「バイバイ。今までありがとう、元気でね」
Yuki@召喚獣
「バイバイ。今までありがとう、元気でね」
僕には昔、同じ村で一緒に育った女の子のパーティーメンバーがいたんです。いわゆる幼馴染ってやつですね。
年も同じで、誕生日も近くて、ちょっとした兄妹みたいに育ったんです。僕の方が先に生まれてたから、どっちかっていうと僕が兄って立ち位置で。
ただまあ、同い年っていうこともあってそういうどっちが上か下かっていうのは二人ともあんまり気にしてなくて。状況によってはその子が姉みたいに振舞うこともあったり。
とにかく、なんていうか……まあ、仲が良かったんです。そんなに大きな村じゃなかったので、あのまま村にいればたぶん僕はその女の子と一緒になって、家庭を持っていたと思います。
ただ、僕は今こうして取材を受けているように、村を出て冒険者になりました。あの頃の僕はとにかく生意気というか、「自分はこんな小さな村で終わるような人間じゃない!」なんてうぬぼれていたというか。早く大人になって村から出て、一流の冒険者になって世界に名を轟かせるんだ! なんて躍起になっていました。
今ならまあ、別にそんなことをしなくたって村で人並みに生活してれば、人並みに幸せになってたんじゃないかって思いますし、そういう幸せが本当は自分には身の丈に合ってるんじゃないかって思います。あんまり僕みたいな人間がこういうことを言うといろんな人から怒られちゃうかもしれないですけど。
――なんで冒険者だったかって? それはまあ、小さい村の出身の、何のつてもない人間が一旗揚げるには冒険者になるのが一番ですから。それに、小さい頃から体を動かす事だけは得意だったもので……まあ、何も知らない子供だったんです。……笑ってくれていいんですよ?
……話を戻すんですけど、そんな子供だった僕に付き合って一緒に村を出てきてくれたのが彼女だったんです。
村を出たのは成人してすぐでした。それまで自分なりに準備は重ねていたので、特に村を出て行くということに抵抗はありませんでした。強いて言うなら彼女と離れてしまうのが寂しいかな、というところだったのですが、僕は僕の夢というか、思いを優先しました。
村には冒険者の登録所が無かったので、一番近くにあった街まで歩いて行きました。そしたらそこに、彼女がいたんです。僕の先回りをして「あんたならここに来ると思った」なんて言って笑われました。
正直に言うと、彼女がそこにいたことは僕にとって予想外で、それでいてとても嬉しく感じたものでした。自分一人で決めたこととはいえやっぱり一人で旅をするのは寂しいだろうな、なんて自分勝手な思いを持っていたのも事実だったので。
だから、彼女がそこで一緒に行ってくれると言ってくれたことは、僕にとって今でも忘れられない思い出です。
それからしばらくは、彼女と二人で冒険をしました。四苦八苦しながらも冒険者登録を済ませて、小さな、簡単な依頼からコツコツと始めていきました。
その当時の僕は向こう見ずな性格だったもので、早く上の階級に上がりたくて無茶な依頼ばかり受けようとしていました。その度に彼女に止められて、言い合いになって……最後は毎回僕が折れて安全な依頼を受けていました。……僕が彼女に優しかったとかそんなことは全然なくて、恥ずかしながら僕は彼女に口喧嘩で勝ったことが一度もないんですよね。
今なら彼女の選択が正解だったってよくわかります。実力も実績もない駆け出しは、まずは安全な依頼をこなしていって信頼と実績とお金を稼ぐべきなんです。そうして少しずつ装備も、持ち物も更新していって、街の人や組合の人からの信頼も得ていくべきなんですよ。
遠回りのようでいて、それが一流の冒険者になるための最短の道でもあります。実力が伴っていない人は元より、実力がある人だとしても信頼や実績のない人には街の人も組合の人も信じて大事な仕事を任せてくれません。
そうして彼女のおかげで僕と彼女は少しずつ冒険者としての力をつけていきました。一年もする頃には若手の有望株なんて言われて、二年もする頃には時々街の人や組合の人から名指しで依頼が来るくらいの信頼を得ることができました。
その間僕と彼女はずっと二人でパーティを組んでいました。一時的に他の人を入れたりだとか、そういったこともしたことはありませんでした。二人で十分こなせる程度の依頼しか受けてこなかったので、必要が無かったんですよね。
ただ、もう二年も実績を積んできて、そろそろ次の段階へ行きたいな、という気持ちもその頃にはありました、組合の方からも昇級の話やもう少し大きな町への移動の話などもいただいていたころで。
だから僕は彼女と話し合って、とりあえず昇級をしようということで臨時でパーティを組み直すことにしたんです。
その当時、街では僕たち以外にもう一組同じくらいの実力のパーティがいて、その人たちと臨時でパーティを組みました。どちらも男女一組のパーティだったので、全員で男二人女二人の四人パーティですね。
数か月くらいは一緒に活動してたかな? パーティを組んでいきなり昇級試験という話にはならないので、まずは普段の依頼をこなしつつ、パーティの信頼や連携を高めていくということで。
臨時で組んだ二人は、どうでしょうか……その当時の僕たちと同じくらいの実力だったのは間違いないです。まあ、自分のことを棚に上げて人の実力をあれこれ批評するのは好きじゃないので、これ以上のことは控えさせてもらいますけど。……え? 言ってるようなものだって? いやいや、まさか……。
でも、まあ、人当たりは良かったですよ。朗らかで、物腰が柔らかくて。たぶんその人柄で街の人や組合の方から信頼を得ていっていたんだと思います。僕はまあほら、こんな性格ですから。
パーティの連携自体は上手くできていました、突出しがちな僕と、それをいさめる彼女と、そんな僕たち二人をサポートしてくれる二人とで、バランスよく動けていたと思います。
数か月間寝食を共にして、一緒に仕事をして、時には街に繰り出して遊んだりして……よく信頼関係を築けていたと思います。
その頃の僕と彼女の関係は、とても曖昧なものでした。恋人関係だったわけじゃないんですけど、はたから見たらそうとしか見えないくらいの距離感に見えていたでしょう。最初にも話した通り、僕が故郷にとどまったままだったら彼女と家庭を持っていただろうな、と思うくらいでしたから、当然その頃の僕が彼女に対して悪い感情を持っているわけはありません。
それどころか、恋心だって持っていたと思います。
ただまあ、人の心っていうのは複雑といいますか、自分でもよくわからないもので……。
さっさっと思いを彼女に伝えるなりなんなりしていればよかったのかもしれませんが、何故かその時の自分はその行為を後回しにして「冒険者家業なんていつ死んでもおかしくないんだから、思いを告げるのなんて迷惑になるんじゃないか?」なんて考えまで持っていたりして、結局その想いを彼女に伝えることはありませんでした。
そんなこんなで昇級試験の時、僕たち四人は一つのパーティとしてダンジョンに向かいました。昇級試験は知っての通り自分たちの階級よりも一つ上のダンジョンをクリアすることで合格になります。なので、その時の僕たちもその規定に則って自分たちの階級よりも一つ高い階級のダンジョンに向かいました。
序盤の攻略は順調でした。事前の訓練の賜物か、慎重に慎重を重ねたような準備のおかげか、本当に何も苦戦することなくダンジョンの中層まで辿り着くことができました。
ただそこまで行った時に問題が起きてしまって。
小規模な魔物のスタンピードが起きちゃったんですよね。
もちろん大規模なスタンピードは組合側も周期を把握しているので安心してほしいんですけど、自然のことなのでどうしてもこういった突発的なものも起こりうるというか。その当時の僕たちの運が悪かっただけなんですけど、そんなのは魔物側には関係ないので。
どうにかスタンピードに対処していたんですけど、僕以外の三人が負傷しちゃったんですよね。
死ぬような怪我じゃなかったんですけど、進むか戻るか迷うくらいの怪我で、しかも周りにはスタンピードであふれた魔物がうろついている状態でした。
僕たちは事前調査で把握していた小部屋に飛び込んで、なんとか態勢を立て直そうとしました。
その小部屋の中は比較的安全だったので怪我した三人を休ませて。進むにしろ戻るにしろ、三人が満足に動けるまで回復するのを待ちつつ外の魔物をどうにかする必要がありました。
もちろん比較的安全とはいえ、ダンジョンの中ですから放っておけば魔物がやってきますし、スタンピードの場で魔物除けの香なんて焚いたら、逆にそこに人間がいると魔物に知らせるようなものですから、うかつに焚くこともできずに。
気休め程度ですが匂いけしの薬草を煎じて小部屋で休み始めました。
彼女はヒーラーだったのですが、その時は魔力切れで満足に魔法を使うことができませんでした。もう一人の女性のメンバーは魔法使いでしたが、状況は一緒です。
男性のメンバーは盾役で、一番に魔物の攻撃を受け止めていてくれていたので、負傷もそれなりだったと思います。それでも動けないというようなことはなかったのですが、これ以上戦闘を続けるわけにもいかず。
彼女たち二人の魔力が回復するまで、小部屋で休憩するという当時の判断は今でも間違っていなかったと思います。
いや、そもそも何の判断が間違っていたかなんていうのは誰の視点で物事を語るかで変わってくるものでしたね。たぶん、僕以外のメンバーからしたらその時の判断は全て間違っていなかったんだと思います。
三人が休憩している間、僕は部屋の外の魔物を減らすことにしました。
その時怪我をせずに満足に動けたのは僕だけでしたし、部屋の中でじっとしているだけだとそのうち魔物に見つかってしまう恐れもあったので。流石に魔物の群れの殲滅なんていうのは無理でしたが、部屋の外をうろついている魔物の数を減らすくらいならできましたから。
だから、僕は「外の魔物を減らしてくる」って言って部屋の外に出て行ったんです。
一人で戦うのは正直に言って大変でした。当時はまだ今ほどの実力もありませんでしたし、いくらそこまで階級の高いダンジョンじゃなかったとはいえ、そもそも当時の僕の階級よりも上のダンジョンでしたからね。
それでもやっぱり、皆で一緒になって無事に帰りたいという気持ちがありましたから、自分にできる範囲で精一杯魔物の数を減らしていきました。
しばらくしてある程度部屋の周りの魔物の数を減らして、僕の息も上がってきた頃合いでした。流石に一度戻って休憩して、今度は皆で行動しようと思って部屋に戻ったんです。
そしたら、まあ、なんていうか……。なんでしょうね? 何と言えばいいのかちょっとよくわかんないんですけど。
部屋に残した三人が、服をはだけさせて交わっていたんですよね。
まあ僕が見たのは正確には臨時のパーティの二人がそうやっていて、彼女がそれを近くで見てるとか、そういった光景だったとは思うんですけど。僕に他人の情事をまじまじと見る趣味なんて無いので、そこまで細かく見たわけじゃないんですけど、まあたぶんそんな感じだったと思います。
それを見て、そりゃまあいろんなことを思いましたよ? いや僕が一人で戦ってんのに何やってんの? とか。馬鹿じゃないの? とか。でも流石に死ぬかもしれない状況で何も考えずにそんなことするわけないだろうし、何か理由でもあるのか? とか。
もちろん僕は彼女とそういう関係になってはいなかったので、ショックだったというのもありました。
これがダンジョンの中じゃなかったら僕はもしかしたらその場に飛び込んだかもしれません。別に怒るとか怒らないとか、そういうことじゃないんですけど。まあ感情ってそういうものですし。彼女とはそういう関係じゃなかったので僕が怒るっていうのも本当なら筋違いではあるんですけどね?
ただ、その時はダンジョンの中だったので。その光景を見ていろんな思いとか考えが頭の中に駆け巡ったのとは別のところで、冷静な冒険者としての部分が「見なかったことにして、いったん時間を空けてからまた来よう」って訴えかけてきたんです。
ここで僕が下手にそこに入ることで、パーティの連携やら何やらが崩れてしまうことが一番生存率に関わることだからって。三人がそういうことをしているっていうのを僕に知らせなかったっていうのは、僕には知られたくなかったってことなんですよ。
それなのに僕がそこに入ってしまうと、その後のパーティでどうしたらいいかわかんなくなっちゃうじゃないですか。見られたくないことを見られるのが一番嫌なことに決まってますからね。
だから、僕一人が見なかったことにすれば、とりあえずこのダンジョンは切り抜けられるだろうって。僕が見なかったことにすれば、その行為も無かったことになって、僕が気にしなければ連携もそれまで通りにできるって。
実際、また時間を空けて部屋に戻った時はその行為は終わっていて、三人ともいつも通りに迎えてくれました。
そこそこ時間を潰したからか、女性二人の魔力も回復していたので負傷も直して、僕たちはダンジョンの奥に進むことにしました。
本当は一度引き返して態勢を立て直したほうがよかったのかもしれません。でも、その当時の状態でも十分にダンジョンの奥に行ける算段があったことと、何より、やっぱり僕が心の奥ではさっさとこのダンジョンをクリアして昇級試験を終わらせたいという思いが強くなってしまったというのが大きかったと思います。
だって昇級試験が終わらないと臨時パーティをずっと組んだままじゃないですか。あの光景を見た後に、ずっと同じパーティを組んでいたいと思う人、いますか? まあ中にはいるかもしれませんけど、少なくとも僕はそう思いませんでした。
だからさっさとダンジョンをクリアして昇級して、パーティを解散させようって思ったんです。
それから数日かけてダンジョンの深層まで行きました。正直、スタンピードが起こった後だったので魔物の数が多く、苦戦したのも確かです。でもスタンピード直後よりはやりくりも上手くいっていたので、ダンジョンのクリア自体は危なげなくできました。
その間、彼らがそういう行為に及んでいたかはわかりませんよ。知りたくもないし、見たいとも思いません。まあ、敢えてダンジョン中でパーティから離れるなんてことはしていなかったので、流石にあれっ切りだったのかもしれませんが。
ダンジョンから帰って昇級を済ませた後、僕たちはパーティを解散しました。臨時の二人からはこれからも一緒にパーティを組みたいというようなことを言われましたが、適当に言葉を重ねて断りました。
それから、彼女とも別れました。
今回のダンジョンで死にかけただろ、故郷に帰った方がいい。みたいな感じの言葉を重ねたと思います。僕はこれから先も冒険者を続けていくから、無理についてくる必要はない。みたいな。
本当の理由はそんなことじゃないんですけど、別に本当の理由を彼女に言う必要も無いと思ったので。
やっぱり、冒険者に一番必要なのは「信頼」なんですよ。背中を合わせて、命を預け合うんです。実力よりも信頼が大事なんです。パーティメンバーに隠し事とか、もっての外なんです。
それはやっぱり、僕も彼女も例外じゃないんです。
僕は彼らの行為を「見なかったことにした」という嘘を吐きました。口に出したわけじゃないし、その当時の誰かに話したわけじゃなけど、確かにパーティの皆に隠し事をしたんです。そして彼らも、もちろん彼女も僕に隠し事をした。
そしたらもう、駄目なんですよ。大事なことを隠すような人間に、命を預けるようなことはできません。命を預かるようなことはできません。
だから僕は彼らとパーティを解散したし、彼女とも別れたんです。この判断自体に後悔はありません。どうせあのまま一緒にいてもいつか破綻していました。それが早かったか遅かったかの違いです。それなら早い方が、僕のためにも彼女のためにも、もちろん彼らのためにも良いに決まっていますから。
後悔があるとすれば、別れる時に彼女が泣いていたことくらいです。やっぱり幼馴染ですからね。信頼が崩れたといっても、それまで積み上げてきたものがあります。まあそもそも信頼云々の話は彼女にはしていないんですけど。まあ、いきなり離れろ、故郷に帰れ、じゃあ納得できないのも無理はないでしょう。
でもまあ、僕だって別に納得いってたわけじゃないんですよ。はっきり言って、冒険者としては当時だって彼より僕の方が優秀でした。でも、あの場で見た光景からするに、人間として選ばれたのは僕じゃなくて彼だったってことです。結局、冒険者として優秀なことと人として魅力的だってことは別なんです。
だから納得はいってなかったんですけど、だからといってこれから先もパーティを組み続ける気にもならなかったんで。
「バイバイ。今までありがとう、元気でね」
って。そう言って別れました。
それからはまあ、一人で地道にコツコツと……とやっていたら、悪魔将軍討伐なんていうものがあって、今の僕になっちゃったんですけど。
……彼女のその後? 故郷に帰った、とは聞きましたけど。その後はさっぱり。流石にもう結婚してたりするんじゃないですか?
「昔の苦い経験を話してくれ」なんて変な取材ですよね。どのあたりに需要があるんですか? それ。……はぁ。結構人気企画でもう連載も五回目? 世の中には変な人が多いですね。
まあ、はい。それじゃお疲れさまでした。
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