京都旅行 3
「紫亜ちゃんは今、大変怒っています」
新幹線の中、不貞腐れながら窓を見つめる私。
「……ごめんってば」
せっかく新幹線に乗るのだから、乗ってる時に食べるおやつを駅で買おうと吟味してたのに、優真が私の事をずっと急かすから一つしか買えなかった。
「じーっと見てたから、眺めてるだけかと思ってたら、まさかそんなに吟味してるとは思わなかったのよ。それにさっきご飯食べて出て来たし」
「ご飯とおやつは別なの〜」
ポカポカと優真に怒りながら叩くとノーダメージだろうけど、何となく申し訳なさそうな顔はしている。
「車内販売でなんか好きなの買ってあげるから、それで機嫌直してくれない?」
「あ! そっか! 車内販売〜♡」
お菓子にジュースにアイス〜!! うーん。何にしよう。
「……本当に現金ね。あんた」
そんな呆れ顔の優真から、車内販売でアイスとお菓子とジュースを買って貰い、ご機嫌だ。
「ふっふっふ〜ん♪ シンカンセンスゴイカタイアイスだ〜♪」
スプーンを入れても、固くてスムーズにスプーンが入らない。
「むむむ〜」
車内販売でお菓子は買った事あるけど、アイスは買った事無かったなぁ。
「ちょっと貸してみて」
「あげないよ!?」
アイスをサッと隠すと優真はジト目で私を見る。
「……要らないわよ」
ジト目の優真はため息をつきながら、私からアイスを受け取り、抉る。
「ふーん。思ったより固いわね」
「いや、なんで普通に掘れるの〜」
「まぁ、私はね。それより食べなさいよ……中々、溶けないだろうけど」
優真は自然にスプーンを私の方に向けてくれる。
「ほら、あーん」
「あーん」
少し恥ずかしくはあるけど、もう優真とは恋人だし躊躇う必要はないだろうと素直に口に入れる。
「アイス、冷たくておいし〜」
「そ、それなら良かった」
心なしか、優真は満足気だ。
「でも、私はサクサク食べたいけど無理だなぁ〜。もう少し溶けるの待つ〜」
私は優真じゃないから、素の力でアイスを食べられそうにない。
「それなら、私がさっき一緒に買ったホットコーヒーの蓋の上に乗せて食べたら少しは溶けるんじゃない?」
「そっか〜。思いつかなかったや〜。でも、優真はいいの? 私が食べてる間、飲めないよ?」
「いいわよ。別に。何となく頼んだだけだし」
「それなら、いいけど〜」
言われた通りに優真のホットコーヒーの蓋の上にシンカンセンスゴイカタイアイスを乗せる。
少しずつ掘っていき、口に入れる。めっちゃ冷たい。けど、外は暑かったから美味しく感じる。
しばらくして、ホットコーヒーで溶かしながらアイスを食べ、食べ終わったので優真のホットコーヒーを返す。
「少し冷めてるかも〜」
「別にいいわよ。直ぐ飲むし」
そう言って直ぐに飲みきる優真。そんなに喉が渇いていたのだろうか。なんか申し訳ない。
「なんか、ごめんね?」
「喉渇いてるとかじゃないから、大丈夫よ」
そう言って頭を撫でてくれる。優真の手はなんだか安心する。
優真は普通にミネラルウォーターが売ってたから、それを飲むかと思ってたけど意外とホットコーヒーでびっくりした。
……けど、私がアイスも食べたいな〜って言った後に優真がホットコーヒーも頼むって言ってたから、もしかしたら、私がアイスに苦戦する事も見越してたんだろうな、とは思う。何だかんだ優しい。
それから、買って貰ったジュースとかお菓子を頂いてる間に京都に着いた。
「東京から京都って二時間くらいなのね」
「そーだよ〜。前はお姉ちゃんに連れてきて貰ったんだ〜」
「本当にあんた、家族と仲良いわね」
「うん。大好き〜」
前は偶然、都希姉が京都に旅行に行きたいと言ってたので、両親の思い出の旅館に私も久しぶりに行ってみたいとつい、零したら、都希姉がフットワーク軽めに「いつ行く?」と聞いてくれた。
そして都希姉が仕事がない日に行く事になって、そのまま新幹線で京都まで行った。
都希姉は結構甘やかしてくれたので、一緒に美味しいスイーツ巡りしたり、旅館で美味しいもの食べたり、両親が連れて行ってくれた茶屋にまた行ってみたいなと行ったら連れて行ってくれた。
……あれ、食べ物の記憶ばかりだ。梅昆布茶も美味しかったし。
それから、京都の空気を久しぶりに感じながら古風な外観の旅館「紫乃」に荷物を預け、そのまま二人で周辺にお昼ご飯を食べる所がないか散策する。
「お、お蕎麦だ〜」
歩いているとうどんそばのお店を見つける。食品サンプルの天ぷらそばが美味しそう。
「ここに入る?」
「お腹すいたし、そうしよ〜」
「お腹すいたって、……まぁいいか」
優真はジト目で私を見た後に言葉を飲み込んでから私に続いてお店に入ってきた。
席に案内されて、メニューを見る。
「ほうほう〜」
お蕎麦も良いけれど、ひつまぶしも美味しそう。あ、この鶏の炊き込みご飯とお蕎麦かうどんを選べるハーフセットも。
「うーん。悩む〜。優真は決まった〜?」
「ざる蕎麦」
「はっや」
「目に付いたから」
メニューを指差して、そう答える優真。
本当に食にこだわりないなぁ〜。私と正反対の人種だぁ〜。
「んじゃ〜。私はこのカツ丼とお蕎麦のセットにする〜」
結構色々悩んだが、普通サイズのカツ丼にハーフサイズのお蕎麦にした。
優真が店員さんを呼んでくれて、注文をしてくれた。
ぐぬぬ……。隣のテーブルでカツ丼食べてたおじさんが美味しそうに食べてたのが悪い。
「本当に紫亜って影響受けやすいわね」
「だって、美味しそうだったんだもん〜」
テーブルに肘をつきながら、私を見ながら微笑む。
それから、お昼を食べ終わり、また京都を散策する。
「ふっふっふ〜ん♪」
「ご機嫌ね」
「お蕎麦もカツ丼も美味しかったからね〜♪」
スキップしながら、歩いてると優真は微笑みながら私の後を歩いている。
「それでどこ行くの?」
「食べ歩き♪」
「は」
シンプルにさっきお昼を食べたのに何言ってんだこいつ、と優真の顔に書いてある。
「優真こそ何言ってんの! せっかくの京都なんだよ!? 美味しい、茶屋がそこらじゅうにあるんだよ!?」
思わずいかに美味しいものがあると、それから長々と熱弁すると優真はもううんざりした顔をしていた。
「……将来フードファイターになれば」
「それも良いかもね! 食べるの好きだし!」
そうご機嫌に歩いていて、目に付いた茶屋に歩き出した。
「優真! ここのお団子美味しいよ! みたらし団子!」
その茶屋でみたらし団子を買って、一口食べた後に私がそう優真を呼び掛ける。
「それ、一口くれない?」
「いいよ! はい」
二本あるので食べてない方のみたらし団子を優真に向けるが食べない。
「……食べかけの方でいいわよ。さっき食べたから、一本まるまるはもうキツイ」
優真はせっかく来たから、何か食べなければという顔をしている。何だかんだ律儀だ。
言われた通りに食べかけのみたらし団子を向けると一口食べた。
「確かに美味しいわね。もう少し歩いてさっきの昼を消費してたら、もっと美味しかったかも」
少し悔しそうにしている。でも、それくらい美味しいから気持ちは分かる。私はデザートは別腹なので、まだ食べられるけど。
「ん〜。じゃあ、少し遠くの茶屋が梅昆布茶とかお饅頭が美味しいお店らしいからそこまで歩こ〜」
みたらし団子を食べながら、目を付けていた茶屋の情報をスマホで出して、そのスマホを見せる。
「三十分くらい歩くのか……それなら、少し消費はするかも」
それから歩いて次の茶屋へ。
「うーむ。このお饅頭、奮発して自分へのお土産に買おうと思ったけど、値段が可愛くない〜」
絶対美味しい筈なのに高い。五千円くらいする。うーん。我慢しようかなぁ〜。
ここで五千円失うのは少し考える。他のお土産だったら、もっと買えるとつい考えてしまう。
「優真はなんか買う〜?」
「紫亜が悩んでる間にもう買ったけど」
「はやっ」
本当に紙袋にもう入れてもらっていた。
「優真にしては多いね〜」
面倒だから、少なめのお土産にするかと思っていた。
「流石に家へのお土産に、ね。ここの茶屋、美味しいんでしょ」
「うん。そうだよ〜。さっき一緒に梅昆布茶とぜんざい食べたでしょ〜」
私はそれに三色団子を食べた。優真はそんな私を凄い顔して見てたけど。
「紫亜の胃袋ってブラックホールなの?」
「え〜。違うよ〜」
「そう思う程、あんたは食べてるのよ」
げんなりしながら優真は「好きなのゆっくり選びなさい」と言って、私を待っていた。
好きなだけ茶屋以外も食べ歩きしてお土産買って旅館に戻る。心なしか優真はぐったりしていた。
「夜ご飯、食べられるかな」
「私は入るよ〜」
「あんたがおかしいのよ」
ジト目で私を見て、優真はため息をついた。
「あ、そだ。温泉付いてる部屋なんだよね〜。客室内露天風呂〜」
お高めの部屋だけど、両親と小さい頃にここに泊まった事はぼんやり覚えてる。
「そんな良い部屋に泊まらせて貰ってたのね」
「もちろん。おっきいお風呂にも行けるよ〜」
おっきいお風呂の方は朝風呂にでも行こうかなと思っている。
「ふーん。そう。紫亜」
「ん? なに〜」
「その大きいお風呂、今から行かない? 今から行けば夕飯までの時間潰しにもなるでしょ」
「あれ、部屋にもあるけどそっちは?」
「……夜、どうせ運動するから、その後でも良いんじゃない?」
夜。運動。その言葉に察する私。
「えーっと、す……するの?」
昨日我慢してたとは言っていたが、本当にやる気だとは思わなかった。
「むしろ、今日だからたっぷり愛してあげるわよ。紫亜」
にっこりと不敵な笑みの優真。
そんな優真に私は少しため息をついて、優真が言うその運動をしたら、朝におっきいお風呂に入れないもんなぁ〜、と内心思うのだった。
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