遊園地 3

「紫亜……!」

「エルちゃ〜ん!!」


 ベンチでエルちゃんを待ってる間にフランクフルトを二つ持って先に一つ食べてる私。


「はい。一個あげるね!」

「ありがとう」


 問答無用でエルちゃんに渡す。 


 もう夕方の綺麗な夕日は落ちかけていて、夜の世界が少しずつ侵食してくるような時間だ。


 そんな空を見ながら、エルちゃんと二人でフランクフルトを食す。食べ終わると、エルちゃんがゴミを捨ててくれて、そこから夕飯時なのでお店を見て回っていた。


「エルちゃん、ここのお店、美味しそうだね〜」

「そうだね。ここにしようか」


 エルちゃんは私に何にも聞かずに同意してくれる。


 それは多分、私が声色と表情が一致してないからだろう。きっと私は情けない浮かない顔をしている。


 私はハンバーグオムライスを頼み、エルちゃんはハンバーグの鉄板焼きとご飯のセットを頼み、食べる。そして、デザートのパフェも食べて、次の店では動物の形をしたパンを買って、ベンチで二人で食べる。


「……付き合ってくれてありがとうね。エルちゃん」


 パンダの形の可愛らしいパンにかぶりつきながら、気休めで買った黒烏龍茶をゴクゴク飲む。


「ふふっ。付き合うって言ったんだから、付き合うよ」

「エルちゃんやさし〜! ありがと!」


  なんて精一杯の笑顔で言うとエルちゃんは微笑んでくれた。


 パンも食べ終わるとエルちゃんが「ちょっと待って」と言って鞄を漁る。


「はい。これ。少し早いけど、お誕生日おめでとう紫亜」


 そう言ってエルちゃんに渡された物はいつもエルちゃんと行くカフェのお食事券二千円分とハンドクリームだった。


「え、この金券良いの!? 後、このハンドクリーム良い匂いする!! ありがとう!!」

「良いよ。この券はカフェのキャンペーンで当たった物だし、本命はハンドクリームだから気にしないで」

「それでもありがとう! 誕生日を覚えててくれたのが嬉しい!」


 他に私の誕生日を覚えてて、面と向かって私に「おめでとう」を言ってくれる人は今の家族くらいしか居ない。


 ……優真も知らないし、優真が知らないなら、中学生の時はたまにしか喋らなかったれーなちゃんなんてもっと知らないだろう。


「覚えてるよ。紫亜は親友だからね」


 キメ顔で言われてもエルちゃんなら嫌味がない。本当に眩しい。……そして、暖かい。


「ふふっ。ありがとう! 洗い物してると手が荒れるので、容赦なく使わせてもらいます!」


 敬礼のポーズをするとエルちゃんは笑う。


「そうしてくれた方が嬉しいよ」


 そうしていると少し遠くの方がナイトパレードをやっているみたいで光がチカチカしている。


「パレードだ……」

「行きたいかい?」

「ううん。いい。私、エルちゃんと遊んでる方が楽しいもん」

「紫亜……」


 エルちゃんは何かを言いかけて辞める。気を遣ってくれている。


「エルちゃん、振られちゃった」

「……そうか」

「失恋ってしんどいね……」

「ふふっ。知っている」

「エルちゃんは優しいね。私は無理だ〜!! しばらく優真に会いたくない!! 引きずっちゃう〜!!」


 ベンチに大の字になって吐き出す。エルちゃんが聞いてくれているお陰か、少し胸がスっとする。


「もし優真と付き合えたらね。……明後日、一緒に両親の思い出の場所に行きたいから一緒に京都行こ〜って言うつもりだったんだ」 


 見ての通り、誘えなかったんだけどね、と強がる。 


「紫亜……泣きたい時は泣いていいんだよ」


そう言ってぎゅっと抱き締めてくれるエルちゃん。


「……ごめんね。涙、出ないや……悲しいのに……辛いのに」

「そうか……」


 なんだか、私の代わりに泣きそうな顔をしているエルちゃん。やっぱりエルちゃんは優しい人。


「だから、本当にありがとう。エルちゃん。……約束通り、次もナイトパレードは見ずにお店に行って次はデザートを食べよう! やけ食いだ〜!!」

「……ふふっ。そうだね。思う存分付き合うよ」


 宣言通り、私達は色々な店に行って食べたり、美味しそうな物を買ったりして、ロマンチックの欠片もない最後のデートをして帰った。


 帰り際、エルちゃんが家まで送り届けてくれて、感謝する。


「今日は楽しかった! また遊ぼうね! エルちゃん」

「私も楽しかったからね。またデートしようか。紫亜。……おやすみ」

「おやすみ〜!」


 元気よく手を振って、エルちゃんの後ろ姿が見えなくなるまで見送る。


 そして、私はポツリと呟く。


「本当にありがとうね。エルちゃん。エルちゃんが居なかったら、今日はこんなに楽しめなかったよ。エルちゃんは私の大切な親友だよ」

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