階級《クラス》・奴隷《スレイヴ》5

しをおう

 名も無き預言者は混沌の世界の終末を予言していた。


【混沌の世に一人の男現れり。永き偽りは打ち砕かれ、真実が明るみになる。だがそれは二つの者を産み出す。即ち喜ぶ者と嘆く者である】


【二つを産み出すが一つに戻すのも男である。だが、期待してはならぬ。男にとって全て己の為なのだから】


【嘆く者の慟哭も、喜ぶ者の歓喜も、その男には届かず。男は神ではないし、聖者でもない、ただの人間なのだから】


【一つになって新たな混沌が起ころうが、男には興味のない事。必要ならば殺すし、奪うのも男。逆に与えるのも男である】


【喜ぶ者よ、それは新たな時ではない。始まりの時に戻ったと知れ。よってその道は艱難辛苦の道である。しかし受け入れよ。少なくともそれは偽りの道ではないのだから】


【嘆く者よ、諦めよ。その男にとって、それは些末な事に過ぎぬのだから。よってそなた等の思いは決して届かず。今まで延命できた事に寧ろ感謝せよ】

 

 6つの預言を基本とし、あるいは領主。あるいは村長。あるいは族長。その全てに預言を示した名も無き預言者だが、とある領地にはこんな預言を残したそうだ。


【男は元始に戻る。分裂した世界の更に混乱させるために。あるいは混乱を治める為に】


 その預言を得た純貴族は混乱するばかりであった。預言の者は一体何がしたいのだ?


 よってその純貴族は関わらぬようにする。自己都合を織り交ぜた偽りの預言を己の子孫に残して。


【男の出現には目を背けよ。さすれば我が一族は未来永劫、繁栄を保障されるだろう】


 子孫はその預言を頑なに信じた。先祖が貰った預言なのだから。だが、それを否とする者が現れるとは、その先祖も思いもしなかった事だろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る