第二章
アマゾネスクイーン
「エルちゃん、おはよう〜」
「ああ。おはよう。紫亜」
夏休みが終わり登校日になる。ちなみに優真と付き合った事はエルちゃんにメッセージで報告はした。
「あの……エルちゃん!」
「ん? なんだい?」
穏やかに反応してくれるエルちゃん。なのでずっとソワソワしていた私は少し息を吐く。
「はい! 誕生日おめでとう! プレゼント!」
エルちゃんの誕生日は九月一日だ。私の誕生日と近いねと話したので間違えはないと思う。
「ふふっ。覚えてくれたんだね。ありがとう」
本当に嬉しいみたいでエルちゃんの高貴オーラが凄いっ! いつもの倍の貴族感っ!!
「そりゃあ、もう〜。紫亜ちゃんはエルちゃんの親友だからね!」
そう言って胸を張ると微笑ましそうに私を見るエルちゃん。
「開けていいかい?」
「どうぞどうぞっ」
エルちゃんは早速紙袋を開ける。
「ほう……。これは、」
「ふっふっふっ。シャンプーセットだよ!」
エルちゃんは普段から髪が綺麗だなぁ……。後ろで括ってるだけだけど、すっごいサラサラしてるなって思ってたんだよね。
だから、何あげようかな〜と思った時にそういうのをあげるのもアリだと思った。
「ありがとう。紫亜。嬉しいよ」
エルちゃんは微笑みながら、頭を撫でてくれた。
「えへへ〜。喜んで貰えて私も嬉しいよ。あ、これ、京都のお土産〜」
「お、人気のお饅頭じゃないか、いいのかい?」
「うん。十個入ってるから、おじいちゃんとおばあちゃんと食べてね」
「ふふっ。ありがとう」
エルちゃん誕生日だし、お饅頭もちゃんとちょっと良いものを奮発した。その代わり、私には優真がくれたお値段は可愛くないけど、とっても美味しいお饅頭があるから大丈夫だ。
なんて思っているとクラスメイトはエルちゃんのいつも以上の輝きにやられている。
「うわっ! エル様!! 顔が良いっ!! いつも以上に良い!!」
「エル様……私の誕生日プレゼント、あえて受け取らないで欲しい……」
「東……俺、手酷く東に振られて、俺なんか眼中にねぇよな……もっと罵ってくれって言いてぇよ……」
「ハァ……ハァ……いつも以上に推しカプが輝いてるっ!! 課金しないでいいの? 本当に?? 無課金でこのやり取り見ていいの?」
なんか途中、ちょっとヤバい人が居た気がするが気のせいだと思う。聞かなかった事にしよう。
相変わらず、ウチのクラスメイトは元気だな……と思うだけにした。
「ねぇ、エルと紫亜、近過ぎ」
数日過ぎたある日、優真とれーなちゃんと一緒に私のクラスでお昼を食べていた。
ジト目で私を見る優真。
あー。うん。エルちゃんとはついつい距離が近くなるからアレだけど、今は優真の彼女だもんなぁ。
「ごめんごめん。つい、おかず交換したりしちゃうからこうなっちゃうんだよぉ〜」
「ふふっ。優真ちゃんってば、ヤキモチ妬きさんですね」
弁解する私にそれを見て微笑むれーなちゃん。そして、あえて私の肩を抱くエルちゃん。
「優真。紫亜とは親友なんだ。何もおかしい事はないよ」
「うわぁぁぁ!! なんで優真を煽るの!? エルちゃん!」
「そう。私の彼女なのに、紫亜は私の目の前でエルとイチャつくんだ」
全然目が笑ってない!? 笑ってないよ!?
そして、ザワつくクラスメイト達。
「え!? 東と北見って付き合ってないの!?」
「エル様ときたみんって絶対付き合ってると思ってたのに!?」
「紫亜ちゃんとエル様が付き合ってないなんて……嘘よ!」
「アマゾネスクイーンの西園さんと紫亜ちゃんのカプか……ちょっとアリかも」
えっ……なんで、皆、私とエルちゃんが付き合ってるって思ってるの。
「……というかアマゾネスクイーンってあだ名付いてるの……優真」
なんだそのあだ名……と思ってしまった。アマゾネスって女性の戦闘が得意な民族じゃなかったっけ……。
クイーンという事は女王、アマゾネスの女王。確かに優真は負け無し、戦闘民族ではあるから、そんなあだ名付けられても違和感がない。進学校だからあだ名に捻りを感じる。
「ふふっ。優真ちゃんは自分に告白して、付き合いたければ、その人の得意なスポーツか格闘技で勝負しなさい、と言ってたんです」
「え……、何、その条件」
「一々、断るのが面倒くさいから、何人か告白して来た人を完膚なきまでに負かせれば、それ以降、私に告白してくる人は居ないだろうと思ったのよ。だからそうしたの。それにしても誰よ。アマゾネスクイーンとかいうダサいあだ名付けたヤツ」
アッシュグレージュの綺麗な髪を払って、小さくため息をついていた。
まぁ、優真の場合強過ぎて誰も勝てないって事は有り得ると思う。益々、ピッタリなあだ名じゃないかアマゾネスクイーン。
……ん? ちょっと待って。
「え、男子相手でも勝っちゃったの!?」
「え、うん。楽勝だったけど。……私に負けるくらいだから、もっと強くなるべきね」
いや、うん。それ程、強いんだ……優真。そりゃあ、私がフィジカルでかなう訳が無いよ。
「ふむ。やはり私と紫亜が付き合ってる様に見られていたのか。通りで告白を断る度にやっぱりという顔をされて、「お幸せに〜」と言われる時があったのか、あの時は私は付き合っている人は居ないのに何故だろうとは思っていたのだが……」
どうやら、エルちゃんは合点がいったらしい。
「……あれ、私は告白された事ないな〜」
よく考えたら、れーなちゃんも告白されてる所見た事あるし、エルちゃんは言わずもがなだし、アマゾネスクイーンという不名誉なあだ名を付けられている優真でさえも、
「ああ。それはそうだよ。紫亜が知らない男子に告白される前に私が牽制してたからね」
爽やかな笑顔でとんでもない事を言うエルちゃん。何それ、初耳。
「というか!! エルちゃんがそんな事をしてたら、そりゃあ誤解されてるよぉ〜」
通りでクラスメイトがエルちゃんと私が話してる時になんか微笑ましいものを見る顔をしてた訳だ。
「あら、エル。珍しく良い仕事してるじゃない」
「珍しくは余計だな。まぁ、でも一番の虫は君だったけどね」
「は、あんたの虫除けなんて効かないわよ。文句あるなら勝負しなさい」
「……はぁ。紫亜の気持ちが大事だからね。君のような野蛮な考えはしないよ」
あれ、エルちゃん。優真とテストで勝負したじゃん。なんて思ったけど、余計な事を言わない方がいいかと黙った。
それにしても、この二人。本当に相性悪いなぁ。あんなに優しいエルちゃんが息を吐くように嫌味を言うのは相当だよ。
なんてぼんやり思いながら、口喧嘩をしている二人をBGMに紫亜ちゃん特製のミニハンバーグを食べるのだった。
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