第5話 逃走

 骸骨が再び大きく口を開けた。そのまま、私の頭の上に口を降ろしてくる。頭から嚙みつこうとしているのだ・・


 そのとき、私の手に何かが引っかかった。見ると・・私のパンプスにツルのような雑草が一本だけ絡みついていた。この屋敷に入るとき、庭の下草の中に混じっていた、あのツルのような雑草だ。


 私は絡みついていたツルをパンプスから急いで抜き取った。そして、それを眼の前にあった二本の骸骨の足に巻き付けて・・思い切り手前に引いた。


 ガシャーンという音が廊下に響いて、骸骨が床に倒れた。埃が舞った。見ると、

骸骨の首が取れて・・床に転がっていた。


 私は慌てて立ち上がった。


 すると、首の無い骸骨の身体も床から立ち上がって・・なんと、両手で床の首を拾い上げたのだ。骸骨はその首を両手で、肋骨の前に持ち上げた。首の無い骸骨が、自分の首を両手で胸に掲げ持っているのだ。両手の中の首の口が開いた。


 「おのれ・・このあま。もう、許さないよ」


 そう言うと、首の無い骸骨が、首を持ったまま私に向かってきた。


 「キャー」


 私は骸骨に背中を向けて逃げた。


 私の後ろから、ガチャ、ガチャ、ガチャ・・という音が響いた。振り返ると、骸骨が走ってきている。恐怖で私の背筋が凍った。


 私は夢中で廊下を走った。床のカーペットが私のパンプスを包み込んで・・私を減速させた。骸骨との距離がどんどん縮まる・・


 私は右足のパンプスを脱いで、骸骨に投げつけた。パンプスが骸骨の両手の中の首に当たった。首が乾いた笑い声をあげた。私は左足からもパンプスを抜き取って・・もう一度、投げつけた。今度は・・骸骨の首があった場所に飛んだ。パンプスは骸骨の身体を飛び越えて・・廊下の向こうに消えていった。両手の中の首が再び笑った。


 「女。もう諦めな! あはははは」


 私はストッキングだけになった足で、絨毯の上を懸命に走った。今度は走りやすい。しかし、骸骨はもっと速かった。骸骨が私の背中に迫った・・


 そのとき、廊下が終わって、私はあの玄関ホールに走り出た。


 もう少しだ。ホールのドアを開けると、外に出られる・・


 すると、私の背中に何かが当たった。振り向くと、骸骨が片手で首を持って、もう片方の手を私に伸ばしてきている。その手が背中に届いたのだ。


 捕まる!


 私は咄嗟に横にあった大きな花瓶を両手で抱えた。それを思い切り骸骨にぶつけた。


 花瓶は骸骨の伸ばした手に当たった。その瞬間、花瓶が粉々に砕け散った。骸骨の骨だけの腕が肩から飛んで・・放物線を描いて床に落ちた。ゴトリという音がして、床から埃が舞いあがった。骸骨が手で持っている首が、その取れた腕を見て笑った。


 「イッヒッヒッヒ・・」


 骸骨は不器用なしぐさで床にしゃがみ込むと、片手に持っていた首を床の上に置いた。そして、その手で落ちている腕を掴むとそのまま持ち上げて、自分の肩に当てがった。カチャリ、カチャリと骨が組み合わされる音がして・・・腕が肩にはまった。骸骨がその腕をくるくると円を描くように動かす。床に置かれている首がもう一度笑った。


 「イッヒッヒッヒ・・」


 骸骨は床の首を両手で持ち上げると、再び私に向かってきた。今度はゆっくりと歩いてくる。


 私は斜めに玄関ホールを突っ切って、玄関の鉄製のドアに走った。ドアのノブに手がかかった。思い切りノブを引いた。ドアの外に向かって、声が出た。


 「誰か助けて~」


 ドアは開かなかった・・


 今度はノブを回しながら押してみた。ドアはピクリとも動かない・・

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