アマゾネスクイーン 2

「あれぇ〜。なんでぇ〜?」


 放課後、今日は一緒に帰ろうと言った優真が人に呼び出されたからと、何故か私も一緒に来いとメッセージに書かれていたので、疑問に思いつつも校庭のグラウンドに来ていた。


 グラウンドにはサッカー部の男子と優真。ゴールポストの前に居る。


「西園ぉ!! 俺はお前の隣のクラスの葛西かさいだ!! お前へのリベンジに燃える男だ!!」

「果たし状でここまで私を呼び出すなんて何の用よ。後、前に一度勝負したんだから、葛西の名前くらい覚えているわよ」


 果たし状……。いつの時代? と困惑する私を放って二人の会話はヒートアップしていく。


「……ふっ、ならば良かろう。俺は一年生ながら、レギュラーでキーパーに選ばれる優秀な男。今度こそお前のボールを防ぐ〜!! 勝負だ! 西園!!」

「あら、前に私のボール防ぎきれなくて、ゴールポストにボールを叩き込まれた事、もう忘れたの? 次も叩き込んであげる!」

「……私、要る?」

「「要るわよ!(要るな!)」」

「え、えぇ〜」


 二人揃ってそうは言うが、なんで私まで要るのか意味が分からない。


 なんでぇ〜。勝負なら、私、要らないじゃん。二人でいいじゃん。


 元々、葛西くんが優真に果たし状出したんだし。


「北見。……俺はお前が好きだ。前に俺がクラスで集めたプリントをぶちまけた時に手伝ってくれた上に一緒に職員室まで持って行ってくれた。その上、優しく俺に「葛西くん。やっちゃう時は誰でもあるからね。これでも食べて切り替えてね」と飴をくれた。美少女にそんな事を言われたら、……好きになってしまうだろうが!!」


 確かに本当にプリントぶちまけて、慌てている葛西くんを最近手伝ったな、とふと思い出す。


 いや、でもあんなの誰でも手伝うと思うけど……。


「だから、紫亜と付き合ってる私に勝って、紫亜に告白したいって果たし状が来たのよ。だから、紫亜は要るの」

「うん。意味分からないけど、分かった」


 ……もう、さっき告白してるじゃんとは思ったけど、正式にしたいという事だろうか。


 もう面倒臭いので、そこら辺を突っ込むのは辞めよう。拗れそうな気がする。


「今まで北見ははあの東と付き合っていると思っていたから、お似合い過ぎて俺が告白するのはおこがましいと遠慮していたが、西園なら話は別!! 戦えば告白出来る!! あわよくば、戦って勝つ俺を見て、西園と別れて、俺との交際を考えてくれるかもしれないだろ!! だから、チャンスはまだある!!」

「……理由がシンプルにムカつくわね。完膚なきまでに敗北を叩き付けてあげようかしら」


 優真は露骨にイラついて、髪を払った。


「早く勝負しましょう」

「そうだな! 勝負は単純だ。三回、西園がシュートして一回でも入れば勝ちだ」

「ふーん。一回で良いんだ。また叩き込んであげるわよ」

「さぁ! 来い!!」


 そう言う葛西くんに優真は助走をして、狙いを定めて、力一杯ボールを蹴る。ボールは葛西くんの真正面に飛んでいった。


「バカめ! こんな正面は楽勝に取れ……っ!!!!」


 ドスゥン!!!


「なんか、現実世界でしちゃいけない音したなぁ……」


 凄い威力のボールは葛西くんごとゴールポストに叩き込まれ、葛西くんは見事キャッチはしていたが、無常にも叩き込まれた反動でボールを零していた。


「は、大口叩いてこれ? もっと真面目にサッカーの練習をしたら? あんた、練習しないとレギュラー取られるわよ」


 泣きっ面に蜂。ゴールポストに叩き込まれた上に葛西くんにはとんでもない屈辱的な言葉である。


「優真、葛西くんはちゃんとキャッチはしてたんだよ……優真が人間ごと、ゴールポストに叩き込める人間じゃなければ葛西くんの勝ちだったんだよ」


 私は葛西くんに駆け寄り、優真の煽り文句に泣いている葛西くんにハンカチを渡す。


「ぐぬぬ……人生で初めてゴールポストに叩き込まれてしまった……」

「しょうがないよ。葛西くん。優真はちょっと、人間の枠を越えてるんだよ」

「超人じゃないか……。くそう……俺はまだ凡人だったのか……」

「そうね!」

「うわぁぁぁ!!」

「ちょっと、優真! また葛西くんが泣いたでしょ!! 勝負に負けた人を追い詰めないの!!」

「やっぱり、北見優しい……好きぃぃぃ〜!!!」

「ちょっと! 勝負に負けた癖にどさくさに紛れて告白すんの辞めなさいよ!!」

「収集つかなくなるから、優真は黙って!!!」


 それから、優真が葛西くんを軽々おんぶして、保健室まで連れて行き、私はサッカー部の人達に「うちの優真がすいません」と謝っていた。








「ねぇ、なんか多くない?」

「大丈夫よ。紫亜。その証拠に全部勝ってるじゃない」


 野球、バスケ、バレー、柔道、空手、剣道、相撲、ボクシング、陸上……この学校にある部活の人達、それに帰宅部でも自信ある運動か格闘技で優真に勝負する為に果たし状が連日届いていた。


 ……そして、私も見届けなきゃいけない。


 その上で当然の様に先輩や同級生に勝ち続ける戦闘民族の様なフィジカルモンスターの優真。


「普通は付き合ってる人が居たら、諦めるものじゃない??」

「普通はね。まぁ、敗北を叩き付けた方がすんなり諦めきれるんじゃない? ……それより紫亜、色んな人に優しくしてるから惚れられるのよ。勝負しても勝負してもキリがないじゃない」


 そう言って優真に詰め寄られるが、そんな事を言われても仕方ない。だって今までこんな事がなかったのだから。


「まさか、隠れて勝手に牽制してくれてたエルちゃんに感謝する日が来るなんて……」


 中学の時もそこそこされた事あったけど、まさか高校で倍増するとは……。


 ただ、高校になって急に無くなったから、私のモテ期は終わってしまったのか……くらいに思ってたのに。


「ぐっ……俺は諦めないぞ!! 西園〜!!」

「あ、勝ったのに放置しすぎたわ。やる気があれば挑みなさい。……まぁ、でもコテンパンにしてあげるけどね」


 ちなみに今日の勝負は柔道だった。見事な背負い投げで瞬殺だった。


 優真に苦手なスポーツや格闘技って有るんだろうか。


「帰るわよ。紫亜」

「うん。……えと、本当にお邪魔しました」


 優真が豪快な背負い投げをした柔道部の先輩にぺこりと礼をして、私も優真と一緒に出て行った。


「紫亜」


 私の部屋に帰ってきた途端、優真にギュッと抱き締められる。


 優真の匂いは好きだ。ふわっと香るのは柔軟剤の匂いだろうか、でも、この匂いを他の人がしていても多分、好きな匂いとは思わないだろう。優真がこの匂いをしているから好きだ。


「……なに〜」

「紫亜がこんなにモテるなんて予想外なんだけど、私の時はコテンパンにしたら二度と勝負しに来なかったのに」


 ……まぁ、本人がこんなに強かったら、勝てないと諦めるよね。超人に凡人は勝てないよ。


「付き合ってる相手がエルだと思われてる時は無くて、私になった途端こんなにモテてるのも不満」


 なんかエルちゃんとお似合いって思われてたらしく、そりゃあ、優真は不満だろうな、と思う。


「もう〜。どうせ、優真は負けないんだから、大丈夫なんでしょ〜? ……それに私が好きなのは優真なんだから、勝って欲しいな」


 最後の方の言葉は小さくなってしまったが本音だ。


 優真が負ける所なんて見たくない。勝負を挑まれても全戦全勝してるから、アマゾネスクイーンだなんてあだ名を付けられてるんだし。


 ……私の事が好きだから、本気で勝ちに行ってるのが分かって正直、嬉しい。


 優真の愛を感じられるから、優真は鬱陶しいかもしれないけど、私は勝ち続けている優真を見て、安心する。


 まぁ、でも嬉しい反面、流石に多すぎるとは思うけれども。


「……まぁ、負ける気は無いけど。紫亜、こっち向いて」


 ちゅっと向いた瞬間、キスをされる。


「ほら、紫亜のこういう顔を見れるのは恋人わたしの特権だから」


 頬がりんごの様に蒸気する。でも、それは仕方ないと思う。やっぱり優真にキスされるのは嬉しい。そして私も優真とキスするのは好きだ。


「当たり前でしょ。優真以外に誰に見せるの」


 私の答えに気分が良いのか、優真はそのまま深いキスをしてくる。


「……はぁっ」


 唇を離したかと思えば、またされて舌を段々絡めていく。まるで私の唇や舌を食べられているみたいだ。それほど、私を追い求めて止まない。


「……今日は……泊まるの?」


 唇がようやく離されたので、いつも聞く事を聞く。


「泊まる。やっと明日休みだから、紫亜に癒されたい」


 いつも戦うのも疲れると言いたげに優真は私にもたれかかってくる。


「もう〜。疲れてんのは分かるけど、優真がもたれかかってくると私も倒れちゃう〜」

「ごめんごめん。……ちょっと紫亜のベッドで寝ていい?」

「いいよ。ご飯出来たら起こすね。……珍しいね。優真が寝不足なんて」


 いつも謎に朝は規則正しく起きるし、夜は夜でいつ寝ても寝不足だ、って言ってる所も朝、欠伸してる所も見た事ない。


 私みたいについつい読んでる小説が面白くて〜とかこのドラマの続きが見たくて〜とか、羊毛フェルトが出来上がるまで作りたいから、とかそういう趣味の時間の夜更かしもしない。


「ごめん。ありがとう。……最近、紫亜を抱いてないから、明日は休みだし、思う存分紫亜を愛したいなって思ったから、今から寝溜めして紫亜を抱く」

「〜〜っ!!!! 理由が不純!!」

「でも、紫亜は嬉しいでしょ?」

「う、嬉しいけどさ〜。それ、心の準備しとけって事じゃない?」

「そうだけど」


 そう真顔で言う優真に私は顔を真っ赤にさせながら夕飯の準備をするのだった。

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