第12話 ひとの恋路を邪魔する奴は・・・8
【峠での
さて、どうするかね。
女は使い物になるならわっちらの仲間にしてやってもいいが、白いセーラー服と、紺のブレザーの方を一瞥すると、
まあ、どっちも売り飛ばした方がよさそうだね。
で、野郎はどうするよ。
と、獣人。
そうさね。
と言って、二本の
取り敢えず、肉の塊になってもらおうか。
と、言い終わる前に、
あくまでも簡易的、彼等の武器は十手しかない、そもそも十手には殺傷能力を望むべくもなく、あくまで、身分証であり、護身、
眼の前では、獣人と千羅刹女の親玉が二本の小刀と二本の
気が付けば、
待ちな、と言いながら、空から二つの物体がまさに落ちてきた、それほどの速度だった、迫ってくる羅刹女の手下と十手持ち一行の間に割って入ってきたのは、
姉さん、こんな初物、こいつらなんかに渡す訳にはいかないねえ、と姉さんと呼ばれた
学生服は何のことか分からず、キョトンとしていたが、傍にいた白いセーラー服と、紺のブレザーはジト目で見ていた。
十手持ちは、そんなことはどっちでもいい、この場を切り抜けることが出来れば、と十手を構えたままそう思っていた。
峠の奥の方から、お親分遅れて申し訳ない、と口々に今度は獣人の手下がやって来た。
そこで、
今がチャンスとばかり、少しづつ混乱の輪から抜け出そうと十手持ち一行はジリジリと移動し始めた。
相変わらず、獣人と羅刹女の親玉は打ち合っていて、獣人が跳躍して、打ち込めば、羅刹が
はるか上空に跳躍した羅刹女を追うように、獣人も跳躍して、空中で
空中で、耳を
見ると獣人が地面に落下していくのが見えた。
鈍い音が、大地に響き渡った。
と、同時に羅刹女の親玉は一瞬の跳躍で、十手持ちの一行の傍に来た。
てめえ、と
二人折り重なって大地に叩きつけられ、うめき声を発するのが精一杯だった。
その薙ぎ倒した二人に目もくれず、顔は、目線はこちらを向けたまま、にじり寄って来た。
その時、上空から、お兄さまと言って、屋敷でハープを弾いていた少女がヤタガラスに乗って叫んでいた。
今お助けいたします。
と手に持っていたハープの弦を引き絞り、数十本の矢を
お兄さまに傷一つ付けて見なさい、骨の髄までこの世から消し去って差し上げてよ。
と、次の矢を
【
ようやく、王子一行は峠の入り口までやって来た。
が、その奥では、絶叫、刃と刃が打ち合う音、叫び声、金属同士が高速でぶつかる音、鬨の声、立木が裂け倒れる音、そして、
この先は
王子はしかし、
そう決心し手と足が同時に出ようが、前のみ見て一歩、また一歩と叫び声に向けて歩んでいった。
姫。
彼女とは、幼馴染で、隣国同士、遠い親戚もあって、生まれた時が一緒だった、その所為もあり、同じ年齢の、家柄も同じ位、隣国同士、そんなに仲も悪くはない、どうせなら、力を合わせて行こうという位の考えで親同士が決めた婚姻、いわゆる許嫁だった。
幼いころは彼女に泣かされっぱなしだった。
森で、山で、海で、川で、谷でありとあらゆる出先で、置いてけぼりにされたり、木の上に吊るされたり、沈められたり、流されたり、突き落されたり、そのたびゲラゲラ笑われて、バカにされていた。
そんな感じで、どちらかと言えば、彼女の方が活発で、というか、活発を通り越しているのだが。
かく言う王子はと言うと、学問が好きで、東洋哲学、西洋哲学をずっと研究できればと、異国の書物を読み漁っていた。
いつかは、自分に彼女を守れるだけの力、いや、せめて身代わりが出来る位の度胸が欲しい。その一点だけだった。
それは好きと言う感情だけでは言い表せない何かだった。
そんなことを知ってか知らずか、家臣は、
が、王子はそれを
この時、まだ、知らなかった、一人また一人と、武器を置いて兵士が戦列から逃げて行っている事に。
【断崖の城の事】
さあ、行きましょうと、控えていた
体中のあちこちが筋肉痛で
大丈夫か。
と、眼帯を掛けた、お姉様と呼ばれている彼女が、お姫様に声を掛けた。
その自分の状態を見られていることがまるで、昨夜の恥ずかしい所を見られているような、感覚になり途端に、顔が真っ赤になるのが分かった。
上空高く舞い上がり、2.3度旋回し飛ぶ先を確認し龍は一度羽ばたくと、目標の峠に向けて滑空していった。
龍の背中で姫は眼帯のお姉様を熱いまなざしで見ていた。
この人なら、きっと私を牢獄から解放して、自由の身にしてくれると。
何もかも、縛られ、息もできない様な毎日、あの日、この人と巡り合った時、自分の運命の輪が回り始めたと思った。
あの日は、毎日の息の詰まる一日を破るため城を脱走した。
龍の腰元に乗り、出来るだけ遠くへ、遠くへと。
やがて、
その場所が無法地区と分かったのは、悪名高い千羅刹女と、その名を名乗る女性が目の前に立ちはだかったからだ。
自分自身の身分が相当なものだと、分かっているが故、この後どうなるか容易に想像できた。
よくて、
いずれにしても只では済まない。
抗った龍である腰元など一瞬で、動かなくなり、虫の息になってしまった。
どうする事も出来ずただ、茫然としていよいよ、もう駄目だと覚悟を決めた、
その時。
このお姉様が、一陣の風の様にやって来て、一合、二合、と野太刀で、千羅刹女を弾き飛ばした。
そこからは、尋常ではない野太刀と
一刻後、
最後の一撃、千羅刹女の鉞を砕いて戦闘不能とし、私を救ってくれた。
たが、同時にお姉様の片目が持って行かれてしまった。
その時から私は、この方の片目になろうと決心した。
例え、不義密通と言われても。
そう回想しているうちに、目指す峠が視界に入った。
【麓の村の峠入り口の事】
さあ、
大八車数台に、米俵やら、海産物や、絹の反物や、とにかくありとあらゆる
やっと、峠の入り口に差し掛かった。
金太郎姫は、
さっさと運びな、今日明日中にはこの峠を越えて、都の領主様の所に貢物を持って行くんだ、わしは、負けることと、遅い事は大っ嫌いじゃ、このあたりの村の誰より一番に着いて、一番の貢物を届けるんじゃ。
負けたら、お前たち。
只じゃ済まねえからな。
と、腰に結わいていた、鞭を空高く
さあさ、何度も言わせんじゃねえ。
男たちは、その鞭の恐ろしさを知ってか知らずか、また、慌てて走り出した。
それを、大八車の俵の上で見下ろしながらゴロンと横になり、まさに大の字で
歳は十五、六の乙女なのだが。
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