熱 2

 時計を見ると朝の六時。


 あれから、夜ご飯も食べずにずっと寝てたみたいだった。そのお陰か身体が軽く、熱も下がっていたみたいだ。


 ただ、昨日着替えたパジャマも汗びっしょりだったから着替えようかなとは思う。


 少しこちらの戸を開けていて、リビングの明かりが漏れてるから、優真がまだ居てくれるのだろう。約束を守ってくれてるみたいで安堵する。


「紫亜……?」


 寝室の私の物音に気付いたのか、優真は寝室の戸を開ける。


「おはよう。優真、おかげさまで治りました!」

「おはよう。……そう。それなら、良かった。ご飯は食べられそう?」

「うん。食べられそう」

「そ、それなら、昨日紫亜が食べられなかったレトルトのお粥にしようか? そんなに食欲が直ぐに戻る訳ない……だろうって昨日玲奈に怒られたし。あ、後、アイス食べれそう? 他にもプリンもゼリーもあるわよ」


 優真はアイス二個とプリンとゼリーを一つずつ見せてくれる。


「うん。それでお願いします。……その中なら、アイス食べたい」

「アイスはチョコとバニラ、どっちがいい?」

「うーん。……バニラで」

「分かった。残ったチョコは好きな時に食べなさい」

「ありがと〜。……あれ? アイスだけ二つ買ったの?」


 普通に一つだけだと思ってた。


「紫亜、チョコ系よく食べてたから、食べたいのかな、と思ったけど体調悪い時は普通のバニラの方がいいかと思って」


 少し早口になっている優真だが、慣れてないなりに色々考えてくれたのかな。


「そっか。……ありがとうね」


 昨日めちゃくちゃれーなちゃんに怒られたのを思い出したのか、渋い顔をしている優真。中々見れない顔でちょっと面白い。


「ふふっ」

「……なんで笑うのよ」

「ううん。約束を守ってくれてたのが嬉しくて」 


 少し誤魔化してしまったがこれも本音なのでバレないだろう。


「……約束、でしょ。それに今日も居るから、ゆっくりしなさい。無理はしない事。それにまだだるいなと思ったら言って、代わりにするから」

「あ、……うん。そうするね。お風呂、それなら一緒にご飯食べた後に沸かして貰っていい? 汗びっしょりで気持ち悪くて」

「良いわよ。そのくらい。タオルとバスタオルは用意しとくから、ゆっくり入りなさいよ」

「うん。本当にありがとう」


 私もリビングに行かないと、とか後で汗びっしょりかいたからシーツも洗濯機に入れなきゃ、とか色々考えてしまう。


 うーん。治った事は治ったけど、ほぼ半日寝ていたからか、身体が軽いし色々出来そう……とは思うけどまだ病み上がりだし無茶するのは良くないよな、と少しずつする事にした。 


 まず手を合わせていただきますをしてからから、優真がレンジで温めてくれたお粥を食べる。優真はなんかコンビニで朝、買ったのかサラダとおにぎりを食べていた。そういうの食べてる優真を見るのはなんか新鮮。


「優真、それ、朝買ったの?」

「いや、サラダは昨日買ったけど、おにぎりは昨日玲奈がお粥作るのに使ったご飯を少し貰って作って冷凍してた」

「そうなんだ」

「おにぎりなら、レンジ使えばいいし、サラダもドレッシングかけるだけだから楽だと思って」


 なるほど。私がまだ体調悪かった時の為に考えていたのか。


「ま、だからなんか買い物して欲しかったら行って、メモくれれば買いに行くから」

「ふふっ。なんか小学生みたい」

「そうは言っても、メモなきゃ分かんないでしょ」

「そうだね。……助かるよ。ありがとうね」


 それから、お粥を食べて、デザートにカップアイスも食べてから優真に沸かして貰ったお風呂に入る。


 汗で気持ち悪かったから、さっぱりして良かった。一人だと自分で色々やんなきゃだから、残って居てくれた優真は本当に心強い。 


 お風呂から上がると、優真がドライヤーで髪を乾かしてくれて「よく乾かさないとまた昨日の二の舞になるでしょ」と言っていた。 


 確かに濡れたままでいて、また風邪になったら大変だ。


 それから優真には本当に色々して貰った、洗ったシーツを干して貰ったり、お昼と夜ご飯を買って来て貰ったり。


 今、思えばれーなちゃんが優真を不安ながらも置いて行ったのはこういう雑用というかお使いをさせろという意味で置いたのだろう。


 れーなちゃんの事だ。本当に優真が邪魔になりそうだったら、無理矢理にでも連れて帰りそうだし。


「今日は本当にありがとうね。助かりました」


 あっという間に夜。私はそう言って、優真に深々とお礼をする。


 本当に今日は色々して貰ったので感謝だ。昨日全然出来なかった家事を手伝って貰ったりして貰った。


「紫亜は私の恋人なんだし、将来的にはそういう事もあるから、その練習だと思えば良いのよ。玲奈に怒られて、私の至らなさも分かったし」

「……そっか。将来……」 


 定期的に今が幸せ過ぎて、優真みたいにそんな未来まで考えられてなかったな、と毎回痛感する。


「それに私の家事能力はド底辺、という事も改めて身に染みたから」


 いつも綺麗な背筋が曲がるくらいデカイため息をつく優真。そんなに家事が出来なかった事がショックだったんだろうか。


「通りで母さんが私に手伝わせてくれなかった訳よ」


 優真が洗濯機を回そうとしたら洗剤の入れ方が分からなくてテキトーに入れようとしていたり、掃除機かけようとして、ついコードの限界の遠くまで行こうとしてコードを引きちぎろうとしていたりと大変だった。


「れ、練習すれば出来るよ。優真は失敗を学ぶ女だから大丈夫だって」

「……そう?」

「うん。そうだよ!」

「そう。頑張るわね」 


 何とか優真が気分を取り戻して貰えて一安心。優真って引きずると長いから。


「ま、今日は早く寝ましょ。……紫亜、病み上がりだし」

「うん。そーする〜」


 二人でベッドに入って、優真の体温に安心する。一人じゃないんだって。


 寂しがり屋の白猫は深く愛してもらえていると実感する。その愛を果たして私はちゃんと同じくらい返せているだろうか。


 ……そんな事を暖かさに溺れながら思った。

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