アマゾネスクイーン 3

「紫亜、好き。好き。大好き」

「……っ」


 優真に求めて貰えるのはとても嬉しい。あれだけ、私は好きだけど優真は私の事は好きじゃないんだろうな、と思ってた人が今、こんなに私の事を求めてくれているのは素直に嬉しい。


 だけど、……。


「もうっ……無理……だって」


 優真の指先が私の良い所を触って気持ち良い、けど私はもう限界で優真の肩を強めにギュッと握ってしまう。声が掠れる。


「……本当にダメっぽいわね」


 ちゅっと触れるだけのキスをして優真は私の腰が逃げない様に固定している方の手で私の腰を撫でる。


「……っ」


 その手つきがやらしくて、ピクりと身体が跳ねる。


 更に動く指先で私はもう限界を迎えた証拠に身体が震えた。


 ぐったりしている私に優真は事後処理をした上で私の服を着せてくれる。


「……ごめんね」


 しばらくして、筋肉痛はあれど、少し復活した私は優真の肩を摩る。


「別に良いわよ。紫亜からのマーキングみたいで嬉しいし」

「良くないよ〜。爪立てちゃったし、痛いよね……」


 思いっきり爪を立ててしまい、少し優真の肩から血が出ていた。


 しゅんとして、私は消毒した後に猫さんの絵が描かれた可愛い絆創膏ばんそうこうを優真の肩の血が出ていた場所に貼った。


「痕になっちゃったらどうしよう……」

「だから、嬉しいんだって」


 優真は私の両肩をガシッと掴む。


「私だって、紫亜が変な奴に好かれないようにマーキングしてるんだから」

「そ、それは嬉しい……けど、私は優真に怪我させちゃってるから……」


 優真がハッキリと私の事が好きだから、取られたくない為にそういう行為をしていると伝えてくれてる。


「だから大丈夫だって言ってるでしょ。本当に朝まで私に愛されたいの?」

「い、いや……朝までは無理!! 分かったよぅ〜。優真が嬉しいなら、もう気にしないよ〜」


 優真と私の体力差は歴然だ。優真の方が全然体力があるから、優真の気の済むまでしたら、私が気を失ってしまう。


 だから、最近は優真が私に合わせてくれる。思う存分抱きたい、とは口では言うけれど、私が気を失うまでするのはしない。


 それに、セフレの時は泊まる日以外は一回だけだったけど付き合ってからはそうじゃない。それは私の事が好きだからまだしたいって言ってくれてるみたいでなんか嬉しい。


「ねぇ、紫亜」

「なに〜」


 服を着直した優真とベッドに入る。ベッドは二人じゃ狭いけれど、優真の体温を感じられて暖かい。


「紫亜はキスとかセックスは私が初めて?」

「へ?」


 急に何を言い出すんだろう……このアマゾネスクイーンは。


 びっくりして硬直していると優真が頬を染めてぽつりと呟く。


「私は全部紫亜が初めて、私がキスしたのも、セックスして抱いたり、抱かれたりしたのも紫亜だけよ」


 頬を撫でて、私の唇を指でなぞる。


「そ、そんなの……私は優真にしかキスも……身体も許した事ないよ」


 顔が熱くなりながらも、優真の瞳を見つめてそう答えると優真は満足気に目を細める。


「そ、それなら嬉しい。私と同じで」


 少し言うか悩んだが、やはり聞きたいなと思った事を私は気分が良さげな優真に投げかけてみる。


「でも、優真ってれーなちゃんがずっと好きだったのに私とセフレになってくれたのはなんで?」


 答えを聞くのが怖いが、今なら聞いてもいい気がして聞いてみると優真は変な顔をしていた。


 セフレになろう、と言ったのは私だが、優真が初めてが自分なのは嬉しい、と言うのならきっとあの時の優真は初めてはれーなちゃんが良かった……と思う。


 優真は正直だから、答えを聞いて私がダメージ受けるのも目に見えてはいるが。


「言っていいの?」

「……いいよ。聞きたいから」


 優真は言いたくなさげな顔はしているが、私がいいと言うので仕方ないと言いたげだった。


「……玲奈と付き合った時にそういう事をカッコよくリードするのもアリかな、って思ったのと、紫亜は綺麗な顔してるけど、玲奈は可愛い顔してるからちょっと妄想はしづらい……けど、背丈は一緒だしまぁ、いいかって思ったのよ。それに紫亜は一人暮らししてたからやりやすいし、……とも思ってた」

「あ、やっぱり。妥協してる感あったけど、妥協してたんだ」


 やっぱり優真のアレは素直な反応だったんだ……。本当に分かりやすいな。優真。


「やっぱり、れーなちゃんと思いたかったから、私によくうるさいって言ってたんだね」


 地味にショックはある。聞かなければ良かったかも、だなんて、やっぱり私は傷口に塩を塗りたくるのが得意だ。


「いや、あの時はそうだったけど、今は違うから!」


 そう言って、ギュッと強く抱き締められる。


 優真の匂い、体温、呼吸や心音が……身近に感じられる。安心する。


「……分かってるよ。聞いた私が悪いんだから」


 優真に抱き締め返すと、優真は抱き締めながら、軽く私にキスをする。


「紫亜、聞いて」

「うん」

「あの時、紫亜が不安になったり、傷付いた分もこれから愛すから、不安になったり、傷付いたら言って。……私、言われないと分からないから」


 真剣な表情、声。それに抱き締める力がさっきより強い気がする。


 ……それだけ、私に対して本気なんだって伝わってくる。優真の愛が伝わってくる。


「うん。分かった。伝えるね」

「ん、それならいいわ。……私、紫亜に振られるのも、勘違いされるのも嫌だもの」

「あ〜。あの時の優真、泣いてたもんね」


 私が振られたと勘違いした時の優真のメンタルの崩壊っぷりは凄かった。


「そうよ。私、好きな人に対してはメンタルがこう見えてゴミクズなのは自覚してるもの」


 自信満々に言ってはいるが自信満々に言う事ではないと思う。


「……せめて木綿豆腐くらいの強度になってね」

「絹ごし豆腐の方が個人的には好きなんだけど、……まぁ、努力するわ」


 なんて優真と話していたら、いつの間にか寝落ちしていた。









「紫亜、ただいま。……これ」


 朝、起きると優真は居なくて多分日課のランニングに行ってるんだろうと気にせずに洗濯機を回してから、朝ご飯の準備をしていると冒頭通りに優真が帰って来てから、何かを持って来た。


「おかえり〜。なに〜?」


 優真に手提げ袋を渡されて受け取る。そして、私はその受け取った物を確認する。


「うわーい! 野菜だ〜!! ありがとう!! 大根にキャベツにレタスだ〜!! 本当に優真のお母さんに大変喜んでたって言ってね! 絶対だよ! 今度何か優真のお家に持っていくね!」

「……いつも思うけど、私が来た時よりも喜んでない?」

「き、ききき、気のせいだよ〜?? 優真ちゃん大好きだな〜なんて思ってるよ!!」

「いつもより早口なのが余計に怪しい」


 定期的に優真が泊まる時に朝、家に一度帰ってランニングしてくる優真に優真のお母さんから持たされてるっぽかった。


 しょうがないじゃん〜。最近色々高くて野菜も高かったりするから、助かるんだよ〜。家計に優しいんだよ〜と、優真に毎度言ってもピンと来てなさそうだ。


「それよりもご飯出来たから食べよ〜」


 今日は焼き鯖、味噌汁、ご飯、漬物だ。味噌汁はインスタントで、漬物は買ったやつ。鯖も焼くだけでいいやつを買ってきた。


 朝は頭があんまり働かないからこんな感じで良いんだよ〜って、自分で納得している。


 それに毎日色々考えるの大変だしね〜。朝ごはん、お茶漬けとか卵かけご飯だけの日もあるし。


「「いただきます」」

「相変わらず美味しいわね」

「でしょ〜!! 紫亜ちゃん特製あさごはん〜。まぁ、ご飯以外は買ったやつなんだけどね〜。海苔いる〜?」

「いる」


 優真にそう言って貰えるのは嬉しい。それに前はこうして朝も優真とご飯食べられる事が嬉しい。


 セフレの時は優真、朝は帰ってたから夜ご飯くらいしか一緒に食べてくれなかったし、その夜ご飯も食べずにやる事やったら帰ってた時もあった。


「はい、海苔」

「ありがとう」


 それから、黙々と二人してご飯を食べる。


「「ごちそうさまでした」」


 手を合わせて、食べ終わった食器を持って行こうと立つ。


「私が持ってくから」


 そう言って優真が全部持って行って、洗ってくれた。その間に私は洗濯機の洗濯物を干して、少しリビングでゆっくりする。


 優真は私よりも早く洗うのは終えて、スマホを見てた。


「ねぇ、紫亜」

「なに〜」

「あのカワウソって私とデートした日に買った子?」


 優真が指差すのは作った羊毛フェルトを飾る為に置いてある棚だ。


「うん。そーだよ〜。可愛く作れたんだ〜」


 あの日に買ったカワウソは優真とのデートの思い出だからとウキウキで作っていると、いつの間にか可愛く作れていた。


 だが、あの日一度、振られたと思った日に見ると思い出してしまうので、タンスの中に入れてしまったが。


「そう。それなら良かった」

「うん。良かったよ〜」


 本当に良かった。またこの子を飾れて。あの日のまま、タンスに閉まったままだと、せっかく可愛く作れたこの子が可哀想なので、実家に持って行こうかと悩んでいた。


 だから、あの日、優真が来てくれて良かった。この思い出を閉まったままにしてしまう所だった。


「……この白い猫」


 優真がじーっと見ているのは私が羊毛フェルトを初めたばかりに作った白い猫さん。


「その猫さんがどうしたの?」

「な〜んか、紫亜に似てる」

「え、……どの辺が??」


 初めて作った子なので色々と不格好な所もあるが、それを含めて味があると思う。


「なんか色々と、ね」

「えぇ〜。なにが〜」


 ぼかす優真に不服な私。


「ふふっ。教えな〜い」

「えぇ〜!! 優真のケチ〜!!」


 そう言って、私は優真を軽くポカポカ叩く。優真にはノーダメージな様で涼しい顔をしていた。


「ねぇ、紫亜。……この子、くれない?」


 突然の優真の提案に「なぜ?」と言う言葉が浮かぶ。


「うーん。猫さんなら、この黒猫さんとかこっちの茶トラの猫さんとかの方が上手く出来て可愛いよ?」 


 正直初めて作ったもので記念に取っておきたい、とかでもない。ただ単純に優真にあげるのなら、自分がもっと上手く作れて自信があるものをあげたい。


「この子が良いの。……ダメ?」


 優真が自分から物が欲しい、というのも珍しい事で、普段はわりと無頓着な事が多い。


 着ている服もお店のセット売りか店員さんに勧められた物らしいし。


「優真がそこまでして、欲しいって言うの珍しいね。……うーん。人にあげるには初めて作った子だから、納得はいかない出来だけど、一生懸命作った子だから、大事にしてあげてね」

「そうする。……そう。初めて、か」


 優真は私が渡した羊毛フェルトで作った白い猫さんをじーっと見つめる。そして、ふっと笑った。


「紫亜だと思って大事にする」

「……え、」

「初めて、紫亜が作った子なんでしょ?」

「うん」

「だから嬉しい。可愛いじゃない。この子」


 デフォルメの白い猫さん。可愛いつぶらな瞳をしている。確かに可愛くなって欲しくて可愛く作った子だ。だから、優真に褒めて貰えるのは普通に嬉しい。


「そ、……そんなに気に入って貰えるなら、私だと思って大切にしてね」

「ふふっ。そうするわよ」

「あ、その子、キーホルダーに出来るけどそうしようか?」


 キーホルダーパーツを付けてあげれば好きな所に付けられる。


「……そう出来るなら、お願いしようかな」


 そう、優真が言ったのでちょいちょいと白い猫さんに手を加えてキーホルダーパーツを付けてあげた。接着剤を付けた九ピンが乾くまでは優真と話をしていたけど。


「出来たよ〜」


 キーホルダーパーツを付けた白い猫さん。これから、優真に可愛がって貰えると嬉しいな。


 そう思っていると、優真はポケットから私の家の合鍵を出して、その子を付けた。


「あ、……」

「ふふっ。これで私はこの子を一生大事にするしかないわね」

「もう〜っ!! 私が一生ここで住む訳ないでしょ〜」


 照れ隠しにそう言ってしまったが、本当は嬉しい。私のように大事にすると言った白い猫さんを私の部屋の合鍵に付けてくれて嬉しい。


「その時は私と同棲するんだから、この子も違う鍵にお引越しね」

「……そうだね。その時は一緒だね」


 さりげなく、私と将来一緒に居てくれるとまるでプロポーズのようだと思ってしまった。


 優真はそんな事を考えて言った訳じゃないだろうけど、これからも別れずにずっと一緒に居てくれる。そう約束してくれる言葉が心から嬉しかった。

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