんだろ。こういうの。
「好きな所を語ったりするんですよ〜」
「なるほど〜。あれか、私がエルちゃんにこのキャラクターのグッズ可愛いんだよ〜とかちょっと不貞腐れてる顔してる所が好き〜とか言ってるのと一緒か〜」
鞄に付けてるその灰色の猫さんのぬいぐるみを皆に見せる。
ちょっと不貞腐れてる顔の灰色の猫さんのぬいぐるみとかキーホルダーとか最近集めてるし、なんか癒される顔してる。そういう所が可愛くて好き。
「存じております」
「存じてるんだ……」
あまりの即答にびっくりして少し引いてしまった。これ、エルちゃん以外には誰にも言ってないんだけどな。
……優真は気付いた時くらいしか聞いてこないから、まだ気付いてない。
だって、この子にハマったの最近だし。この子を好きになったのもなんか、仏頂面な所が優真に似てるな……って思ったからだし。
「あの! 北見さんもエル様も居るのなら、今回はあの文化祭の劇を皆で観ようかと思っていたのですが、北見さんもエル様も良いですか?」
そういえば、あの文化祭の劇、お母さんと
「観たいかも〜」
「ああ、良いよ。紫亜と一緒に観たかったからね」
爽やかに笑いかけるエルちゃん。そんなエルちゃんに私もにっこり笑いかけた。
「ああ……いい……」
「心のカメラで録画してる……」
「供給過多で狂いそう……」
「こうやって、急に公式がオタクが追い付かないレベルの供給を出すんだ……」
皆、拝んだり、遠い目をしている。大丈夫かな。この人達。
ちなみに文化祭で当番だったり、入れなかったりして、大人気過ぎて、劇を見れなかった人の為に先生にブルーレイを追加で焼いてもらったらしい。そして、先生が快く良いよと言ってくれて皆、泣きながら感謝したそうだ。
私の担任の先生、めちゃくちゃ良い人だな。クラス分も大変だったと思うのに、他の生徒達の分までとか。かなりの枚数あっただろうに。
今世で得積みまくってると思うから、先生に何か良い事あって欲しい。
卒業する際は先生に何かしてあげたいな。本当に。
そして、文化祭の時の劇が再生される。
「王子姿のエル様……ステキ」
「きたみん、本当にビジュ良いからエル様と並ぶと破壊力やばい」
皆、集中して観てくれてるみたいだ。なんか嬉しい。
「皆の反応を改めて見れるのはいいね」
「うん。……午前の部は緊張であんまり客席見れなかったからなぁ〜」
午前の部の劇なんて、客席見る所かセリフと演技が間違ってないかに集中してて、余裕なんてゼロだった。
逆に午後の部は優真のお陰で客席の反応も見れたな。だから、午前の部はよく見とけば良かった〜って少し後悔した。
そして、劇は終盤、あの問題のキスシーンへ。
「「「きゃああああああああ〜!!!」」」
黄色い声でお祭り騒ぎ。
……反応が良い事は良いけど、これ、本当にキスしてる午後の部の方だから、心なしか私の頬がみるみる熱を帯びていく。
エルちゃんは赤くなっている私に、皆に気付かれない様にこっそりと囁く。
「紫亜。来世で一緒になるんだ。恥ずかしくないさ」
「もっ……もう〜!! エルちゃん〜!!」
ポカポカとエルちゃんを叩くとエルちゃんへのダメージはゼロな様でいつもの春風の様な微笑みを浮かべる。
「ふふっ。紫亜は可愛いね」
「もう〜っ!! また優真に誤解されちゃう〜!!」
「来世だから、浮気ではないさ」
しれっとした顔をして私をいつものノリでギュッとするエルちゃん。
エルちゃんの付けてるなんか高級そうな香水の匂いがふわっと香る。
……もう〜。本当にエルちゃんってば、優真を挑発させる行為に躊躇ないんだから。
ちなみにこのやり取りを見たファンクラブ会員の人達はまた黄色い声をあげていた。
ファンクラブの人達にお礼を言って別れる。
帰り際にファンクラブの人達に「これをお納めください」と
初めは無理を言って体験しただけだから、と断ったけど「公式が供給をくれたら、我々は貢ぎたくなるものです」と言われたので、エルちゃんにもありがたく貰っておこうと言われたのでそうした。
「紫亜」
「なに〜。エルちゃん」
そう言って、エルちゃんの方を見るとエルちゃんはにっこりと微笑んでカードを見せる。
「え、」
「紫亜のファンクラブの会員証だよ」
「えぇ〜〜!!! なんで、しれっと会員になってるのエルちゃん!!」
いつの間にか私の会員証を作って貰っていたエルちゃん。そういえば、帰り際にファンクラブの人に何か話し掛けてたな。
「直ぐに会員証が出来るなんて仕事が早いね」
「うん。すごーい。……じゃなくて! なんで作ってるの、エルちゃん」
「記念にさ」
すっごい眩しいくらいの笑顔で言うエルちゃん。言ってる事はめちゃくちゃしょうもないのに。
「記念って……もう〜。エルちゃんが参加したら、毎回ファンクラブの人達、倒れちゃうよ〜」
我ながら、心配するポイントが変だが、エルちゃんの美しすぎる
「ふふっ。大丈夫さ。紫亜の良い所を共感したくなったら、行くだけさ」
いや、絶対エルちゃんが来るって言った時に謎の緊張感に包まれてそうだよ。私のファンクラブ。
「……そうかな」
「そうさ」
本当にエルちゃんってば、油断も隙もない。
「そんな事するなら、エルちゃんのファンクラブに私も入っちゃおっかな〜」
「それは是非ともお願いするよ」
「むむむ……ノーダメージ」
なんていつものやり取りをしながら、エルちゃんと途中まで一緒に帰るのだった。
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